四十六話 きょうだい。
タローとジェロはとある陰陽師の家系の元で産まれた異母兄弟だ。
ジェロが兄でタローが弟だ。
二人は複雑な家庭環境で育ったが、兄弟仲は良好だ。
彗が【水の島】と【木の島】のもの達を殺している最中、タローはジェロに連絡をした。
「ジェロ兄さん。協力してあの子供を殺しましょう。加賀見様と洞元様よりも先に。」
『了解。』
即決である。
二人は自分達の主人である洞元と加賀見の仲の悪さをよく知っている。二人が喧嘩をするたびに二人が仲裁したり尻拭いをしたり根回しをしたりと協力し合っていた。
今回もそうだ。
合流したジェロとタローの二人はまず剣達を探すためにタローが陰陽師の呪術で剣達の居場所を特定しその場所へと急行。
そして向かった先でちょうど箒達が死体兵士と共に転移して来た。
「あの死体を潰してくれ。」
「了解。」
事前に手に入れた情報から【飛間】の刀の能力を大体察していたジェロは死体兵士を先に潰すよう提案するとタローは即座に式神を使役して箒達が逃げられないよう死体兵士を潰した。
二人は慣れた様子でこれらの作業を短時間で考え実行に移した。
これまでもこれからも二人は自分達と自分達の主人に害ある存在を殺す為に息の合った連携をする。
まだ幼い子供であろうと二人は容赦なく殺す。今にも死んでしまいそうな相手であろうと全力で油断する事なく殺す。
それが自分達の仕事だから。
「怒鬼。あの子供を殺せ。」
タローは自分の式神である鬼の形をした式神を流達に差し向ける。
「くそ! くそっくそっくそがぁぁぁぁぁ!!」
流は全身から感じる痛みに耐えながら【花植】を式神に向け引き金を引く。発砲された弾は式神に何発か当たり爆発する。
だがタローが持つ式神の中でも一際耐久力の高い怒鬼にとっては耐えられる攻撃だ。攻撃を食らいながらも怒鬼は主人であるタローの命令を忠実に守り流に向かって拳を振り翳す。
「ひゃあああああ!!」
流は咄嗟に【花植】を地面に何発か打ち地面を爆発させる。その爆風に煽られ流は勢いよく飛ばされる。また新たな火傷を負うが怒鬼の攻撃を食らって死体兵士と同じように粉々になって死ぬよりはましと判断した。
「ひぃ。ひぃ。」
それでも受けた傷の数々は決して無視できるものではない。
斬り傷に火傷に打撲。精神的負荷も相当かかっている。
もはや立ち上がる事すら難しいほど流達は消耗していた。
「…死ぬ。このままじゃ死ぬ!」「やられっぱなしのわけにはいかねぇよなあ!」「あっ待て!」「あいつを殺せばいいんだろ!」
流と無理矢理交代し表に出た縁切は【花植】から【変花】に持ち替えてタローに向かって突進する。
もちろん途中で怒鬼が阻むが縁切は気力で体を動かして怒鬼から逃れる。
「伸び」
縁切はそのままタローを殺そうと【変花】の刃先をタローに向けて伸ばそうとするが
「させるか。」
それよりも速くジェロが縁切の前に立ち塞がり【変花】を蹴り上げる。
「ろぉ!?」
突然割り込んできたジェロによって無理矢理刃先を上に向けられる。予想外の妨害に縁切は対応できずそのまま【変花】を伸ばしてしまう。
「戻れ怒鬼。行け雷鬼。」
ジェロが作ってくれた縁切の隙を逃すタローではない。式神を引っ込めて別の式神を呼び出す。今度の式神は怒鬼と比べてほっそりとした体型の鬼だ。
雷鬼が出現したと同時にジェロが跳び退いて縁切達から離れる。その間、ジェロの足は地面から離れている。
「落とせ雷鬼!」
主人であるタローの命令に従い雷鬼は自身の能力である電撃を放つ。電撃の行方は天に向けて長く伸びた【変花】の刃先。
まるで避雷針のように電撃が【変花】に当たり持ち主である縁切が感電する。
縁切の体から漏れ出た電気が地面を焦がす。
「うっわえっぐ。」
跳んで地面からも縁切からも離れていたジェロは無事だ。
漂う肉の焼ける匂いと焦げている縁切の姿を見て顔を顰める。
「やりましたねジェロ兄さん。今回は僕がとどめを刺しましたから次があったらジェロ兄さんに譲りますね。」
ジェロの元に駆け寄るタローの言葉を聞いて、黒焦げになって倒れている縁切を見てジェロは気掛りを感じた。
「これは凄い! タローとジェロの見事な連携攻撃が【日の島】の将の今井 剣に直撃!」
上から声が聞こえたジェロは見上げると円板の上に乗っているしおんがこちらの様子を実況している姿を確認できた。
「…タロー。あのガキ、まだ生きてるぞ。」
「え?!」
将が死ねば【巫女】のもとに連絡が行き【巫女】はそれを観客達に伝える。それが【巫女】の仕事の一つ。
しかし、しおんは縁切及び剣が死んだとは言っていない。
ジェロは縁切達がまだ生きていると判断し警戒を続ける。
「そんな。あれだけの攻撃を受けて、ここに来る前だってあの子供ぼろぼろだったんですよ。【刀持ち】とはいえ死んでいなきゃおかしいですよ。」
「タロー。ここは【合戦場】だ。おかしい、ありえないが頻繁に起きるここで俺達の常識は通じない。それはお前だって分かってるだろ。」
あれだけの猛攻を受けて生きていると言われても信じられないタローだったが、ジェロの言葉を聞いて気を引き締める。
「そうでしたね。すみません。」
二人はいつでも動けるように身構える。そして縁切達から目を離さないように注意する。
そのおかげで変化に気がついた。
「あれ。なんだか縮んでいませんか?」
タローの言う通り縁切の体が縮んでいき青年の姿から幼い子供になっていく。
「縮んでるな。多重人格だっけ? あいつ人格が入れ替わると体の大きさが変わるみてーだな。」
「となると次は誰が来るんでしょう?」
二人は縁切から代わった誰かに対しても警戒を続け観察をする。
二人に観察されている誰かは起きあがろうとしている。
「…生きてる。」
致命傷を負っているにも関わらず動いている幼い少年を見てタローはぞっとした気持ちになる。
それがタローの動きを鈍らせた。
「危ねぇ!」
ジェロは叫びながらタローを押し飛ばす。
それによってタローに向けられていた攻撃がジェロの腕に刺さり、その衝撃と痛みで倒れる。
「兄さん! 守れ!」
突き飛ばされたタローはジェロに庇われた事に気がつく。そしてジェロに追撃が来るのが見えたタローは咄嗟に式神の雷鬼を盾代わりに動かす。
「兄さん! 兄さん!」
雷鬼が攻撃を受け止めている間タローは這うようにジェロの元に行く。
ジェロの腕に刺さっているのは鉄杭だ。先端が深々と突き刺さっている。鉄杭には白い布が巻き付いている。
「今抜くからね。」
タローは鉄杭を抜き止血しようと引っ張るが返しがついている為なかなか抜けない。
痛みで苦しむジェロの負担を考え今度は布の方を切ろうとタローは刃物を取り出して切ろうと試みるが切れない。
「なに、これ!」
「…タロー。逃げないならこれを抜け。」
「でもこれ、返しが」
「いいから抜け! 吸われてる!」
ジェロの言う通りだ。
鉄杭が針で布は管の役割を果たしている。鉄杭がジェロの血を吸い上げ白い布が血で赤く染まっていく。
「あの、あれ。速い奴を呼べ!」
ジェロの言葉と状態を見てようやく決心がついたタローは苦渋の表情を浮かべながら式神達に指示を出す。
「戻れ雷鬼! 来い走鬼!」
攻撃を受け止めていた雷鬼が消え、代わりに別の鬼が現れる。走鬼と呼ばれた式神はジェロの腕に刺さっている鉄杭を力ずくで引き抜き二人を抱えると即座にその場から離脱した。
「兄さんごめん! 意識はある?」
「なんとか。」
走鬼に抱えられながら心配してくるタローに対してジェロは痛みと喪失感に耐えながら答える。
走鬼に抱えられたまま逃げ切った二人は剣達からかなり離れた場所でようやく止まり下される。
「兄さん! とりあえず応急処置、を。」
鉄杭が刺さっていた方の腕が干からびてミイラのようになっていた。
それを見たタローは言葉を詰まらせ驚愕と恐怖が入り混じった顔をする。
「…くそ! しくじった。」
ジェロも干からびた自分の腕を見て驚愕するが、何とか気を持ち直す。
「そうだ。あのガキは流魑縷を殺したんだ。だったらあの女の刀を持ってるはずだ。ただのガキが、【刀持ち】を殺したんだ。甘く見ていた。」
ジェロは自分達の迂闊さを恥じた。
「…逃げるぞタロー。逃げて洞元と加賀見に報告するぞ。」
それが最善とジェロは判断した。
あの時、ジェロは攻撃を受けた時、それを繰り出した相手の顔を見た。自分達を見るドス黒い憎悪の目。自分よりも遥かに年下の少年に対してジェロは命の危機を察知した。
あの場に留まっていたら殺される。
ジェロは確かにそれを感じ取っていた。
敵は自分達の想像以上に厄介な相手だと確信したジェロは一刻も早くこの事を自分達の主人に知らせようと気力を振り絞る。
「行くぞタロー。…タロー?」
返事が返ってこない。
どうしたのだろうとタローの方を見るとタローはある方向を目を見開いて呆然と見ていた。
ジェロも同じようにタローが見ている同じ方角を見て、同じように目を見開いた。
「…マジかよ。」
二人が見たのは周囲のものを無差別に破壊している遠くから見ても分かるほど強大な白い塊だった。
「あのガキ、やりやがったな!」
ジェロは刀で自分の腕を刺した相手、剣が【刀持ち】だけが使えるとっておきを全開で使った事に気が付き、取り乱して叫ぶ。




