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るろうがぁる   作者: 日暮蛍
ふあゆう
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四十一話 発芽

盾恒達の姿が映像に映し出される少し前に時を巻き戻そう。


盾恒達が死体を集めそれを箒が地面に埋めて死体兵士を作り出し送り出した後、箒は盾恒にこう言った。


「約束だ。剣に会わせてやる。」


箒の言葉に盾恒は目を見開く。


「ついて来い。」


箒に言われるがままに盾恒と部下達はついていく。歩きながら箒は話す。


「剣のそばにはあの女がいるがそれ以外の奴はいない。」


あの女と言われて盾恒はすぐに流魑縷の事だと分かった。一刻も早く剣をあの毒婦のもとから救い出さなければと盾恒は決意を固める。


「ここだ。」


箒の案内で剣と流魑縷がいるとされている天幕の前にやって来た。【カッセン】が始まって少し経った後、箒が死体兵士を使って建てさせたものだ。

当時の盾恒達は自分達の陣地に何を建てているのだと申し立てたら


「剣と教祖様が待機するための場所だ。お前達は勝手に入るなよ。」


と答えた。

剣がいると聞いて盾恒達は助け出そうとしたが死体兵士が見張っていて迂闊に近づけなかった。


しかし、箒が案内した時には死体兵士がどこにもいなかった。


「俺が先に入る。入れと言われたらお前一人で入れ。いいな。」

「…分かった。」


箒が天幕の中に入っていく。

その後ろ姿を見送った盾恒はもしかしたら箒は味方なのではと考えを巡らせる。

死体兵士を天幕から離れさせ、流魑縷に会わせる絶好の機会を与えてくれた。未だに半信半疑ではあるが盾恒はこの場は箒の事を信じようと思った。それだけ盾恒は切羽詰まっていた。正体の分からない箒を信じたいほど盾恒は剣を助けたかった。


「どうぞ。」


天幕の向こうから女性の声が聞こえた。

流魑縷の声だと思った盾恒は箒の指示通り部下達に見送られながら一人で天幕の中に入る。

箒が言っていた通り、天幕の中いたのは剣と流魑縷だけ。他に誰もいない。

盾恒は警戒して流魑縷の行動を見る。

流魑縷の方は無表情で持っていた紙筒を盾恒に向けて投げようとした時、流魑縷の背後から物音が聞こえた。物音が気になったのか流魑縷は音がした方に向けて体を動かして盾恒に背中を向ける。

それを見て盾恒は絶好の機会と判断し、隠し持っていた短刀を手にし流魑縷の背中に向けて突進した。そして、流魑縷の無防備な背中に短刀を深々と突き刺した。

流魑縷は悲鳴をあげる事なくそのまま倒れた。

あっさりと殺せてしまったと思った盾恒はしばらくの間流魑縷の死体を見下ろしていた。


ここから。

ここから映し出された。

盾恒は知らない。ここからの会話と二人の姿が【カッセン】で生き残っているもの達も観客達が映像越しで見ている事を盾恒は知らない。気がついていない。


「父上!」


剣が放心していた盾恒に抱きついた事で盾恒はようやく剣を助け出せたと安堵し、剣の頭を撫でる。


「剣! よかった。怪我してないか?」

「父上。父上。」


剣は盾恒に抱きついたまま泣いていたが、どこか安心している様子。盾恒が助けに来てくれた事がよほど嬉しかったようだ。


「父上。助けに来てくれたのですね。」

「当たり前だろう。お前はワシにとって大事な息子だからな。」

「父上。」「どうして僕の事が大切なんですか?」

「お前の血を他のものに渡さないためだ。でなければ独り言を言う不気味な子など放っておくわ。」


そう言った後、やってしまったと言わんばかりに盾恒はすぐに口元を押さえる。


「ち、ちうえ。あれは、独り言じゃ」「独り言ではなく僕の中にいるきょうだい達と会話をしていたのです。信じてくれますか?」

「信じるわけないだろ。」


口元を押さえていた手を離して盾恒は質問に対して即座に否定の返答を返す。その直後に焦った様子でまた口を手で押さえるが、手遅れだ。盾恒はとっくの昔に取り返しのつかない事をしている。


「どうして信じてくれないのですか?」

「お前の言う事は全て構ってもらいたいがための妄言だと分かっているからだ。」

「妄言ではない。剣の言う通り、きょうだい達は確かにここにいる。なぜそう思う?」

「血しか価値のないお前が息子達や娘達の気を引こうとしていたのは見ていたからな。見ていて哀れだったよ。お前の言うきょうだいとやらはお前にとって都合のいい妄想の産物だよ。」


止まらない。いくら手で抑えようとしても質問をされるたびに盾恒は本音を口に出してしまう。

盾恒が本音を話していくたびに盾恒を見る剣の目つきがどんどんと冷たくなっていく。絶望した表情を盾恒に見せる。


「つまりお前はきょうだい達の存在を否定するのか?」

「否定もなにも、そんなもの存在していないだろうが。」


この言葉が決定的にとなったのか、剣は再び涙を流した。今度の涙は嬉しさの余り感極まって流れたものではない。信じていたのに裏切られた衝撃で流れた絶望の涙だ。


「…いない? いないと言うのですか。父上まで、否定するのですか。」

「違う! 今のは口が滑って」

「なにが違うのですか。流の質問には嘘をつけない。つまり父上はずっとそんな事を思っていたのですよね。」

「そ、それは」

「私の事はいい。だけど、私の、私のきょうだい達を、弟と妹を、よくもよくもよくも!」

「落ち着け剣。とにかく落ち着くんだ。」


激情する剣に気圧されながらも盾恒は剣に手を伸ばそうとする。


「最後の質問だ。剣を連れ帰った後何をするつもりだ?」


しかしその前に質問をされた盾恒は抗う間も無く嘘偽りのない答えを口にした。


「二度と妄言を吐かないよう口を塞ぎ可能な限り血を搾り取る。」

「伸びろ。」


答えを聞いた途端、剣の手元に槍のような武器が出現し口から出た言葉に反応して槍のようなものが急速に伸びて盾恒の太ももあたりに突き刺さる。


「ぎゃあ! な、何だこれは!?」


突然の痛みと武器の出現に驚く盾恒。それによって体が硬直してしまい挙動に遅れが出た。


「やっぱりか。」「ひどいわ。」「これは許せない。」「まだ殺すなよ縁切。とどめは譲ってやるからもう少し我慢しろ。」「了解。縮め。」


剣の口から出た言葉に反応して武器は縮みそれによって引き抜かれたが、攻撃は終わっていない。盾恒が反応する前に動く。


「えん」


縮んでもそこそこな長さがある槍のような武器で盾恒の横腹を思いっきり殴り盾恒の体制を崩し


「が」


その隙に盾恒に一気に近づき


「ちょ!」


石突の部分を盾恒の顎に向けると


「伸びろ!」


声に反応してまた槍のような武器が伸び、そのまま石突の部分が盾恒の顎に思いっきり当たる。

勢いよく顎に当たった衝撃で盾恒は後ろに向かって倒れ意識を失った。


「これでいいか?」「上出来だ。」「…父上。」


槍のようなものを手放して剣は盾恒に近寄ろうとした。


「盾恒様!」

「これは、いったい!?」


しかしそれよりも早く盾恒の部下達が乱入して来た。盾恒の叫び声を聞いて思わず駆け込んできた様子。この惨状を見て目を瞬かせていた。


「剣様! これはいったいどういう事ですか!? 何が起きたのですか?」

「…もういいや。」


剣は盾恒の部下達の質問には答えず一人呟く。

否。

唯一信用し愛しているきょうだい達に伝える。


「もういい。いい子のふりをするのはもうやめた。」「決心したんだな。」「うん。みんなの言う通りだった。父上は、私を愛していなかった。」

「剣様。一人で何を言っているので」


盾恒の部下の一人が屈んで剣の肩に手を置こうとした時


「兄ちゃんに触るな!」


箒の刀、【腐花】を手にして盾恒の部下の頭を殴りつける。

盾恒の部下はまともに食らった事でそのまま倒れ意識が混濁する。


「剣様! ご乱心されたのですか!? それに、それは、その武器は」


箒が何度も穴を掘っている姿を見て【腐花】に見覚えのある盾恒の部下は剣の手に【腐花】がある事に心底驚いていた。


「俺の刀だ。」


剣の口から出た声は剣のものではなかった。

盾恒の部下はその声に聞き覚えがあった。この声は箒の声だ。


「そして、兄ちゃんを守る為の力だ!」


変わったのは声だけではない。雰囲気と共に剣の体が蠢いて変形していく。背が伸び、顔つきが変わっていく。成長というよりも変化という表現が正しい。


体の次は格好だ。

体の変化に合わせて【刀装】を纏う。

藍色の軍服。

胸元には銀色、黄色、青色、桃色、赤色の五つの星飾り。

そして顔全体を隠せる防毒面。


「え。え。えぇぇぇぇぇ!??」


盾恒の部下は仰天した。

剣があっという間に箒に変わった。

どうやったのかは分からない。どうしてそうなったのか分からない。ただ目の前で起こった事に驚愕する事しかできなかった。


箒は驚きによって口をあんぐりと開けている盾恒の部下の頭を容赦なく【腐花】で殴りつけた。何度も何度も何度も何度も何度も殴って殺して、気絶させていたもう一人の盾恒の部下も何度も何度も何度も何度も何度も殴って殺した。

そして気絶して倒れたままの盾恒を見下ろしてはっきりと言った。


「俺達の大切な兄ちゃんを弄んだんだ。楽に死ねると思うなよ。」


防毒面の下では憎悪に満ちた表情を浮かべていた。声音でも盾恒に、盾恒達に対する憎しみが滲み出ていた。

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