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るろうがぁる   作者: 日暮蛍
名無し
28/54

二十八話 三日月 直近

今回は朧/三日月 直近の過去話が含まれます。

「…あ! 決着だ! かなり予想外の終わりだが、決着はついた!」


名無しの権兵衛の方から申し込んだ今回の【ケットウ】は名無しの権兵衛の自殺によって終わった。

【ケットウ】を見ていた観客達は唐突な幕引きにしばらく呆然としていたが、同じく呆然としたがすぐに自分の役目を果たそうと声を上げたすぅによって観客達は思考を切り替える事ができた。


「どんな形であれ今回生き残ったのは朧だ。つまり、勝者はお」

「あああああああああああああああ!!」


すぅの言葉を遮り、朧は氷の足で周囲の柱を薙ぎ払うように破壊し、朧は感情任せにその場で暴れ回る。

衝撃によって宙に舞う柱の破片が朧が生み出した氷に飲み込まれていく。


「うわっ! 朧落ち着け! だめだ、完全に我を忘れてる。放送止めてくれ!」


巻き込まれないようにすぅは乗っている円盤を操り朧の冷気を回避しながら通信端末を使って外にいる仕事仲間に連絡する。すぅの指示がすぐさま実行され、中継は終わった。


その後も朧は暴れ続けた。

朧の破壊活動が止めたのは元の姿に戻った後で、それまでの間にこの空間に設置されていた柱のほとんどが朧によって破壊されてしまい破片と氷が乱雑していた。

元の姿に戻った朧は肩で息をするほど疲労困憊の様子でその場に座り込む。


「ううううううううううううう。」


散々破壊した後でも朧の怒りはおさまらず唸る。


朧は名無しの権兵衛の事が嫌いだ。

流浪と違った戦い方をするから。

朧に対して挑発的な言動をするから。

自分の命を大事にしていた流浪と違って名無しの権兵衛あっさりと自殺したから。

そして、自分と遊んでくれた朧を殺した名無しの権兵衛を朧は許せなかった。人々から化け物と呼ばれていた朧と臆する事なく殺し合い(遊んでくれた)大好きな流浪を殺して【無名】を引き継いだ名無しの権兵衛の事がどうしても受け入れる事ができなかった。


鬼である自分と殺し合い(遊んで)をしてくれる流浪を奪った名無しの権兵衛の事と友達にはなれないと朧は思った。



◆◇◆◇◆



この世界の鬼は頭に生えている角と鋭い牙と爪が特徴であり強靭な肉体に強大な力を持っている。

しかし、ある鬼には角は生えてこなかった。他の鬼達はその鬼を忌子として嫌い、まだ名前がつけられていなかった子供の鬼を追放した。


追放された後、名無しの鬼は荒れ果てた世界で一人で生きてきた。

常に空腹状態であり、常に誰かに追われ襲われてきた。

それでも名無しの鬼は生きてきた。襲ってくる相手を返り討ちにしその肉を食って生きてきた。

そんな生き方を何十年もしてきた名無しの鬼。

鬼は寿命が長く老いる速度はかなり遅い。それに加えて一人で生きてきた朧は誰かと話をした事はほとんどなかったため肉体的にも精神的にも子供だった。何も知らない名無しの鬼には他の人が何をしているのか理解する事すらできなかった。


そんな名無しの鬼を人々は化け物だと言い何度も名無しの鬼を退治しようとしたが、全て返り討ちにされ名無しの鬼に食われてしまった。人々は名無しの鬼の事を恐れ何とか殺そうとあれこれと策を講じ名無しの鬼を殺そうとした。


名無しの鬼の方は襲ってくる人達の行動理由がまるで分からなかった。名無しの鬼からすれば食料が自分からやってくるもの。常に腹を空かせている名無しの鬼は襲ってきた人達を骨まで残さず平らげた。


名無しの鬼とその他の人達の戦いがしばらく続いたある時、そこに第三者が現れた。

第三者の名は石切(いしきり) (るい)

塁は名無しの鬼を恐れる人達を説得し、一人で名無しの鬼と戦う事になった。


名無しの鬼はまた新しい食料が来たと思い塁に襲いかかったが、塁は名無しの鬼の攻撃を軽くあしらい名無しの鬼を転ばせた。

初めての経験に戸惑いながらも名無しの鬼は何度も塁に襲ったが、その度に名無しの鬼は塁に転ばせられた。


何度も何度も転ばせられて、やがて戦う気を失った名無しの鬼に塁は優しく言う。


「行くところがないならぼく達の村に来ない?」


塁の誘いを、差し出された手の意味を当時の名無しの鬼は理解できなかった。塁がどうしてそんな事をするのか全然分からなかった。それでも名無しの鬼は塁の手を取った。本能的に取った行動だった。

名無しの鬼の事を殺せと叫ぶ人達の声を無視して塁は自身が守っている村に名無しの鬼を連れて行った。


名無しの鬼にとって村で見たものはどれも自分に馴染みのないものばかりだった。 

鬼である自分を見ても怖がらず優しくしてくれる村人達。

清潔な服に屋根のある暖かい家。

沢山の食料に綺麗な水。

名無しの鬼はこの村に来た初日の夜に生まれて初めてぐっすりと眠る事ができた。その次の日の朝に名無しの鬼は塁から名前を貰った。


「三日月 直近。今日からそれが君の名前だ。」


名無しの鬼は三日月 直近という名を気に入り、その名前を受け入れた。


名前を与えられた直近はそれからしばらくの間は塁の世話になった。塁から字や知識などを教わり、村の人達とも仲良くしていた。

村での生活は直近にとってとても素晴らしいものだ。暖かい食事に清潔な寝床に服。そして優しい人達に囲まれて直近は幸せだった。

しかし、どこか物足りなかった。

名無しの鬼だった頃、直近は頻繁に誰かに殺されそうになってきた。その度に返り討ちにし肉を食べた。

肉はもう食べたいとは思っていなかったが、誰かと戦う行為はとても良かったと直近は村に来てからそう思うようになった。

村での生活はとても心地よい。しかし、退屈でもあった。毎日同じような事の繰り返し。いつしか名無しの鬼だった時にやった殺し合いをまたやりたいと思うようになってしまった。ただ無差別に殺すのではなく相手が反撃してくる殺し合いを直近はしたかった。優しい村人達に危害を加える気はこれっぽっちもなかった。


そんなある日、直近は塁が人を殺したのを目撃してしまった。殺した理由は防衛。村に押し入ろうとした盗賊を塁は村の人達を守るために殺した。

その時目にした不思議な武器に目を奪われた直近はそれが何なのか塁に聞いた。

塁は教えるかどうか少し悩んだが、直近に何度も聞かれたためきちんと教える事にした。

塁は直近に自分が【刀持ち】である事を教えた。そして【合戦場】の事もそれに関する事もできる限り分かりやすく教えた。

塁から色々と教わった直近は目を輝かせた。そんな凄い所があるのかと興奮すらした。直近はすぐに【合戦場】に行きたいと塁にねだった。


「駄目。あそこは殺し合いをする所だ。もう少し大きくなってからにしなさい。」


だが、塁は許可を出してくれなかった。

いつもならば直近は塁の言う事を聞くが、この時ばかりは塁の言う事を聞かなかった。【合戦場】に行くのを諦めなかった。何度も何度も塁に【合戦場】に行きたいとねだり続けた。何度も何度も断られても諦めなかった。

直近のねだりに塁はとうとう根負けしてしまい、自分から離れない事を条件に直近を【合戦場】へと連れて行った。

ついに来れた【合戦場】に興奮し辺りを見回しながらも塁の言いつけを守ってしっかりと塁の手を握って離れなかった。


塁に連れられて訪れたのは大型映像機が設置されている観戦場。ここで何が始まるのかという直近の質問に塁は答えてくれた。


「これから【合戦場】で一番強い人が戦う姿を見るんだよ。」


一番強い人。

それを聞いた時、直近は本当にいるのかと疑問に思ったが映像機越しで見た殺し合いを見てその疑問はすぐに無くなった。

人数差があるにも関わらず。

体格差があるにも関わらず。

どんな相手だろうと殺してみせた。

相手を殺すたびに周りの観客達は名前を叫ぶ。

流浪! 流浪!! 流浪!!! と。


直近は流浪の戦いぶりに目を奪われていた。そして、こう思うようになってしまった。

流浪と殺し合いたい。

闘争の血が騒ぐ。本能が叫ぶ。流浪を殺したい。流浪と殺し合いたい。流浪に殺されたい。

直近は目を輝かせながらそう思っていた。

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