四十五話 進行するさび。
名無しの権兵衛と縁切が接触する少し前。
「あぁーと! これはどういう事でしょうか?! 【水の島】と【木の島】の陣営の戦地の上に雨が降ったと思ったら両陣営がえらい事に?! これはちょっと映像ではお見せできませーん!」
しおんの実況を聞きながら名無しの権兵衛はある場所に向かって走っていた。
「ここにいましたか。名無しの権兵衛さん。」
その途中、名無しの権兵衛は文太とアキノに出会った。
「文太さん。と…アキノ?」
「そうだよ。なんで分かるのかな?」
「何となく、かな?」
二人と出会った名無しの権兵衛は一旦立ち止まる。
「名無しの権兵衛さん。あなた確か用事があるから参加できないと言っていませんでしたか?」
「そうですけど変な奴に無理やりここに連れてこられたんですよ。」
不機嫌そうに言う名無しの権兵衛に二人は少し同情的な様子を見せる。
「うっわ災難だな。実行犯はどうしたの?」
「殺した。次は新しい【日の島】の大将か私を刺した奴を殺しに行くつもり。悪いけどそいつらのどちらかを殺すまでそっちは手伝う気はないですよ。」
「構いませんよ。そうしてくれる方が助かります。」
「居場所は分かっているの?」
アキノの質問に対して名無しの権兵衛は首を横に振る。
「知らない。今それらしい場所を探してるけど全然見つからない。」
「では名無しの権兵衛さん。私達と協力して【日の島】の将を討ち取りませんか?」
「え。助かりますけど、いいんですか?」
名無しの権兵衛にとっては文太からの提案は思いがけないものだ。
「はい。今井 剣の存在はかなり厄介ですからね。放置するわけにはいきません。早急に始末しなければいけません。」
文太にとっては名無しの権兵衛が厄介な存在である剣を殺してくれる事は望ましい事だ。名無しの権兵衛の支援をする事がもっとも早く剣を倒せると文太は考えている。
「私もいいよ。君と殺し合うにはあいつは邪魔だし、姫様もあいつを殺すと言っていたからね。」
アキノにとってはさっさと剣を始末して他の邪魔が入る前に名無しの権兵衛と殺し合いをしたいと考えているため協力を惜しむ気は無かった。
「ここは休戦しお互い協力しあって剣を探して討ち取るのべきですが、どうします?」
「もちろん協力します。さっさと殺して帰りたい。」
こうして急拵えの同盟が設立された。
文太が剣達がいる場所を突き止め、三人で手分けして向かって行った。
先に名無しの権兵衛が剣達の元に向かい、縁切が盾恒を殺害する所を目撃した。その時の縁切の声と言葉を聞いて名無しの権兵衛は自分を刺したのが縁切である事に気がついた。
◆◇◆◇◆
そして現在。
名無しの権兵衛と縁切は対峙していた。
名無しの権兵衛にとっては縁切は少々因縁があるのだが、縁切にはまったく心当たりが無い。
「誰だお前?」
自分を刺した相手の発言を聞いて名無しの権兵衛は苛立つ。
「そっか。知らないよね。見てないもんね。じゃあ教えてあげる。」
名無しの権兵衛は自分を刺した相手に会えて怒りの感情が湧いてくるのを実感する。
「私の名前は名無しの権兵衛。お前に恨みを持つ【刀持ち】だ。」
敵意を見せる名無しの権兵衛を見ても縁切は余裕そうだ。
「ふーん。オレを殺す気か。いいぜ。相手になってやるよ!」「…おい、まさか。待て縁切!」
名無しの権兵衛の刀【無名】を見た流は慌てて縁切を止めようとしたが、それよりも早く縁切が動いてしまった。
「伸び」
縁切は【変花】を操作して名無しの権兵衛に攻撃しようとしたが、縁切が刀を伸ばす前に名無しの権兵衛は縁切の間近に迫る。そして抜刀と同時に縁切を切り裂こうとする。
「ひっ!」
縁切が真っ二つになる前に動いたのは流だ。
流は強引に縁切と交代し怯え短い悲鳴を上げながらも【変花】から【花植】に切り替えて足元に向けて引き金を引き、弾が地面に着弾した瞬間爆発が起きた。
爆発と爆風によって名無しの権兵衛と無理矢理距離が取れた流は転がるように名無しの権兵衛からさらに遠ざかろうとする。その時、肩や胸に腹の辺りに痛みを感じ胸元に手を当てると血がべったりと付いていた。それが自分の血だと気がつくのにそう時間はかからなかった。
「ひぃ!」
自分が無理矢理介入していなければ名無しの権兵衛の手によって袈裟斬り寸前にだった事に気がついた流は戦慄する。
「おい! いきなり何するんだ! 今はオレの番だろ。」「そんな事を言っている場合か!」「そうよ! 兄様を傷つけるなんてゆるせない!」「そっちじゃ無い。急いで撤退するぞ!」「はぁ?! なんで逃げるんだよ。あいつは兄貴の体を斬ったんだぞ! このまま黙って逃げろっていうのか!」「そうだ!」「ふざけんな!」「ふざけてなどいない!」「おい落ち着け!」
きょうだい達が言い争っている。
それを見逃すものはこの場にはいない。
「いいからてったぎゃあっ!?」
流は背中に激痛を感じた。何事だと思い背中に手をやると突き刺さっているひし形の刃に触れる。
「逃がしませんよ。」
文太の言葉と共に突き刺した【開盲】の刃に貼られたお札を発動。発火する。
「ぎゃあああいあああああう??!」
突然の発火に流は動転しその場に倒れ火を消そうと転がり回る。
隙だらけの流にアキノは容赦する事なく攻撃を仕掛ける。止めを名無しの権兵衛に譲るために足を使えなくしようと苦無を投げる。
「このぉ!」
だがその攻撃は流と交代した箒によって阻止される。箒が操作した死体兵士が肉壁となりアキノの攻撃を防ぐ。
アキノが攻撃を仕掛けたと同時に走り寄りながら名無しの権兵衛は死体兵士ごと斬ろうと刀を構える。
それに気がついた箒は燃えて這いつくばりながらも死体兵士の足首を掴み刀の力を使わせその場から転移する。
◆◇◆◇◆
転移した後、彗の【花剰】によって作り出した大量の水によって体を焼いていた炎を消し止められた事でようやく一息つけると安心する箒達。
「これで、何とか」
しかし、現実は甘くなかった。
「怒鬼!」
蜂起の身長よりも遥かに巨大で逞しい腕が【飛間】の【刀持ち】の死体兵士を容易く砕く。
「…は?」
目の前で死体兵士が潰れる一部始終を目撃した箒の思考が止まる。
「馬鹿止まるな!」
思考停止してしまった箒に代わった流が急いでその場から逃げ出す。
その直後。
巨大な腕の持ち主は再び力を振り翳して今度は流を砕こうとする。
「わあぁぁぁぁぁぁっ!??」
その攻撃を流は逃れようと必死に走り、何とか直撃を避けたが剛腕の持ち主が勢い余って地面を砕いたせいで土や石の破片が飛び、それらが衝撃と共に流の背中に当たる。
「ひぎゃあ??!」
衝撃をまともに喰らいそのまま地面に倒れ伏す流。
その様子を少し離れた所で見下ろす二人。
「こいつだよなタロー。」
「そうだよ。ジェロ兄さん」
【水の島】の将の側近、ジェロ。
【木の島】の将の側近、タロー。
「礼儀知らずの悪ガキだろうが名乗ってやるよ。」
その二人が並んで立ち、何とか立ちあがろうとする流を睨む。
「【水の島】の将、洞元様の側近。名はジェロ。」
「【木の島】の将、加賀見様の側近。名はタロー。」
「やってくれたなクソガキ。」
「僕らの大将の配下のもの達に手を出した報いを受けてもらう。」
すでに満身創痍の流達相手に二人は手を抜く気は無い。容赦なく確実に殺す為に二人は動く。




