序説
僕はなんでラグビー部に入ったんだろう?
だいたいもともと運動音痴だったんだ、僕って。小学生から中学生まで学校が終わったら塾通い。親は僕を地元鹿児島の私立のR中高一貫校へ入学させたかった。僕は僕で坊主頭の公立中学校ではなく長髪の私立へ入りたいという不純な動機で僕なりに頑張った。
昭和のあの頃の鹿児島では、男子は坊主だった。
でも小学6年初めぐらいからもう塾の勉強へついていけなくなった。進学塾でやる勉強は小学校でやる内容とは全く異次元の世界で、鶴亀算とか何とか算とか次から次に出てきてあっという間についていけなくなった。
受けた中学入試は周囲の予想通り不合格。
それで公立の坊主頭の中学校へ入学したが、塾はそのまま通い続けさせられた。その塾で仲良くなったのが上之園君だった。彼は僕とは違う中学校だったけど、塾でのコースは同じで、高校は二人とも県立のT高校へ入学した。放課後は塾と同じように一緒に甲突川沿いを自転車で帰路についていた。夕焼けの中の桜島はゆっくりと煙をあげていた。
「部活はいる?」
「ラグビーかな。。」
「え、ラグビー?」
僕もそうだが、彼も運動とは縁のない体格だったので彼の言葉に驚いた。
「野球やサッカーって小学校からやっている奴らには敵わないだろ。その点ラグビーはみんな同じスタート地点でよーいドン、かなと思って。」
「ん。。」
彼はそのうちいつの間にかラグビー部へ入部し、放課後は僕は独りで帰るようになった。
「テレビばかり見てないで勉強すれば!」
「うるさいなあ。」
帰宅したら、仲の良くない母さんとの喧嘩は日常茶飯事だった。仲が悪いのは無理もない、彼女は僕の生みの親じゃない。僕の生みの母さんは僕を生んですぐ死んだ。今の母さんは僕が幼稚園の時にやってきた。父さんは何時も帰りが遅かったので、そんな母さん、そして異母兄弟である弟との食卓は、良い思いではない。
そして、ある日僕もラグビー部へ入部届を出した。それが大きな人生の選択の誤りだった。