十一話 どどどどうしてこうなった
「…えぇ。」
目の前の惨状を見て、名無しの権兵衛はとりあえず冷静になろうとここに転送される前の事を振り返る。
時間になったのか係のものに呼び出された名無しの権兵衛は今回の【ムソウ】を見るために訪れて来た多くの人達がいる会場内まで移動し、多くの人達の視線に晒されながら【ムソウ】が行われる戦いの舞台に転送された。
事前の説明で今回戦う場所は高層ビルが並ぶ街と聞かされた名無しの権兵衛は転送された先は綺麗な都会の街並みだと思っていた。
が、転送された場所は名無しの権兵衛の想像とはまるで違う場所だった。
どこからか悲鳴や怒声が聞こえ、どこかで何かしら燃えているのか至る所から黒い煙が立ちのぼっている。そして、漂ってくる血の臭い。
名無しの権兵衛が来る前からこの場で戦いが行われている。そう理解した名無しの権兵衛は一人呟く。
「どうしてこうなった。」
◆◇◆◇◆
この日、流浪ぶっ殺すの会のもの達は【写し持ち】として今回の【ムソウ】に参加した。理由は名無しの権兵衛を殺すため。
そのため【写し持ち】達は数の差を武器にそれぞれの力量を考えて配置についたり名無しの権兵衛を陥れるために罠の設置などをして名無しの権兵衛を殺す準備を整えていた。
その途中で、問題が発生した。
【写し持ち】達が作業している時、無線機から連絡が入った。通信相手は他の場所にいる【写し持ち】。何用だと聞くと相手は慌てた様子でその場の現状を伝えた。
突然、他の奴らが殺し合いを始めた。
それを無線機越しで聞かされ、何を言っているんだと言おうとした時無線機から断末魔のような声が聞こえてた後、通信が切れた。只事ではないと判断し様子を見に行こうとした時、後ろから怒鳴り声が聞こえてきた。振り返ると他の【写し持ち】二名が言い争いをしているのを見かけ、少し苛立ちながらも止めに入る。
一体何があったのかと聞くと、言い争いをしていた片方がこいつにいきなり攻撃されたと言うともう片方がお前が先に攻撃してきたのだろうと言う。
お互いやっていない、いややったと言い争う姿に苛つきながらも何とか止めようとした時、仲裁に入ろうとした【写し持ち】の背中に激痛が走った。
何が起きたのか分からないまま仲裁に入ろうとした【写し持ち】はその場で倒れてしまう。痛みで起き上がれず、地面に広がる血を見て後ろから誰かに斬りつけられたと【写し持ち】が理解した時、誰かが大きな声で叫んだ。
「大変だ! こいつら、仲間割れをしだしたぞ。殺される!」
倒れているため誰なのかは分からない。しかし、自分を斬りつけたのは叫んだ誰かだと言う事は分かった。
しかし、それを言う前に残っていた他の【写し持ち】達が仲間割れをしだした。同じ目的を持っている同志が殺し合いをしている。それを止めようと立ち上がろうとしたが、誰かに強く踏まれてしまったため出来なかった。それに、血が大量に流れ出ているため立ち上がるどころか意識を保つ事さえ難しい。
どうしてこうなった。
死ぬ間際、倒れている【写し持ち】はそう思った。
◆◇◆◇◆
ビルの屋上からアキノは街の様子を眺めていた。視力が良いため屋上からでも道具無しで【写し持ち】達が殺し合っている姿をよく見る事ができる。しばらく【写し持ち】達の仲間割れしている様子を見ていたアキノは背後から近づく気配に気がつき振り返らずそのものに対して声をかける。
「あぁ、そういえばあなたもいましたね。」
やって来たのはこれまで従ってきた頭領だ。頭領は怒りで顔を真っ赤に染めて鼻息を荒くしている。
「お前! これはお前の仕業か!?」
「これ? もしかして、この下で行われている事を言っています? その事なら、はい。私ですよ。私がやりました。」
そう、この事態はアキノが引き起こした事。
アキノは【写し持ち】の姿に化け、【写し持ち】の何人かに攻撃をし、大きな声で「突然仲違いを始めてお互いを殺そうとしている。誰か止めろ。」と言い、【写し持ち】同士が殺し合う状況を作り出した。
「お前、我々を裏切ったのか!」
「はい。」
今までの態度が嘘のようにアキノは平然とした態度で頭領、いや頭領だった男の言葉をあっさりと認めた。
「なぜだ! なぜ我々を裏切った!」
「一万人。一万人。そんな大勢をたった一人なんて、おかしい。【刀持ち】はみんなそうなのか?」
「…は?」
「いくら私でも一万人を一人で相手にするのは無理だ。だからこうして数を減らさなければならない。」
微妙に会話が成立していない。
それもそのはず。アキノは今、独り言を言っている。頭領だった男と会話をしていない。
「おい、何を言っている。」
「…あっ。まだいたのか。」
その発言で気がついたのか、あるいはアキノの態度が気に食わなかったのか頭領だった男はアキノに襲いかかる。
「育ててやった恩を仇で返しおって!」
男が武器を手に取ったところでアキノはようやく振り返ると男がアキノに向けて武器を向ける前に男よりも速く武器を取り出し、男よりも速く動き、すれ違いざまに男の首を斬った。
「!?」
あまりの速さに男はついていけなかった。気がついたら喉元を斬られていた。思わず手で抑えたが、血が大量に流れ出ているため遅かれ早かれ男は死ぬ。
アキノの速さは忍び達の頭領である男の速さすらも凌駕する。しかし、男はそれが信じられなかった。信じたくなかった。格下だと思っていたアキノに負けた事に男は信じたくなかった。
が、男がどう思うが結果は変わらない。
忍び達の頭領である男よりもアキノの方が速く、強い。誰が何と言おうとそれは覆らない事実だ。
しかし、男はどうしてもそれが認められず必死でアキノを殺そうとアキノの方を見ると、男は動きを止めた。
アキノが、笑っていた。
初めて見たアキノの笑顔はとても楽しそうで、その表情のまま男に近寄り勢いよく男を蹴った。その力は尋常ではなく、その蹴り一つで男は地面に倒れ伏した。アキノはさらに男を何度も何度も踏みつけた。
「ふふっ。ふふふふあははははははははははっ! ざぁこざこざこざこざこざこ!」
アキノの楽しそうな笑い声を聞きながら、男は死の間際こう思った。
どうしてこうなった。
◆◇◆◇◆
「おい、落ち着け! 明らかにこれは罠だ!」
【写し持ち】の中にはこの騒動を何とか収めようと動いているもの達も少数だがいた。しかし、その行動が報われる事はない。ほとんどのもの達は話に耳を傾ける事なく感情任せに同士討ちをしている。
それでも、名無しの権兵衛を倒すためにも更なる消耗を止めるためにそのものは暴動を止めようとした。
「やめろお前っら。」
言いかけたところで、そのものは胸元から激痛を感じた。ゆっくりと下を見下ろすと胸元から真っ黒な刀身の刀が飛び出ていた。
刀が引き抜かれ、支えを失ったため刺されたものは倒れる。その時、後ろから刀を刺してきたものの姿を見た。
名無しの権兵衛だ。
流浪ぶっ殺すの会のもの達にとって最悪な時に名無しの権兵衛がやって来た。
トドメを刺すために近づいてくる名無しの権兵衛の足音を聞きながら、そのものはこう思った。
どうしてこうなった。




