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るろうがぁる   作者: 日暮蛍
名無し
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一話 はじまり。

まず最初はとある世界で起きた大きな戦争の話をしよう。


後の世で九十九(つくも)戦争と呼ばれる事となる大戦争。名の由来はその戦争では神、人、妖怪、その他関係なく九十年以上争い合ったことから付けられたと諸説にある。


最初で始まりのこの話の中心となるのは多くの信仰を得ている神、ではない。様々な伝説を残し後に英雄と呼ばれる人間、ではない。多くのものを食い荒らし悪名を轟かせ多くのもの達に恐怖心を植え付けた妖怪、ではない。特別な才能も祝福も幸福も不幸も血筋も出生も前世も無い。たまたまその時代に生まれただけの人間だ。

呼称がないと不便なのでひとまず人斬りと呼ぶ事にしよう。


人斬りはちっぽけな存在だった。それゆえに誰も人斬りの事を気にする事はなかった。この時代のこの世界にとって人斬りはすぐに消える命だった。

だがある日、人斬りが出会ったものの存在によって事態は大きく変わった。 

それと出会った人斬りはそれと一緒に戦争の中心人物を殺し、その次に戦争に必要な物資や武器を奪い、最後には様々なものを破壊してまわった。人斬りが戦ったものの中には正攻法では殺せない神もいたが、人斬りはその神すら殺してみせた。


理由、目的は不明。確かな事は人斬りの存在が脅威である事だけ。


多くのもの達が人斬りを止めようとしたが、逆に返り討ちにあい、命に技術に物資に宝物を根こそぎ奪われ被害はさらに大きくなってしまった。

このままではいけないと思った戦争関係者達は人斬りを倒すまでの間は同盟を結び、全員一丸となって人斬りを倒すために奮闘した。人斬りとの戦いで多くの犠牲は出たが、その甲斐あって人斬りを殺す事ができた。


生き残ったもの達は人斬りと戦ったことで予想以上に消耗したことでこれ以上争うのは得策でないと判断し、戦争は終戦。わだかまりはもちろんあったが、それでもこれ以上人斬りに振り回されるよりかはましと考え、終戦を受け入れた。 


だが、それで終わりではなかった。


九十九戦争が終わり、数年が経過した。生き残った人達が戦争の爪跡が残る地で懸命に生きていたが、物資の少ない荒れ果てた環境では限界がある。今日を生きる事すらままならない人々は、心身ともに衰弱していった。


そんなある日、人々のもとにこんな噂が流れてきた。


自身をカミサマと名乗るものに認めてもらえば不思議な刀を授けてくれる。

雨を降らせる刀。米が湧き出る刀。人々を元気付ける刀。人々に恵みをもたらす刀。

さらに、その刀を手に入れ己の力を示せばいろんなものが手に入る。

衣食住はもちろん、娯楽や土地に若い体。人を愛するにあたって必要なものはここには大抵揃っている。

その場所の名前は【合戦場】。

欲しいものがあるならここに来い。そしてカミサマに認めてもらえ。そうすればもう、飢えに苦しむ事はなくなる。


普段ならば、このような噂は眉唾物だと無視するもの達が多いのだが、藁にもすがる気持ちで人々は衰弱した体で【合戦場】へと向かっていった。そして、【合戦場】に向かったもの達はほとんど帰ってこなかった。

唯一帰ってきたもの達に【合戦場】がどんなところなのかと聞いた人達は、質問の答えを聞いて首を傾げた。


「あそこは楽園だ。」

「あそこは地獄だ。」


明らかに矛盾している。

それ以上聞こうとしてもそれ以上の事は話さず口を閉ざすだけ。

これだけでは【合戦場】がどんな所なのかまるで分からない。しかし人々はこのまま苦しい生活を続けるくらいなら、とあるかどうか分からない希望を求めて【合戦場】へと向かっていく。


噂を聞いた人達が【合戦場】に向かい、大勢が行方不明になっていく事を問題視したもの達は【合戦場】の場所を、そしてカミサマと名乗る存在を探した。

捜索の末、ついにカミサマと名乗るものと出会う事ができた。そしてその顔を見て、皆絶句した。中にはその顔を見て恐怖で腰を抜かしたものまでいた。


なにせカミサマの顔が九十九戦争を引っ掻き回した人斬りと同じ顔をしていたのだ。


「お前は、誰だ?」


人斬りと同じ顔のものは笑顔で質問に答えていく。


「オイラはカミサマだよ。」

「何が目的だ。」

「君達にはまだナイショ。まぁすぐに分かるよ。」

「なぜあいつと同じ顔をしている。あいつの関係者か?」


その質問受けて、カミサマはニコニコとした笑顔から不敵な笑みへと表情を変える。


「お前達がこの子の事を忘れないようにするためさ。」


その笑みは戦時中、人斬りがみせたものと瓜二つだ。しかし、今こうして話をしていると人斬りとは別の存在であると思い知らされる。人斬りよりももっと得体の知れない恐ろしい存在である事に気がついたもの達は恐怖した。


中にはその恐怖に耐えきれずカミサマに攻撃を仕掛けたものが数名いた。恐怖に飲み込まれなかったもの達は止めようとしたが、間に合わない。

カミサマはその攻撃を避けようとすらしなかった。このままでは攻撃はカミサマに当たるのだが、それを阻む第三者が現れた。


「・・・・・。」

「あぁ。来てくれたんだ。嬉しいなぁ。」


攻撃を刀一振りで防いだのは全身黒尽くめの男ただ一人。その事に攻撃を仕掛けたものも止めようとしたもの達も驚いたが、それよりも男が手にしていた刀に注目していた。


ありえない。


刀を見て真っ先に思い浮かんだことがそれだ。

男が手にしている刀は複数の攻撃を受けたにも関わらず、折れてもいないしヒビも入っていないし傷一つ付いていないし刀身に歪みが無い。

通常の刀ならばあれだけの猛攻を受けてしまえば大小関わらず傷がつくものだ。しかし黒尽くめの男が持つ刀にはそれが一切見受けられない。


刀が注目されている事に気がついたカミサマは再びに柔らかな笑みを浮かべる。


「あ? 気になる? 気になるよねー。この刀はね、オイラが作ったの。」

「…は?」


衝撃の事実に数名ほど驚きで口から間の抜けた声が漏れた。


「まさかお前が。お前がそれを作ったのか。」

「そうだよ。やろうと思えば似たようなものを複製することだって出来るよ。」


それを聞いて皆再び絶句した。

黒尽くめの男が持つ壊れない刀を作る技術は今は存在していない。刀は消耗品。それが多くのもの達の共通認識だ。

にも関わらずカミサマと名乗る存在は壊れない刀を作ったと簡単に言ってのけてしまう。そして、それが本当である事を今証明して見せた。


「凄いでしょ。」


カミサマは男の肩を抱いてクスクスと笑い、男は一切喋らないまま刀を鞘におさめる。


「君達も【合戦場】を探しにきたのかな? それならいち早く刀の凄さを見れたのは幸運だね。」


そう言いながらカミサマはつい先ほどまで敵対行動をとっていたもの達に近づいていく。黒尽くめの男は無用心に近づいてくるカミサマに戸惑っている皆の様子を見ているだけで動く様子はない。 


「君達も【合戦場】に来てみなよ! 刀が手に入らなくても実力があれば美味しいご飯が食べられるしあったかい寝床で寝られるしきれいな服だって着られるよ。」

「…ほ、本当か?」


皆の内の一人がポツリと呟いたそれをカミサマは聞き逃さなかった。


「ほんとほんと。嘘じゃあないよ。…んー。直前まで内緒にしておきたかったけど、しょうがない。特別に教えてあげる。」


そう言ってカミサマは薄い冊子を差し出す。つい受け取ったものは表紙の文字を声に出して読む。


「《これ一冊でとても分かる! 【合戦場】について!》、だと?」

「そう! 詳しい事はそこに書いてあるけど、近々娯楽施設として解放するつもりなんだ。」

「娯楽施設?」

「あっ、他の人達も読んで読んで。」


まず受け取ったものが最初に冊子の中身を注意深く見ていく。そしてカミサマから半端押し付けられるように冊子を受け取ったもの達も用心しながら中身を読んでいく。そして皆読み終えた後、様々な反応を見せた。


「ふざけるな!!」


怒り、恐怖、嫌悪。反応はそれぞれ違えど冊子を読んだもの達は皆カミサマに対して敵視していた。カミサマと黒尽くめの男を除けばこの場にいるもの達は苛烈な戦争を経験したことで平和な世を望むもの達ばかり。

そんなもの達に以下の内容が書かれている冊子を見せればこうなるのは必然だ。


《【合戦場】は皆様の破壊衝動や殺意を発散させるための娯楽施設です。人を壊したい人、人を屈服させたい人、人を殺したい人。そんな危険な思考を持つ人達は特に大歓迎。もちろんそんな危険な人達の行いを見たいという人達も大歓迎します。

殺した後も殺された後も大丈夫! 【合戦場】の秘密の技術で殺し合いで死んだ人を生き返らせるサービスを行なっておりますので安心して何度も何度も殺し合いをしてください。

さらに、殺し合いで得られる得点の数だけ豪華特典を差し上げます。

世界一安全な殺し合いの娯楽施設! 殺せば殺すだけ報酬が手に入るお得な仕組み!

皆様のご来場を心待ちしています。》


殺し合いを推奨する施設を作ると皆の目の前で臆する事なくはっきりと言ったカミサマは皆の敵意剥き出しの視線を受けながらも変わらずニコニコと笑っている。


「こ、こんなもの認められるわけないだろ!」

「えー! なんで? 他のみんなは嬉しそうにしてたよ。」

「皆?」

「オイラが流した噂話を聞いた人達にそれと同じものを渡して細かい説明を聞いた上で、みんな「やる!」って言ってやる気満々で殺し合いをしてくれたよ。」

「…おい。まさか、その皆って行方不明になっているもの達の事か?」

「そうだよ。」


皆の様々な感情が込められた視線をものともせずカミサマはあっけらかんと、自分が行方不明者を出している原因である事を認める。


「ふざけるな! 今すぐ皆を解放しろ!」

「ちょっとちょっと。その言い方だとまるでオイラがみんなを拐って監禁している極悪非道な奴みたいじゃあないか。違うからね。みんな自分の意思で【合戦場】で殺し合いしてるんだからね。」

「自分の意思で、だと! ふざけるな。でたらめな嘘をつくんじゃあない!」

「嘘じゃあないよ。なんでよく分からないくせにそうやって決めつけるのかなぁ。」

「殺し合いなんて、皆がやるわけないだろう!」

「…よりにもよって君達がそういう事を言うんだ。たくさん人を殺した君達が。」


カミサマがそう言った途端、皆押し黙ってしまった。

カミサマと黒尽くめの男を除いた、ここにいる皆は神ですら死んだ苛烈な九十九戦争から生き残った強者達だ。そして、国のため、使命のために人を殺した戦士でもある。

その人達が争いを、殺し合いを否定する事にカミサマは納得いかない様子だ。


「どうして君達がよくて、他の人達が殺し合いをしたらダメなの?」

「…そ、それは。…我々は誇りと信念のために、戦ったのだ。断じて利益のためだけに殺しなどしない。」

「誇りと信念だけじゃあ生きていけないよ。他のみんなは生きていくためにがんばって殺し合いをしているんだ。生きていくために必要なものを手に入れるために殺す。これは昔からある自然の摂理ってやつなんだよ。君達はそれすら否定するの?」

「戦争はもう終わった! 我々はもう、争う必要が無い!」

「だったらどうしてみんな【合戦場】で殺し合いをしているの? 君の言う通りなら行方不明者なんていないし、今頃【合戦場】には閑古鳥が鳴いているはずだよ。そもそもこんな荒れ果てた世界でどうやって生きていくつもりだったの? 作物は育たないし日は差し込まないからすっごく寒いしいろんな人達の気が立って治安は最悪。ねぇ、教えてよ。こんな世界でもみんなが仲良しこよしで平和に暮らせる方法をさ。」

「そ、それは…」


カミサマの言う通りだ。

九十九戦争の影響でこの世界の地は汚染され、分厚い灰色の雲が空を覆っている。そのせいで作物は育たないし、その影響で動物も少ない。食糧不足で餓死したものが続出するほどにこの世界は弱っていた。そんな状況下で「争わず、みんな仲良くしましょうね。」と、言うのは酷な話である事はここにいる皆は重々承知の上だ。


つい先ほどのカミサマの「実力があれば美味しいご飯が食べられるしあったかい寝床で寝られるしきれいな服だって着られるよ。」という発言が事実ならば皆もその話に飛び付きたい。しかし、それと同時に目の前のこいつに頼るのは大きな間違いであると頭の中で警告している。


しかし、カミサマの言葉を拒絶しようにもその理由が思いつかない。カミサマは嘘をついてはいないし何かを強要したわけではない。ただ、他のもの達の選択肢を増やしただけだ。

それでも、何かを言わなければいけないと思い、皆の中のうちの一人が今の話とは関連性が低い話題を口走る。


「そもそもこんな事になったのは、お前の、あいつのせいだろうが! あいつがあんな事をしなければこんな事にはならなかった!」


九十九戦争で悪名を轟かせた人斬りは多くの人達に忌み嫌われていた。当然の反応だ。人斬りと同じ顔をしたカミサマにあたるほどに、皆は人斬りを憎んでいた。


他の皆も続けて言おうとした。


「そう! 全部あの子が悪い! 九十九戦争を引っ掻き回し! 多くの人を殺し! いろんな人達から大切なものを奪ったあの子のせいだ!」


だが、間髪入れずに大きな声で同意したのは、よりにもよって九十九戦争を引っ掻き回した人斬りと同じ顔をしたカミサマだ。


「そして、付け加えるのならばオイラも悪い! 全部全部! あの子とオイラの二人が悪い! な、ぜ、な、らー。」


勿体ぶるように言いつつ、カミサマは今日一番のとびっきりの笑顔を浮かべる。


「あの子をとびっきり悪い子にしたのは、他でもないオイラの仕業だからさ。」

「…はっ?」

「いやーついに言っちゃったなぁ! オイラが無名の人斬りだったあの子を強くしたり、直々に暗殺を依頼したり、略奪をお願いしたり、とにかく暴れろーって命令したりと色々としてもらった事もついつい言っちゃうなー。」


ニコニコと笑いながら皆にとって、世界にとって重要な話をポンポンと話すカミサマ。事実を話せば話すほど向けられる憎悪が増すが、カミサマは笑顔を崩さない。


「だから悪い事はぜーんぶオイラとあの子のせいにしていいよ。」


その言葉がきっかけでその場にいる皆は一斉にカミサマを捕縛、あるいは殺害を試みたが全員失敗に終わった。黒尽くめの男によって阻まれたからだ。

黒尽くめの男は人数差をものともせずに全員峰打ちの身にとどめた。全員命はあったがすぐに立ち上がる事ができない。


「宣伝はこのくらいでいいかな? それじゃあ【合戦場】ができたらぜひ遊びに来てね。みんなのご来場、心からお待ちしておりまーす。」


そう言ってカミサマと名乗るものと黒尽くめの男はその場から立ち去る。まだ意識が残っていたものは倒れ伏した身でありながら憎しみが篭った眼差しを双方に向ける。それしか出来なかった。



◆◇◆◇◆



それからカミサマの宣言通り【合戦場】が解放され、それから二百年以上運営が続いた。

その間【合戦場】の封鎖及びカミサマの暗殺を目論んだもの達が後を断たなかったが、そういった目論見全て阻止される。

中でも積極的に邪魔をしていたのはカミサマの隣にいたあの黒尽くめの男だ。【合戦場】を潰したいもの達にとって男は邪魔な存在。しかし、誰も男を殺すことは出来なかった。

黒尽くめの男が強すぎて誰も勝てないからだ。


男の素性は不明。唯一知られているのは合戦場で用いる男の偽名のみ。


男の偽名は流浪。


男が合戦場からいなくなるまでの二百年間、殺し合いにおいては誰も男に勝てなかった。どんなに不利な状況でも男は己の身と一振りの刀だけでそれに勝利してきた。

そんな男に多くの人達は畏怖を感じていたが、同時に惹かれてた。どんな相手に対しても決して膝をつかなかった男の存在はいつしか多くの人達の心を鷲掴んでいた。


だからある日、男が死んだという知らせは合戦場内だけでなく男を知るもの達全員に強い衝撃を与えた。

死因は不明。カミサマに問いただしても「それは答えられない。」の一点張り。カミサマ以外で男の死因を知っているものはいない。


たった一人を除いて。

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