三十五話 芽はまだでない。
「それじゃあいくよみんな! 五! 四! 三! 二! 一! 【カッセン】始め!」
しおんの合図と共に戦場にいる【刀持ち】、【写し持ち】達が動き出す。早速殺し合いを始めたり防衛に力を入れたり偵察をしたりと様々な動きを見せている。
中でも目立っていたのは【日の島】のもの達。人数が多く統率が取れているため他の島に所属するもの達は手こずっていた。そのせいで【日の島】に所属しているもの、つまり夢花のもの達は調子に乗っていた。
「さぁ死ね! 死ね!」
「教祖様にその命を捧げよ!」
「我らを阻もうとするならば皆殺しだ!」
興奮した様子で他のもの達と戦う夢花の人達。
もちろん他の人達は進行を止めようとするが、夢花のもの達の驚異的な身体能力に押されている。
「くそ! あいつらどうなっているんだ。【写し持ち】ばっかりなのに。」
「おいまずいぞ。ただの人間が河童を殺したらしい!」
「河童ってまさか百五十一位のあいつか!?」
「嘘だろおい! なんで【写し持ち】がこんなに強いんだよ!」
【カッセン】が始まる前は余裕で勝てるだろうとたかをくくっていたが、始まってみれば夢花のもの達が優勢。何人か殺せてはいるが勢いは衰えない。
「これは凄い事になりました! 【日の島】の人達が他の島の人達に対して優勢です。」
空飛ぶ円盤になってこの状況を実況しているしおん。
「このまま【日の島】の人達が誰かの首を取るのでしょうか? 目が離せません。」
「ちょっといい?」
「え?」
しおんの実況に割り込んできたのは空飛ぶ円盤に乗ったもう一人の【巫女】だ。
「さん。どうしたの? 今【カッセン】中だよ。」
さんと呼ばれた【巫女】の少女はあくびをした後、電子端末の画面を見る。
「仕事。」
「え?」
拡声器を手にとったさんは電子端末と下で戦っている人達を交互に見ながら気だるそうに話す。
「【カッセン】をやっている皆さん。こんにちは。【ショケイ】担当のさんです。」
さんの発言を聞いて【カッセン】をしている人達の動きが止まった。
【カッセン】を受像器ごしで見ていた観客達もさんの登場に動揺している。
「こんな時に【ショケイ】が行われます。高得点獲得の絶好の機会ですのでお見逃しなく。対象になるのはこちらの人達です。」
発言の直後にさんの背後に巨大な白い幕が出現する。幕には大勢の人の偽名や名前が書かれている。
「えーと。…めんどくさ。将を除いた【日の島】の人達全員ですね。【カッセン】に参加してる人もしてない人も対象になってます。」
名前を読み上げようとしたがあまりの多さにすぐに諦めたさん。しかし事実ははっきりと言う。
さんの言う通り幕に書かれているのは全て将を除いた【日の島】に所属する全員の名前。
幕に自分達の名前が書かれている事を知った【日の島】のもの達は固まった。
その隙を他のもの達は見逃さなかった。
「おらっ!」
誰かが【日の島】の一人を殺したのをきっかけに多くの人達が【日の島】のもの達の殺害に力を入れ始めた。
動揺からか【日の島】のもの達の動きが途端に悪くなり次々と殺されていく。
「なぜ、なぜ私達を見限ったのですか教祖様ぁぁぁぁぁあ!!?」
そう叫んだ【日の島】の人も殺された。
◆◇◆◇◆
【ショケイ】も【合戦場】で許された五つの死合の一つだが、ほかの四つと比べるとかなり異端なもの。
内容は将が指定した相手の獲得得点の数字を大幅に上げられる。指定できるのはその将が管理する島に所属するもののみ。
【ショケイ】で指名された相手ならば時と場所関係なく殺す事が可能。
【ショケイ】が行われるとすぐに【合戦場】全域に伝えられるため多くのもの達が【ぶっ殺ランキング】の順位を上げるために得点目当てに指定された対象を誰よりも早く殺そうと躍起になる。
さらに【ショケイ】で指定されたものが死ぬと自分が所属していた島の立ち入りが禁じられる。
つまり【ショケイ】は将が不要、あるいは邪魔と判断した相手を追放するための手段。死合というよりも将による処罰だ。
【ショケイ】の対象として選ばれた【日の島】のもの達は愕然とした後、絶望する。殺されそうになっても誰かが殺されても抵抗するものは少ない。それだけ精神的に大きな打撃となっていた。自分達は信じていた教祖、流魑縷に見放されたと思っている。
つい先ほどまで行われていた【日の島】のもの達による快進撃は終わり、今度は他の島のもの達が我先にと【日の島】のもの達を殺しに行く。その中には将の命令を無視して行くものも多い。
【カッセン】に参加するもの達の半数は普段は島の将達に仕えず気ままに行動するもの達。【カッセン】に参加するために一時的に将の下についただけなので忠誠心は低い。そのため今回のように楽に成果が手に入ると分かった途端すぐにそこへ飛びつく。そのせいで戦況の流れがどんどん変わっていく。
思いがけない事態に将、側近達はこの状況をどうにかしようと頭を悩ませている。
【土の島】が陣取っている場所でもこの事態にてんやわんや。
鯏丸は他の人達に指示を出しながら朧のいる民家に向かい中に入る。床に寝そべっている朧に対してため息を押し殺し状況を伝える。
「まずいぞ三日月。俺達の派閥の【写し持ち】や【刀持ち】が【日の島】の奴らを殺しに行くためにどんどん離脱して行く。」
「そう。」
気だるそうに短く返事をする朧。
「あのな、人が減ればそれだけ攻撃の手も守りも薄くなるんだ。少しは焦ろ。」
「いいじゃんべつに。いっちゃったのはきょうだけのひとだけなんでしょ。ぼくとうぐいとうぐいのなかまがいればほかはいらない。」
「俺達だけじゃあ人手が足りないんだ。」
「ぼくがいけばすぐにおわる。」
「駄目だ。お前が死ねば全滅だ。迂闊に前に出すわけにはいかない。」
起きあがろうとしたが鯏丸に制された朧は不機嫌そうに再び寝転ぶ。
「いいか。俺達がなんとかするからお前は絶対にここから出るなよ。分かったな。」
「はーい。」
鯏丸が朧に現状を報告した理由は朧が勝手に動かないよう釘を刺すため。
朧が参戦すれば【土の島】の戦況は好転するが、そうなれば朧は他の勢力から集中的に狙われる。そうならないために鯏丸は朧が逃げ出していないか確認をとるついでに報告がてらどこかに行かないよう念入りに注意する。
「しかし流魑縷はどうして今【ショケイ】をやったんだ? 訳がわからん。」
朧がいる民家から出た鯏丸は多くの人達が思っている事を呟く。
◆◇◆◇◆
「なぜ殺した?」
盾恒は箒に尋ねる。
箒は血まみれの移植籠手の形をした刀を使って穴を掘っている。箒の足元には箒に殺された【日の島】の人達の死体。大きくて深い穴を掘り終えると箒は近くにあった死体を全て穴に放り入れるとすぐに土をかぶせて埋めていく。
それを不愉快そうに見ている盾恒。
「仲間ではないのか。」
「そんなわけないだろ。俺達の大切な家族を傷つけた奴らは全員皆殺しにする。それにこうした方が動かしやすい。」
箒がそう言った直後、死体を埋めていた場所の土が盛り上がり地面から数本の手が勢いよく出てくる。そして埋められた死体が動き這い出てくる。土と血で汚れた死体達は立ち上がり箒の前に立つ。
箒はそれを落ち着いて見ていたが盾恒達は驚愕と恐怖で後退りする。
「それは、お前の刀の力か?」
恐怖を感じながらも盾恒は思考を放棄しない。
「そうだ。名前は【腐花】。この刀で死体を埋めると俺の言う事を聞く死体兵士を作り出す事ができる。」
少しでも情報を得ようと盾恒が質問すると箒はあっさりと答える。
「手駒は増やしてやるからたっぷりと働いてもらうぞ。まずは周辺の死体を集めてここに持ってこい。」
「まて。その前に息子に会わせろ。」
盾恒の発言の直後に箒は持っていた移植籠手の形をした刀の刃を盾恒の首に向ける。
盾恒の部下達は盾恒を守るために動こうとしたが盾恒が手で制したため動きを止める。
「自分の立場をまだ理解していないのか。息子を助けたければ黙って働け。」
「…分かった。」
悔しそうに言いながら拳を握る盾恒。
箒は盾恒の返事を聞くとさっさとどこかへと行ってしまう。
箒が立ち去った後、盾恒は呟く。
「必ず助けるぞ。剣。」




