三十四話 種は既にまかれている。
「いやいやいや! 駄目ですって代理なんて。このは挨拶は顔見せを兼ねてるんですからね!」
【カッセン】の勝利条件は島の権力者である将を殺す事。
自分達の陣営の将を守りながら相手の将を殺すために毎年多くの人達が工夫をしたり相手の裏をかいたり知恵を絞ったりしている。
勝利条件となる島の将は必ずその姿を周知させなければならない。そのために開会式で【巫女】に目立つように紹介される。
「あなたは代理であって島の代表である将ではないでしょ。【日の島】の代表である流魑縷さんはどこにいるんですか?」
「あぁ、いいよいいよ。その子はそれでいいの。」
「うっひゃあ!」
突如背後に現れた天野に驚いたしおんは危うく円盤から落ちそうになったがかろうじて足を踏ん張ったため落ちなかった。
「やっほー。会場にいるみんな! それに画面の前にいるみんな! カミサマこと天野 一、ついに登場でーす。」
明るく笑顔で観客達に向けて手を振る天野。
「ふざけるなぁ!」
「死ね! くたばれ!」
「消えろ天野 一!」
それに対して観客達は喉を痛めるほど大声を出して天野に向けて非難と罵声をぶつけていく。さらには声だけでなく物まで投げてくる始末だ。
「わわわっ!? 皆さん物を投げるのはやめてくださーい!」
「あっ見てしおん。あの客の顔、綺麗に赤くなってると思わない?」
「そんな事言ってる場合じゃないですよ! 何しに来たんですか!?」
「箒の代理を認めるって事を言いに来ただけ。」
「え、ちょっ。いいんですか本当に?!」
「うん。みんなもそれで構わないよね?」
「あぁいいぞ。」
「え?!」
天野の言葉に、クリムゾンの返事に反対するものはいない。
その事にしおんは驚く。
観客達も驚きで天野への暴言を止め、困惑の声で会場内を騒がす。
「ほ、本当にいいんですか? 将を倒すのが【カッセン】の勝利条件なんですよ。」
「おう。【日の島】の奴らを皆殺しにすればいいだけだろ。」
「え。」
加賀見の言葉にしおんは言葉を詰まらせる。
「そうね。可哀想だけど【日の島】の人達はとても悪い事をしてしまったわ。悪い事をしてしまったらおしおきをしなくちゃ。」
仮面をつけていても悲しそうにしているが伝わってくるが、円寿も皆殺しの方針のようだ。
「その通りだ。あいつらは僕の島でも下品な行動を取り続けた上に外の世界の奴らと手を組んでまで僕らに喧嘩を売ってきたんだ。お望み通り相手してあげるつもりだよ。徹底的に、ね。」
優しそうに聞こえるが心なしか怒気が含まれている声音で話す洞元も皆殺しをするつもりだ。
「ぼくも。」
短い言葉だが朧も皆殺しに賛同する。
「と、いうわけで俺達は【日の島】の奴らを全力で潰しにかかるから覚悟しておけよ、て金字義にきちんと伝えてくれ。」
クリムゾンも【日の島】に所属するもの達を皆殺しにする気満々だ。真っ直ぐと箒に自分の意見を、皆の意思を伝える。
「覚悟するのはお前達だ。俺達は必ずお前らを殺す。皆殺しにされるのはお前らだ。」
それでも箒は臆する事なくクリムゾン達に向けてはっきりと言う。
どちらも一歩も退かず、この場で今にも殺し合いが始まりそうなほど空気が張り詰めていく。
それを感じ取った観客達は緊張感で呼吸が少し苦しく感じるがクリムゾン達の事を静かに見ていた。
「いいねいいね。良い雰囲気になってきたから早速始めよっか。」
「は、はい。」
天野が場違いなほど嬉しそうにし、しおんがクリムゾン達を【カッセン】の部隊に転送させようとした時、一人の男が声を上げた。
「ちょっと待った!」
その場にいた全員が声がした方に視線を向けるとそこにいたのは先日クリムゾン達に宣戦布告してきた今井 盾恒。
「お前ら。まさかワシの事を忘れたわけではないだろうな。」
「…あ、ごめん。忘れてた。」
天野の発言に盾恒は怒りの形相になる。
「お前らぁ! ワシを忘れるとは良い度胸をしているな!」
「しおん。紹介よろしくね。」
「了解です。最後に紹介する代表は外の世界からやって来た挑戦者! 今井家当主。【ぶっ殺ランキング】、三万七千五百二位。外の世界の人達の代表、今井 盾恒!」
しおんの紹介に観客達は盾恒に視線を向けるが、その目はやや冷めていた。
「今井家って知ってる?」
「知らね。」
「これからって時に邪魔すんなよ。」
観客達の冷めた反応に盾恒は今にも怒鳴り散らしそうな様子だ。
それを察したしおんはそうなる前に行動に移す。
「そ、それでは代表者が出揃ったので早速転送していきます! 行ってらっしゃい!」
しおんの発言の後に代表者達全員が殺し合いの場へと転送された。
「さて。参加者達が【カッセン】の準備をしている間にここで【カッセン】のおさらいをしておきます。【カッセン】での勝利条件は一人を除いて先程挨拶をしてくれた代表者を殺す事。そうならないためにそれぞれの代表者についた【刀持ち】、【写し持ち】の人達は相手の行動を妨害したり返り討ちにしたり代表者を討ち取ったりして争い合う。それこそが【カッセン】の流れ。たとえ代表者を殺せなくても【カッセン】中に良い結果を出せれば代表者からご褒美が貰えます。【カッセン】が行われている間でも飛び入り参加が歓迎されています。参加しようと迷っている人はぜひ勇気を出して参加してみてください。」
◆◇◆◇◆
【カッセン】で使われる殺し合いの舞台は毎年形は違えど広大な所だ。今回の舞台はのどかな村の形をしている。民家よりも畑の方が土地を使われており、木々や川などがあり自然豊かな土地だ。
転移された時にそれぞれ離れた場所であり、今はそれぞれ作戦会議や準備をしているが、開戦の合図があればこの土地はすぐに血で汚される。
【日の島】のもの達も準備に勤しんでいた。その中で一人、巨大な箱を背負った男が一番大きな民家に入ろうとする。
「待て。」
だが入り口で待機していた箒に止められたため男の機嫌は急降下する。
「どけ。邪魔だ。」
「どかない。近づくなと言ったはずだ。」
「お前の命令など聞くか! 私は教祖様に用があるのだ!」
「伝言なら俺が伝えておく。」
「私は教祖様に元気になってもらおうと貢物を用意してきたのだ。」
「何を持ってきた。」
「もちろん教祖様の好物である若い女だ。箱庭からとってきた高品質で新鮮ものだ。これを食べれば教祖様はきっと元気になられる。分かったらそこをどけ!」
今にも押し入りそうな男を前に箒はため息をつきほんの少し黙り込んだ後、入り口の引き戸を開ける。
「教祖様は奥の方にいる。手短に済ませろ。」
「さっさとどけ。」
男は箒を押し退けて民家に入り、靴を脱いで奥へと進む。
箒は奥へと進む男の背後を見ながら入り口を音を立てずに閉める。そして手元に大きな移植籠手の形をしている物を出現させるとそれを両手で持ち、一気に男との距離を詰めて男の頭に向けて振り下ろす。そのまま男の頭に当たるはずだったが、一瞬にして男の姿が消えてしまい振り下ろされた移植籠手によって民家の床に穴ができた。
「何!?」
男が消え失せた事に驚く箒。移植籠手を持ち直し男を探そうと振り向いた時、すぐ目の前に男が立っていた。
驚愕で硬直してしまった箒に向けて男は持っていた槌を振り上げる。
それから遅れて箒は動く。持っていた移植籠手のような物を使い槌による攻撃から身を守ろうと前に出す。
槌と移植籠手が接触した時、箒が持っていた移植籠手が忽然と消え失せる。
「え?! うお!」
持っていた物が消えた事に当然驚いた箒だったが、男からの追撃が来る事に気がつき即座に後ろに下がってかわす。
「お前、【刀持ち】だったのか。」
「そう言うお前もだろ。後ろから攻撃しようとは姑息な。私を差し置いて教祖様のそばにいるお前がよくも、この私を殺そうとしたな。教祖様を第一に考えているこの私を! よくも!」
身を震わせながら激昂する男。箒を睨む目は血走っている。箒に向ける殺意は凄まじい。
「なぜ、なぜ教祖様は私ではなくお前を! お前のような素性の分からない怪しい奴をそばに! 私が、私こそが教祖様のそばに相応しい! 邪魔だ! 邪魔だ邪魔だ邪魔だ邪魔だ! 死ね!」
話していくうちに情緒が不安定になっていく男。そしてそのまま槌を手にしたまま箒に向かって突進する。
男の持つ槌もとい刀の名前は【飛間】。どこからどう見ても槌にしか見えないがこれも天野が作った刀だ。能力は転移。打ったものを別の場所に移動させる事ができる。箒の後ろに瞬間移動したり箒の持っていた刀が消えたのはこの能力によるもの。
僅かな鍔迫り合いで男は箒が戦い慣れていない事を看破していた。
そして【刀持ち】が持てる刀は一人一振りまで。
箒の唯一の武器を消した事で男は箒を容易に殺せると判断し箒へと近づいていく。負ける要素がないと男はまともに動かない頭で判断した。
男の考えは間違っていた。
箒の持つ武器はまだある。箒があらかじめ民家の中に充満させていたお香によって男の思考能力は低下していた。そのため冷静な時では取らない無謀な行動をとっていた。
そして、目の前にいる彼は丸腰ではない。
「伸びろ。」
男が箒の頭に向けて槌を振り上げようとした時、男は胸元に突如激痛を感じた。下を見下ろして胸元を見ると槍のような物の刃先が深々と突き刺さっていた。視線を移動させると槍のような物を持っているのは目の前にいる彼だ。
「な、なぜ。まさか、それが本当の刀? いや、しかし。じゃああれはどうやって出した? あれも本物? いや、それはない。」
痛みで冷静さを少し取り戻した頭で男は疑問に向き合う。
男は箒の持っていた移植籠手のような物が刀だと思っていた。しかし、目の前にいる人物の持つ槍のような物を箒は持っていなかったし近くに置いていなかった。
【刀持ち】が持てる刀は一人一振りまで。だからどちらかが本物でどちらかが偽物。男はそう思っていた。
「伸びろ。」
男が考え事をしている時に彼はもう一度同じ言葉を呟く。すると槍のような物が勢いよく伸び突き刺さっている刃がさらに男の肉体に食い込み、やがて貫通し男が背負ったままの箱にも刃先が突き刺さり中に入っていた少女を傷つける。
「お、前はいったい…」
「縮め。」
その言葉に従うように槍のような物は縮む。それによって刃が抜け傷口から大量の血が流れ出てくる。男は後ろに向かって倒れる。
「これが【刀持ち】か。結構簡単に倒せたな。」「相手が油断しただけだ。次はきっとこうはいかない。油断するな。」「はいはい。それよりも刀が消えたぞ。大丈夫なのか?」「どこかに飛ばされた。位置は、あっちだな。」「分かるの?」「分かる。自分の刀なら場所がわかるみたいだ。」「とっとと拾いに行くぞ。たく、めんどくせぇ能力だな。」「だけど使える能力だ。刀があればこいつを便利に使える。」「大人を利用するの?」「いいね。今度は僕達が利用するんだ。」「あぁ。そして大人は全員皆殺しだ。」
ずっと一人で口を動かしている。槍のような物をしまうと箒は歩き出し外に出る。




