三十二話 抗争前の疑い。
【火の島】にある大広間には剣呑な雰囲気を纏っている武装集団が占拠していた。
観光客や住民は遠巻きでその集団を見ている。
その集団に恐る事なく近づくもの達がやって来た。
「来たか。」
武装集団の中でも存在感のある男が呟く。その視線の先には報告を受けてやって来たクリムゾンと会議に参加していたもの達。
「あんた達か? ここを占拠したりでかい声と武器を使って住民達を脅す迷惑な客っていうのは。」
クリムゾンの言葉に応える事なく男は一歩前に出る。
「我が名は今井 盾恒! 今井家の当主だ。」
それを聞いたクリムゾンは口を閉じ、ほんの少しの間考え込む仕草をした後、後ろに控えていた文太に小声で聞く。
「今井家って知ってるか?」
「ええ。外の世界でそこそこな権力を持っている嫌悪派の人達の事です。そこそこの人材とそこそこの武器を所有しているのでたまに【合戦場】に来ているようですが、【写し持ち】だけなのであまりいい成果を手にしていませんね。」
「なるほど。道理で聞き覚えがないと思った。」
「聞こえてるぞお前ら!」
小声で話をしていたが耳がいいのか盾恒にははっきりと聞こえていたようで盾恒はクリムゾンと文太に怒鳴りつける。
怒鳴られても気にした様子を見せないクリムゾンは盾恒に向き直る。
「で。どうしてこんな事をしているんだ?」
改めてそう聞かれた盾恒は身を震わせクリムゾン達を睨みつける。
「ワシの息子を攫った奴を殺すためよ。」
「攫った? えっ誘拐?」
思いがけない返答にクリムゾンはほんの少し驚く。
「そうだ! 忘れたとは言わせないぞ! 一年前ワシの息子を、剣攫ったお前を絶対に許さん!」
激しく怒っている様子の盾恒はその勢いのままある人物に向けて指を指す。
指を指された本人以外、指さされた先を見るとそこにいるのは鯏丸だった。
「…え?」
クリムゾンとは少し離れた位置で傍観者のつもりで話を聞いていた鯏丸は突然の指名に驚きを隠せていない。
「それは本当か鯏丸!」
「鯏丸。お前、子供を誘拐だなんて。」
「鯏丸さん、どうしてそんな事を!」
「鯏丸。今すぐ子供を返してあげた方がいいんじゃない?」
「鯏丸。自首を勧める。」
「待て待て待て! してないからな! 俺誘拐なんてしてないからな!」
皆に疑いの目と言葉を一身にかけられている鯏丸は勢いよく首を横に振って強く否定する鯏丸。
一方盾恒は皆のやりとりを見て眉をひそめる。
「鯏丸? そいつは朧じゃないのか?」
「は? …あーなるほど。」
盾恒の反応で人違いだと判明したが、状況は何も変わっていない。誘拐犯の疑いが鯏丸から朧に変わっただけ。
「それでもまずは自己紹介だ。俺は鯏丸。【土の島】の大将である朧の側近として働いている。今回の会議では朧の代理として出席している。」
これ以上取り乱した姿を見せるわけにはいかないと思った鯏丸は盾恒達に向けて落ち着いた様子で自己紹介をする。
「代理だと? 大事な話し合いに?」
それを聞いた盾恒はさらに顔をしかめる。
その時、盾恒の背後に控えていたものが盾恒に近寄り耳打ちする。
「…おい。クリムゾン以外は全員代理とはどういう事だ!」
報告を聞いた盾恒は怒りの表情を隠す事をせず、怒気を含んだ声でクリムゾン達に問い詰める。
それに対して真っ先に抗言したのはクリムゾンだ。
「仕方がないんだ! ガマばぁはいつも忙しいし、他のみんなも何か、大事な用があって来られないらしいんだ。そうだよな、みんな!」
クリムゾンは曇りない目で皆を見るが、前以外は一斉に目を逸らした。皆の様子がおかしい事に首を傾げるクリムゾン。
「みんな?」
「クリムゾン様。追い打ちをかけるのはそこまでにした方がいいかと。」
「追い討ち?」
「えぇ。だってクリムゾン様とガマばぁさん以外の大将達は全員寝坊をしてしまって会議に参加できなかったんです。代理の方達が自分の大将は大事な用があって来られないと嘘をついてここに来たのですから多少薄暗い気持ちがあるのは当然かと。」
「え?」
突然公にされた情報に驚きで体を硬直させるクリムゾン。
目を背けていた人達は一斉に文太の方を見る。
前は冷めた目でジェロ達を見ていた。
「おま、文太! どうやってそれを知った!」
「それは教えられません。」
「あいかわらず君の情報収集能力は凄いね。君には隠し事ができないよ。」
「しかしまさか他の大将の皆さんも寝坊とは凄い偶然ですね。」
クリムゾン以外の将達は欠席。その上医者としての仕事が忙しくて来られないガマばぁ以外の将達は寝坊で遅刻。
この事実に加えて放置されている盾恒達は怒りで肩を震わせる。
「お前ら、ふざけているのか!」
「あっ! すまん忘れてた。」
クリムゾンの一言で盾恒の神経がさらに逆立つ。それを感じ取った周りにいる盾恒の部下達は気が気でない。
「それで、なんだっけ? 鯏丸が盾恒の息子を誘拐したんだっけ? 早く帰してやれよ鯏丸。」
「だからやってねぇって! 俺も、朧も! 向こうの勘違いだ。」
「この期に及んで言い逃れができると思っているのか!」
話は戻り、誘拐犯として疑われている鯏丸は容疑を否定。
鯏丸を糾弾した盾恒はそれに納得せず、鯏丸及び朧が息子を誘拐したと主張。
このままでは埒が開かないと判断したクリムゾンは自分が管理する島の問題を速やかに解決するために仲介役になる。
「なぁ盾恒。どうして鯏丸がお前の息子を誘拐したと思ってるんだ?」
「朧という奴の根城に見目麗しい少年がいたという目撃情報があった!」
「…おい。まさかそれだけじゃないよな?」
「当然だ。数日前に手紙が送られて来た。」
そう言いながら盾恒の懐から取り出されたのは折り畳まれた一枚の紙。盾恒はそれを広げてクリムゾン達に見せる。
《助けてください。私は今【土の島】にいます。 剣。》
短い文章の手紙を見てクリムゾンは怪訝そうな顔になる。
「いやそれ、偽装の疑いがあるだろ。」
「そんな事はない! これは間違いなく息子の字だ。ワシが見間違えるはずがない!」
興奮した様子で力強く断言する盾恒。
クリムゾン達は揃って冷めた目をしていた。
「なぁ、何かの間違いじゃないのか? 証拠がそれだけじゃあ鯏丸か朧が誘拐したかなんて分からないだろ。」
「間違いな訳あるか! これは間違いなく剣が書いたものだ!」
「なぁ落ち着けって。」
「…そうか。そういう事か。お前ら共謀してワシの剣を誘拐したのか!」
「えぇ?! なんでそうなるんだよ。」
クリムゾンは何とか盾恒を落ち着かせようとするが話せば話すほど盾恒は興奮した話が飛躍してしまう。そんな盾恒にどう対応すればいいのか困るクリムゾンに文太はそっと耳打ちする。
「クリムゾン様。盾恒の様子、夢花のもの達の様子と酷似しています。」
「確かにそうだな。例のお香、外の世界にも広まっているのかもな。」
クリムゾンは改めて盾恒達の方を見る。
盾恒は血走った目でクリムゾン達を睨んでいた。盾恒の部下達は興奮している盾恒に対して少し戸惑いを見せている。
「お前達を倒し、必ず剣を取り戻す!」
周りが見えていない盾恒はその場でクリムゾン達に宣戦布告をする。
「大きく出たな。お前達、という事は他の島の奴らを敵にまわす事になるぞ。」
「あぁ、そうだな。この場にいるもの達は全員敵だ。」
盾恒の含みのある言い方にクリムゾンは気になった。
「まるで心強い味方がいるみたいな口振りだな。」
「そうだ。その通りだ。ワシ達は【日の島】のもの達と同盟を組んだ。」
「えっ!?」
思いがけない返答にクリムゾンは驚く。後ろにいた文太達も驚きを隠せていない様子だ。
【刀持ち】は多くの人達から賛美され、多くの人達から嫌悪されている。
嫌悪している人達からすれば【刀持ち】は世界を滅茶苦茶にした二人組の一人、天野の手下だと思っている。【刀持ち】の刀を奪い取り天野を殺そうと考えるもの達も少なくない。
だからこそ盾恒の発言にクリムゾン達は驚いていた。それも【合戦場】にて問題を起こす流浪ぶっ殺すの会や夢花のもの達が所属している【日の島】との同盟だ。
「これは大変な事になりましたね。」
「あぁ。だが、いい機会かもしれない。いい成果を出せれば【日の島】の奴らの行動をさらに制限する事ができる。」
「あぁ、その通りだ。」
クリムゾンの発言に同意したのは鯏丸だ。後ろにいた鯏丸は前に出てクリムゾンと並び立つ。
「それにこっちは濡れ衣を着せられたんだ。落とし前をつけなくちゃあいけねぇ。」
そう言いながら鯏丸は盾恒に睨みつける。
「大口を叩いたからには覚悟はできてんだろうな。」
睨まれた盾恒は一瞬怯んだが、すぐに持ち直し負けるものかと鯏丸達を睨みつける。
「当然だ。お前達を倒し、必ず息子を取り返す!」
互いに引かない。どちらも引き下がらない。誰も自分の主張を覆さない。張り詰めた空気がその場にあった。
「はいはいはい。皆落ち着きなよ。どうせ殺し合いするなら【カッセン】でやりなよ。その方が盛り上がるしね!」
一触即発の空気をぶち壊したのは天野だ。
天野に視線を向けた盾恒は顔を歪ませる。
「天野 一! 貴様、よく姿を見せられるな。」
「えー。【合戦場】にオイラがいるのは別に珍しい事じゃあないだろ。そんなことよりもさ。」
場の悪い空気に場違いなほど明るい言動をする天野はクリムゾン達と盾恒の間に立ち片手をまっすぐと上げる。
「この興奮と殺意は【カッセン】まで持ち越しなよ。今回の【カッセン】はきっと盛り上がるから楽しみだなー!」
天野の明るい笑顔に誰も笑顔で返さなかった。皆、程度は違えど苦い顔で天野を遠巻きで見ていた。
「じゃあまたね。さよーならー。」
天野が立ち去った後、天野の乱入のせいで白けたのか盾恒達は帰っていった。
クリムゾン達もその場で解散し自分達の所属する島へと帰っていった。
寝坊した理由。
【水の島】の将 二日酔い。
【木の島】の将 二日酔い。
【金の島】の将 寝過ごした上にゆっくりと朝食をとり着替えに時間をかけすぎた。
【土の島】の将 劇場版サイボーグオチムシャくんを見て夜ふかし。




