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るろうがぁる   作者: 日暮蛍
名無し
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二十三話 ■■ 真琴

自分を生んでくれた親にも関わらず彼女は綱吉の存在を受け入れられなかった。

暴力を振るわれたわけではない。過剰な期待を寄せられたわけではない。綱吉は家族の前では感情をあまり表に出す事はなく、寡黙な男として生活していた。

しかし、彼女は気がついていた。自分の父が人を殺している事を。そして、それによって金を稼ぎ母や自分を養う一部にしている事を。育ててくれた事にも感謝はしているし、【合戦場】という場所があるためそこで人を殺したのだろうと察しはついていた。

それでも。そうと分かっていても彼女は綱吉を受け入れられなかった。

彼女は暴力が嫌いだ。血を見るのが嫌いだ。喧騒が嫌いだ。暴言が嫌いだ。【合戦場】が大嫌いだ。

過程はどうあれ結果として自分の父が人を殺している事に彼女は嫌悪感を感じていた。


自分が嫌われている事に気がついていた綱吉は娘のために極力彼女と関わらないようにしていたが、それすらも彼女の癇に障っていた。彼女からすれば綱吉のその行動は自分とは住む世界が違うと誇示しているように見えてしまったからだ。

そして彼女はとうとう家から出て行き一人暮らしをするようになった。

母とは時々連絡をとっていたが、父とは一切連絡する事はなく、母から父とも話をしないかと言われても彼女は何かと言い訳をしては父と話をするのを避け続けた。


長年連れ添った家族の元から離れて一人で暮らしてそれなりの苦労を味わいながらも平穏に過ごし、やがて友人や恋人ができた。

恋人との交際を続け、やがて結婚し、子供を産んだ彼女。

我が子の顔を見て彼女は誓った。この子には普通の子に育って幸せになってもらいたい。そう思った彼女は自分の子供、真琴に他の普通の子のようになれるよう真琴が幼い頃から普通の子になりなさいと言い聞かせてきた。

しかし、真琴は彼女の思った通りの行動をとってはくれなかった。

普通の女の子が好きそうな服を嫌がり、普通の女の子のように髪を伸ばすのを嫌がり、普通の女の子が好きそうじゃないものを好む。

根気強く言えば真琴は彼女の言う事を聞いてくれるが、心身共に成長するにつれて反発心も育っていったためなかなか彼女の言う事を聞かない時がある。そのうちの一つが綱吉に会いたいという要求だ。何回か父と母の家に遊びに行った時に真琴は綱吉に懐いてしまった。普通ではない父とあまり関わってほしくなかった彼女は真琴に父に近づくなと言ったが、真琴は聞き入れなかった。


日に日に真琴の反発心が強くなってしまい、真琴と口論をしていたある日、母が亡くなったという連絡が入った。

本当は真琴を連れていきたくなかったが、母も真琴の事を可愛がっていたし真琴も母の事が好きだったのを知っているため、留守番をさせるのはさすがに可哀想だと感じた彼女は渋々真琴も母の葬式に参列させた。

真琴におとなしく座って待っていてと言いつけた後、彼女は親戚達の挨拶回りに向かった。挨拶が一通り済んだ後真琴の元に向かったが、待っていてと言った場所に真琴はいなかった。彼女は慌てて真琴を探しに行った。いったいどこに行ったのだと焦っていると少し離れた場所から騒がしさを感じた。もしかしてそこに真琴がいるかもしれないと思った彼女がそこに行くと、信じ難いものを見てしまった。

うつ伏せでうずくまり苦しそうにうめき声をあげている男の横で抱き合っている綱吉と真琴。一瞬、真琴と目線が合ったがすぐにそらされてしまった。

何があったのかはこの時の彼女は知らない。

しかし二人の姿を見た彼女は危機感を感じた。これ以上父と真琴を一緒にさせたら、真琴は普通の子ではなくなってしまう。そう思った彼女はこれを最後にもう二度と、絶対に真琴を祖父に会わせないと決めた。


これは真琴のためだ。

そう自分に言い聞かせた彼女は父に会いたいと言う真琴に対していつものように怒鳴りつけて言う事を聞かせようとした。

だが、真琴の目を見ていつもと違う様子に気がつき、そして恐怖を感じた。彼女を見る真琴の目に父の面影を感じてしまった。

それ以来、彼女は真琴と目を合わせるのが怖くなってしまった。


それから日にちが経ち真琴の学校で長期休暇が始まり、夫も連続休暇をとれたため、彼女は夫と真琴と共に夫の実家に訪れた。

あれから真琴がおとなしく彼女の言う事を聞いてくれるため、彼女はあの時の真琴の目は自分の気のせいだと無理矢理自分に言い聞かせ他の子供達と遊んでくるようにと言った後、彼女は親戚達の挨拶に向かった。

挨拶を終え一息入れた後、彼女は真琴の様子を見ようと子供達が遊んでいる部屋に向かったが、そこに真琴の姿はなかった。どこに行ったのだろうと思っていると、庭の方で悲鳴が聞こえてきた。

何事だと思い慌てて庭の方に向かうと、親戚の子の一人である男子がうつ伏せでうずくまり呻き声をあげていた。その子の母親が男子に寄り添い、心配していた。

男子の様子を見て彼女はあの時の事を思い出す。母の葬式の日、うつ伏せでうずくまり呻き声をあげていた男の横で抱き合う綱吉と真琴の姿を。

あの後何があったのかを聞いた彼女は、うずくまる男子の姿を見てある予想を立ててしまった。それは彼女にとって最悪の予想だ。


真琴にやられた。


ようやく痛みが引いて喋れるようになった男子が、男子の母親に何があったのかと聞かれ真っ先にそう答えた。

男子は真実を言っていたが、一人を除いて誰も信じなかった。なぜかと言うと男子は前々から素行が悪く、嘘をよくついていたため今回も男子の嘘だと思われた。さらに親戚のもの達から見た真琴はおとなしい子のため、そんな子がそんな暴力的な事をするわけないと考えた。

しかし、彼女は違った。彼女だけは男子の言葉を信じ、男子に真琴はどこに行ったのと聞いた。

しかし、痛みでそれどころではなかった男子は真琴の行方を知らないと言う。

真琴を探そうと慌てる彼女に親戚達はすぐに戻ってくると言い落ち着かせた後、少し経ったら自分達も真琴を探すと言ってくれたため彼女は少し落ち着きを取り戻した。


しかし、その後いくら親戚のもの達があちこち探しても真琴を見つける事はできなかった。


それからさらに時間は経ち、父の実家から帰った後も真琴を見つけられずにいた。

警察にも相談はしたが進展はなし。

真琴が何かの犯罪に巻き込まれたのではないかと彼女は毎日心休まる事なく過ごしていた。

しかし、真琴の長期休暇の最終日の早朝に一本の電話がかかってきた。連絡先は父の家の電話から。彼女は一瞬電話を切ろうと考えたが、思い直して電話に出た。電話の相手は父ではなく、真琴だった。

ずっと探していた真琴が電話の向こう側にいると知った母は安堵と喜びの両方を感じ、真琴から居場所を聞き出した。


真琴が今いる場所は父の、綱吉の葬儀場だ。



◆◇◆◇◆



鬼丸 綱吉が、自分の父が死んだ。

電話の向こう側でそう告げられた時、彼女は少し心がざわついたが、それを上回るほどの安心感があった。

もう真琴と父が関わる事はない。もうこれ以上真琴がおかしくなる事はない。

そう考えた彼女は穏やかな気持ちで父の葬儀を終えた後、喪主からの気遣いにより後の事を任せて真琴を連れて一旦家に帰る事になった。


一般乗用旅客自動車(タクシー)に乗り込んだ後二人共無言のままだったが、しばらくした後彼女の方から話を切り出した。


「連絡、無かったから心配したわ。」


葬儀場で再会した時、彼女は真っ先に真琴を叱りつけた。行くなと言った父の家に行っただけでなく連絡をしなかった事を中心に真琴を責めた。綱吉の友人に止められるまで母は真琴に怒鳴ったが、その間真琴は何も言わなかった。

それが不気味と思い、彼女はその後、真琴とうまく話す事が出来なかった。

返事がない真琴に彼女はもう一度同じ事を言おうとした時、真琴は口を開いた。


「ねぇ、なんでおじいちゃんの事嫌いなの?」


真琴の質問に彼女は答えられなかった。

綱吉に対してあのような態度を取り続けていれば嫌っている事に気づかれるのは当然だと彼女自身もわかっている。しかし、これに答えたら取り返しがつかない事が起きるのでと予感がした。


「…今は関係ないでしょ。」


そう言ってはぐらかそうとした時、彼女は真琴に顔を掴まれる。


「いいから答えろよ。」


みしみしと顔を掴む手の力は明らかに少女のものではない。

何をするんだと怒鳴りつけようとして、ここでようやく彼女は真琴と目線を交わした。

あの時のように冷たい目で母である彼女を見ていた。

痛みとその目に恐怖を感じた彼女はそれから逃れたい思いと今まで抱えてきた思いを吐露してしまった。

彼女の話を聞いた後、真琴は彼女から手を離して納得したかのように頷く。


「そう、分かったよ。」


それを聞いて、彼女は少し安心した。

抱えてきた父への思いを誰かに話してすっきりしたというのもあるが、父がいかに危険な男である事かを真琴に伝えられたと思った彼女は真琴が綱吉に対して好意的態度を取る事は無くなると思った。


「私とあなたじゃあ価値観は違うんだね。」


しかし、真琴の答えは彼女の思っていたものとは違うものだった。


「私は暴力嫌いじゃないよ。だって、あの時何も思わなかった。罪悪感とか、そんなもの一切感じなかった。」

「…え?」


彼女は真琴の言っていることが理解できなかった。

理解したくなかった。


「私はおじいちゃんと同じ。誰かを壊す事に躊躇はない。」

「やめて。」

「おじいちゃんの死因は心臓麻痺じゃないよ。私が殺した。」

「やめなさい!」


車内である事を忘れて彼女は大声を出す。

聞きたくなかった。何かの冗談だと思った。真琴は普通の子。そんな事を口にするわけがないと信じたかった。


「冗談でも言っていい事と悪い事があるの!」

「冗談に聞こえたの? 本当に?」

「ひっ!?」


今話をしているのは本当に自分の娘であるのかと彼女は疑ってしまった。

彼女に向ける冷たい目。彼女にかける冷たい声。

それに父の、綱吉の面影を強く感じてしまった事に彼女は恐怖を感じた。


「何を、何を言っているの! あなたは女の子なの! 殺しとか、暴力とか。そんなこと言わないで!」


それでも、認めたくなかった。

今からでも普通の女の子としての幸せを教えられる。まだ間に合うと彼女は本気でそう思っていた。


もうとっくの昔に手遅れである事に、彼女が気が付いていない。


「馬鹿な事言っていないで女の子らしく普通に」

「あのさぁ。」


真琴は彼女の言葉を遮る。


「それ、本当に大嫌い。普通も、それを押し付けるお前達も。全部大嫌い。私の幸せを勝手に決めないで。」


真琴が冷たく突き放すようにそう言った直後、運転手が真琴に声をかける。


「お客様。まもなく目的地でございます。」

「そう、分かった。」


それを聞いた彼女は変に思った。

何せ彼女達の現在地では自分達の家からまだまだ遠い。目的地というには早すぎる。

そして、彼女はさらに不審な点に気がついた。

あれだけ騒いでいたにも関わらず運転手が何も言ってこなかった。それが不気味に思い、彼女は運転手に対しても大声を出してしまう。


「ちょっと! 目的地はまだまだ先じゃない!」

「いいえお客様様。もうすぐですよ。ただし。」


そこで運転手は振り返る。


「あなたではなく、そちらのお客様です。」


彼女は運転手の顔に見覚えがあり、その名前を呼んだ。


「天野 一!」

「そうでーす! 初めましてお母様。そして、さようなら。」


天野がそう言った直後、前方に突如大型車が出現し、そのまま真琴達が乗っている一般乗用旅客自動車と激突した。

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