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るろうがぁる   作者: 日暮蛍
ふあゆう
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三十六話 盾恒が戦う理由

【カッセン】が始まる前の事。


盾恒のもとに部屋に置いてあった鏡から防毒面をつけ顔を隠し五つの星の胸飾りをつけた軍服を着ている一人の男がやって来た。


「誰だお前は!」

「俺の名は箒。こうして会うのは初めてだな。」


男、箒は盾恒の事を知っているような口振りだが、盾恒には見覚えがない。自分の部屋に土足で不法侵入してきた箒をすぐに叩っ斬ってやろうと近くにおいてあった刀を手に取ろうとしたが


「剣に会いたくないのか?」


箒の言葉で盾恒の動きが止まる。


「…何の事だ。」

「とぼけなくてもいい。俺は剣の居場所を知っている。」


箒の発言に大きな動揺を見せる盾恒。


「話を聞く気になったか?」


盾恒は戸惑いはしたが刀を手に取る事なく伸ばした手を下ろす。

それを確認した箒は話し始める。


「剣は今【日の島】にいる。」

「まさか、【合戦場】か?!」

「そうだ。夢花の本拠地にいる。」

「何だと!?」


夢花の評判やその教祖である金字義 流魑縷の悪辣さを人から聞いたりして間接的に知っている盾恒はそこに息子の剣がいると知ると狼狽する。


「息子は、剣は無事なのか?」


思わず箒に近づき肩を掴むほど盾恒は取り乱している。

駆けつけた盾恒の部下達はどう対応していいのか分からず遠巻きで見ている事しかできない。

箒は防毒面をつけているせいで表情は分からず、肩を掴まれたまま話を続ける。


「今は無事だ。」

「剣に会わせてくれ!」

「もちろんだ。そのためにここに来たんだ。」

「ほ、本当か!?」

「嘘はつかない。」


一年前に誰かに攫われた息子、剣に会えるかもしれない。盾恒の目に希望の光が宿る。


箒の案内によって数名の護衛を連れて盾恒は【合戦場】へと向かった。


そして、【日の島】に着き夢花の本拠地の奥まで通された。

夢花の信者達から浴びせられる視線や存在そのものを嫌悪している【合戦場】に連れてこられた事に盾恒とその部下達は多大な精神的負荷を感じていたが、剣と再会できるかもしれないので我慢した。


「今から準備を行う。許可を得たら入ってきてくれ。」


豪華な襖の前に着くと箒はそう言い残して襖をわずかに開けてそこから部屋の中へと入りすぐに襖を閉めてしまう。

残された盾恒達は落ち着かない様子で待っていた。


「入って。」


許可はすぐに出た。

襖の向こうから女の声が聞こえてきた。

箒ではないのかと不思議に思いながらも盾恒は襖を開ける。


部屋には上座に座っている豪華な着物を着た妖艶な女性とその隣で怯えた様子で座っている首輪をつけた幼い男子の二人だけ。

盾恒は男子を見て真っ先に声に出した。


「剣!」


自分の息子の名前を。


「ちち、うえ?」


男子、剣は小さな声で盾恒の、自分の父親を呼ぶ。


「剣!」

「父上!」


盾恒は剣に駆け寄ろうとしたが

剣は盾恒に駆け寄ろうとしたが

それは鎖によって阻まれる。


「ぐぇっ!」

「剣!?」


盾恒のもとに行こうとした剣は首輪につけられている鎖のせいでそれ以上前に進めず走ったせいで首輪が締められ剣が苦しそうにする。


「大丈夫か剣!?」


盾恒は剣に駆け寄ろうとしたが、首輪に繋がれている鎖の先を持つ女性が鎖を引っ張り剣を引き寄せていくため距離を離されてしまう。

無理矢理引きずるため剣が苦しそうに首元を押さえている。


「やめろ! 剣が苦しんでいるだろ!」


盾恒の言葉によってか女性は鎖を引っ張るのをやめたが、鎖から手を離す様子はない。


「剣を離せ!」


盾恒はそう言うが女性は鎖から手を離さない。盾恒が前に出ようとすると鎖を引っ張る仕草を見せるため迂闊に動けない。


「お前は誰だ。」


盾恒の問いに対して女性は封筒を盾恒に投げつけた。封筒には大きな字で《中を見ろ。》と書かれていた。

その行動に盾恒は疑問に思いながらも女性と剣の様子を見ながら恐る恐る開けて中に入っていた紙を見る。


《剣の命をにぎっているのは私、こんじぎ るちる。剣を助けたければ私の言うことを聞きなさい。》


紙にはそう書かれていた。


こんじぎ るちる。

金字義 流魑縷。


盾恒はその名前を知っている。【合戦場】嫌悪派である盾恒は憎き【刀持ち】の一人である流魑縷の事を知っていた。

金字義 流魑縷。

今は夢花の教祖であり【日の島】の将だが、以前は【金の島】の将を務めていた。

【金の島】にいた頃の流魑縷は贅沢を味わい悪辣な行為を好んで行った悪女として有名だった。しかし今の【金の島】の将である円寿に殺されその地位を取られた後の彼女は【日の島】の将になった後は身を潜めるかのように夢花の本拠地に篭るようになり目立つ事はなくなった。


円寿のおかげで改心したのではと噂されているが、盾恒はそう思わなかった。

以前盾恒は遠目ではあるが流魑縷の姿を見た事がある。その時に流魑縷が地面に這いつくばっている人達に追い打ちをかけるように痛めつけていたのを見た。

そのため盾恒は流魑縷がそう簡単に改心するとは思っていなかった。


「…何が目的だ。」


嫌悪している【刀持ち】の中でも酷い性格の持ち主である流魑縷の言う事など盾恒は一切聞きたくなかったが、剣の安否が流魑縷によって握られているため迂闊に動く事ができない。今は大人しく言う事を聞くしかないと判断した盾恒は紙を通して流魑縷の指示に従う事になった。


そのうちの一つが将達への宣戦布告だ。



◆◇◆◇◆



これは盾恒がクリムゾン達に因縁をつけ宣戦布告した後の事。


指示に従って自分でも無茶苦茶だと思うほどの発言をした盾恒は今後の事に備えつつ心労をとるために自室に戻った。

だがそこには先客がいた。


「よぉ、お前が盾恒か。」


防毒面をつけ顔を隠し五つの星の胸飾りをつけた軍服を着ている一人の男が部屋にある机の上に腰掛けている。


「箒か?」

「ちげぇよ。俺は縁切(えんせつ)。箒の、弟みたいなもんだ。」


箒と同じ格好をしていたため盾恒は縁切を箒と勘違いしてしまったが縁切と名乗った男の声は確かに箒とは違う。体格も箒より逞しい体つきをしている。


「何しに来た。」

「見てたぞ。お前の宣戦布告。」


盾恒の質問に答えず縁切は気ままに自分の言いたい事を言う。


「わざわざ偽物の手紙を用意してまであんな事を言うなんて、あっやっべ。面白すぎ、あっはははははは!」


縁切の粗雑な態度と笑い声に盾恒は苛ついていた。


「お前達の指示だろうが! 用件がないなら帰れ!」

「おう。お前のその顔を見たかっただけだからなぁ。せいぜいオレ達の役に立ってくれよな。お父様。」


そう言って縁切は鏡の中に入っていった。

縁切が立ち去った後、盾恒は先ほどまで縁切が座っていた机を殴る。


「あいつらぁ!」


剣の命を握られている。

そう思っている盾恒は箒達の言う事に逆らえず苛立ちと怒りを募らせる事しかできなかった。



◆◇◆◇◆



【カッセン】が始まる前日の時の事。


「だめです。」


天幕の向こうにいる彼女はきっぱりと盾恒の要求を断る。要求とはもちろん剣に会わせてくれ、というもの。


「ワシはちゃんとお前の指示に従っているぞ!」

「確かにそうですね。しかしすべてではありません。あなたにはまだまだやってもらう事がたくさんあるのですよ。」

「せめて一目だけでも会わせてくれ!」

「だめです。次の指示までおとなしく待っていない。みなさん。送ってさしあげて。」


盾恒は食い下がろうとしたが控えていた信者達に連れ出されてしまう。


「待ってくれ話はまだ終わっていない!」

「しつこいぞお前! 教祖様の言う事を聞かない愚か者はさっさと帰れ!」


信者達に乱暴に追い出されてしまった盾恒。

外で控えていた盾恒の部下達は慌てて盾恒に駆け寄る。


「盾恒様! 大丈夫ですか?」

「…ワシは大丈夫だ。」


本当は今すぐにでも剣を取り返したい。しかし剣を助ける方法がない盾恒達はやり場のない思いを抱えながら言う事を聞くしかなかった。



◆◇◆◇◆



戦いの場に転送され【カッセン】が始まるのを待っている時の事。


「なぜそこまでして剣を助けようとする?」


防毒面をつけ五つの星飾りが胸元についている軍服を着ている少年が盾恒に話しかける。

格好は同じだが箒と縁切と違って背が低く声変わりがしていない少年の声。二人とは別人だと盾恒はすぐに気がついた。


「私の大切な息子だからだ。」


名前を聞こうとしたが、その前に少年に聞かれた事を答える盾恒。その事に盾恒は違和感を感じた。


「申し遅れた。僕は(りゅう)。箒兄さん達の弟だ。」


少年、流は名乗り盾恒の注意をそらす。


「何しに来た。」

「そう警戒するな。先ほどの質問の答えを聞きたかっただけだ。断じて煽りに来たわけではない。」


苛立ちを隠しきれない盾恒は防毒面の上で眼鏡を上げる仕草をする流を睨む。


「僕は中立でありたいからね。兄さん達は感情的になりやすいから冷静な判断を下せない。」

「中立? どの口が言う。剣を閉じ込めているお前達が!」

「怒るのは当然だ。しかしこれは試練だ。お前と剣にとって必要なんだ。」

「何?」


判然としない事を言う流に盾恒は詳しく聞こうとしたが、その前に流が後ろを向いて歩き出す。


「忠告だ。発言には常に気をつける事だ。」


そう言うと流は立ち去った。


「なんなんだあいつらは。」


残された盾恒は意味深な事を言う流達の存在がかなり気になってはいたが、本人達が自身に関する事を何も言わないため考えても答えが出ない。だから流達の事を考えるのを盾恒は早々に止めて剣を助けるために考える事に決めた。


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