四十四話 さびる前兆。
天野の話が終わった後も観客達や【カッセン】に参加しているもの達は黙り込んでいた。あまりに衝撃的な事実に言葉が出なかったからだ。
今井 剣は
人を狂わせる血を持つ特異体質であり、
多重人格であり、
一つの体に五つの刀を宿す稀有な【刀持ち】であり、
流魑縷を殺したものである。
「つまり剣が【日の島】の大将! 【ショケイ】の実行をしたのも剣だよ。」
さらに追加で多くのもの達に衝撃を与える事実を伝える天野。
それによってか観客達や受像器ごしで書いていたもの達、そして【カッセン】に参加をしているもの達は膨大な情報を整理しようと隣のものと話し合ったり連絡を取って外のものに情報を伝えたりと大騒ぎ。
天野はその様子を見て楽しそうに笑っていた。
「時間は稼いだよー。」
天野の独り言に気がついたものは誰もいない。
◆◇◆◇◆
「なるほど。」
空に映し出された映像と音声によって天野の話を聞いて剣の正体を知った洞元は一人呟く。
「どうします洞元様。これ、かなりヤバいんじゃないんですか?」
ジェロは【水の島】の将である洞元に話しかける。
「そうだね。五つの刀を持つ【刀持ち】。確かに脅威だ。特に酸の雨を降らせた刀には注意しなければいけない。」
「あれはヤバいですからね。」
「加賀見よりも先に殺す。兵達に指示を出す。通信機器を持ってきてくれ。」
「了解です。」
◆◇◆◇◆
「なるほど。」
空に映し出された映像と音声によって天野の話を聞いて剣の正体を知った加賀見は一人呟く。
「どうしましょう加賀見様。これはかなりまずい状況ですよ。」
タローは【木の島】の将である加賀見に話しかける。
「そうだな。五つの刀を持つ【刀持ち】。特に酸の雨を降らせる刀には要注意だ。」
「あんなものがあればこちらの兵が全滅をする可能性があります。」
「洞元よりも先に殺すぞ。通信機器を持ってこい。俺が指示を出す。」
「分かりました。」
◆◇◆◇◆
【カッセン】が始まった直後、加賀見、洞元は同時刻に【日の島】のもの達との戦いを試みた。だが【水の島】と【木の島】が同時に動いた事によって激突し、そのまま殺し合いが始まった。
それ自体は皆慣れていた。
加賀見と洞元は常日頃から争いあっている。その上示し合わせていないにもかかわらず二人共同じ行動を取る。
加賀見と洞元はお互い血のつながりのある片割れに対しては妥協も譲る事もしない。何が何でも優劣をつけるために日々争い合っている。
剣の正体が発覚するまでの間両陣営は争い合っていたが、剣の正体が発覚した後は剣達の持つ刀に警戒して加賀見と盾恒はまた同時に配下のもの達に警戒させ対策を行わせた。
加賀見と洞元は特に酸の雨を作り出す刀に警戒してまず腕利きの術師達に命じて酸の雨を防げる結界を上空に展開させた。
その直後。
【水の島】と【木の島】の両陣営が争い合っている場の上空に分厚い雲が出来上がっていく。
剣達の持つ刀、【花剰】によるものだと気がついた皆が間に合ったと少し安堵した。そしてすぐに酸の雨による影響を受ける前に避難しようと動き出した。
異変が起きたのはその直後だった。
避難の最中、あたりに漂う甘い香りに気がつくものがいた。
出どころはどこだと思った瞬間、心臓が高鳴る。鼓動の速さは増していき、気分が高揚していく。体温が上がっていく。
一体自分の身に何が起きたのかと思った時、遠くで誰かが雄叫びを上げた。声がした方を見ると興奮した様子のものが近くにいたものを押し倒していた。周囲のもの達が止めようとしていたが誰も止める事が出来ずにいた。
それだけではない。
あちこちで同じような事が起きていた。敵味方関係なく興奮した様子のもの達が理性を無くして欲望のまま行動を起こしている。
これは異常だと思った。高まる熱と欲を我慢して通信端末を取り出して自分達の将にこの事を伝えようとしたが、同じように興奮したものに押し倒されてしまい阻まれてしまった。
◆◇◆◇◆
「素晴らしい。」
【水の島】と【木の島】のもの達が興奮した様子で欲望に従ってその場にあるものを様々な方法で貪っている様子を遠くから双眼鏡で眺めていた流は興奮を隠しきれない様子で言葉を漏らした。
「改良を重ねた甲斐があった。兄さんの血は僕の想像以上の効力があった。それを引き出せた僕も凄いが、何より凄いのは彗の刀の拡散能力! これがあってこそだ。」
【水の島】と【木の島】のもの達を狂わせたのは剣達だ。
流が剣の血を元に作り上げた薬を彗の【花剰】で増やし雨雲にしそれを【水の島】と【木の島】のもの達が争っている場所のど真ん中に降らせた。
流が作った薬とは剣の血の効力をさらに増幅させたもの。加えて気化してもその効力は失わず空気と混ざったものを吸ってしまっても効果が出る。
「やはり他人は利用するに限る。」
流は薬の試作品をお香にして信者達を使って人体実験して改良を重ねてきた。躊躇はなかった。罪悪感もなかった。
「もう、流! お姉様とよんでっていってるでしょ。」「あー。ごめんごめん。ついね。」
彗に叱られて少し冷静さを取り戻した流は改めて双眼鏡越しで狂乱している場所を見ながらきょうだい達に話しかける。
「ところでさ。これいつまで続ける気?」「大人を皆殺しにするまでだ。」「それ以外何があるんだ?」「剣お兄様をひどい目にあわせた人達をゆるせない!」「…そう。」
きょうだい達の答えを聞いて流は言いたい事を堪えて剣に話しかける。
「剣兄さんも同じ意見?」
返事は無かった。
盾恒の本音を聞いた後、剣は一言も喋らなくなってしまった。
「…まぁいいや。多数決で大人は皆殺し。いいさ。気が済むまで付き合うよ。次はどうする? 僕としては次は【火の島】がいいな。」「俺は構わない。」「オレも大人を殺せるならどこでもいい。」「彗も。」「分かった。あ、それと」
流は地面に横たわっている盾恒に視線を向ける。
引きずられ盾の代わりにされてぞんざいな扱いを受けて瀕死の状態だ。
「あれ、どうする?」「出来れば兄ちゃんに殺してほしいな。一応そいつは大将だから殺せば結構得点が入る。俺達だけってのもな。」「でも流石にそろそろ死ぬよこれ。」「そうだな。仕方がない。縁切。」「やっとか。任せろ。」
流から縁切に代わり、縁切は【変花】を手元に出現させ刃先を盾恒の首に向ける。
「あばよ。お父様。伸びろ。」
【変花】を伸ばしその勢いで盾恒の首を切断した。
「いよーし! クソお父様討ち取ったりー!」
「お前か。」
縁切が衝動のままに叫んだ時。
後ろから縁切に向けられた声が聞こえた。
振り返るとそこにいたのは一人の【刀持ち】。
「誰だお前。」
ずっと殺したかった相手を殺せて気分が良かったのに邪魔をされた縁切は不機嫌そうに防毒面の下で眉間に皺を寄せる。
「そっか。知らないよね。見てないもんね。じゃあ教えてあげる。」
【刀持ち】は怒りの感情を少し抑えて礼儀として名乗る。
「私の名前は名無しの権兵衛。お前に恨みを持つ【刀持ち】だ。」
そう言って名無しの権兵衛は怒りの感情を縁切に向けた。




