誇希の動きとカツミの世界
世界は、色々。日常も色々。人も色々・・・・
SIDE B----
鈴子の目の前では、微妙というより奇妙な姿勢で、誇希が西陣織の風呂敷で包まれた”何か”を抱えている。
「誇希君、あなたが持っているそれって、いったい何なの?」
鈴子にすれば、誇希の姿勢も気になるのだが、それよりも、なによりも、包みが気になる。
「鈴子様から、弊社にご注文いただきました商品をお持ちいたしました」
「うちからの注文って・・・・」
鈴子は、自身が注文したものについて考え込むのだが
「あ!そういえば・・・きな粉餅。そうよ、きなこ餅をって、ちょっと待って、その風呂敷に包まれているのがきな粉餅だっていうの?」
「左様でございまする」
鈴子は、誇希の言葉というか言葉遣いに、軽い頭痛を覚えていた。
「えーっと。きな粉餅はわかったわ。それより、あなた、もう少し普通にしゃべれないの?」
「鈴子様、御身に対して、そのような言葉遣いなど、できようはずがございません!」
「私に対して、御身って・・・・辞めてちょうだい!」
「なりませぬ」
誇希の言葉遣いが、ますます輪をかけて変になっていく。
「仕方ないわね。誇希君、会長命令です。普通に話をしなさい!」
「鈴子様から、そのような、お言葉いただき、もったいのうございます」
なんだか完全に言葉遣いが、おかしくなったままである。上司から、あれこれ言われて、がちがちに緊張していることもあるのだが、誇希の言葉遣いは、悪化する一方のようである。
「誇希君、普通に話しなさい」
「勿体のうございます」
鈴子は、押し問答に、ことさら大きくため息をつくと、
「わかりました。それじゃ、私からは、これ以上は、無理強いはしないけど、できるだけ普通に話すように心がけて、会長命令よ?」
「拝領いたしました」
鈴子の言葉が届いていないのか、やっぱり会話が、かみ合わない
「はあ、まあ、いいわ。ところで、そのきな粉餅見せてちょうだい」
鈴子は、誇希から西陣織の風呂敷を受け取った。ただし、その風呂敷は、鈴子の目から見て、非常に高価なものにしか見えない代物であった。
SIDE A---
今は、ただの不安しか無い中、カツミは、恐る恐る地下室へ降る階段を下りていた。その手には、ゴミを
入れるポリ袋を何枚も持っている。
「はあ、降りたくない・・・・」
ブツブツと独り言をいっている。それもそのはず、店や、私室を含めて家中、あらゆるものが、床に落ちて、壊れて、ごみと化していた惨状を見ているからである。そう言いながらも、カツミは階段を下りると、目の前にある倉庫の扉を前にして、
「はあ・・・・見たくない・・・・絶対、見たくない・・・・」
大きなため息と共に、扉のノブに手をかけつつ、開けるか開けまいか、もの凄く躊躇するカツミであった。
SIDE B---
鈴子の目の前には、鈴子の予想通り、”きなこ餅30個入り”と書かれた大きな木の箱二つ、西陣織の風呂敷の中からでてきたようで、やはりというか、風呂敷の中の”何か”というのは、きなこ餅だったようである。
「ちょっと、誇希君、あなた、今しがた、これ二つを風呂敷に包んで持ってたのよね・・・・」
「はい、そうでございまする」
「・・・・えーっと、もう一度、確認するけど、二つの箱を横に並べて、これで包んでたのよね?」
「まことに、そうであります!」
「・・・・で、貴方、片手でこれ持ってるときあったわよね?」
「はい!」
横に並べて、風呂敷で包んでいても、きつく縛っていたなら、気にすることもないのだが、ただ、包んでいただけだったので、当然、この包みを片手で持つと、横並びの一方の箱が、ずれ落ちて、結果的に、バランス崩壊して、片方が落ちるはず・・・・なのに・・・・。鈴子の頭の中は、
『どうなっているの?』
となるのだが
「鈴子様、何か、ご無礼を?その際は、不肖、わたくし!」
「・・・・あああ、気のせいだから、気のせい!ちょっと落ち着こうか?」
鈴子は、誇希の立ち居振る舞いだけが常識外れなのかと思っていたが、「貴方には、常識では計り知れないところがあるわね」と、言葉に出して、変にこじらせるより、鈴子自身、「私が、納得しさえすれば大丈夫よね?」と、思い込むことにした。
「で、西陣織の風呂敷に包んで、商品の納品に来たのは、貴方のアイデア?」
「いえ、開発さんから手渡されたのであります」
「えーっと、誇希君、貴方は、営業部よね?」
「そうであります」
何故か、このままだと、鈴子に対して、誇希が、「Sir Yes Sir」とか「Yes Mam」とかを、言い出しそうなほどに、”またまた”緊張してきているようで、
「誇希君、ちょっと深呼吸しよっか?」
「はいであります!」
鈴子から、またため息がきこえそうではあるが、
「まあ、この風呂敷のことは良いとして・・・」
鈴子は内心
『良いのかしら・・・』
とは、思ったのだが、
「よく見ると、この箱、段ボールじゃなくて、木箱よね?」
「そうであり・・」
鈴子は、誇希の返事を遮り
「それも、桐・・・は、おいといて、ちょっと、箱を開けるわよ」
「はい!どうぞであ・・」
「はいはい、もう良いから、えーっと、パッケージは、普通ね」
鈴子は、霧の箱自体にも突っ込みたかったのだが、強い木の香りに紛れて匂う甘い香りが箱の中からする。鈴子は、箱の蓋を開け、きなこ餅のパッケージを取り出す。、店に並べているきなこ餅も手を取ると、二つを比べる。
「見た目は、とりあえず、同じよね・・・・」
だれが見ても同じように見える。高級感を出そうとしているようで、逃げるほど薄い和紙で箱は包まれている。包みを開けると
「ん?この箱の手触りは、木ね・・・・これも、やり過ぎね・・・」
誇希が、鈴子の声に、”ビクッ”っと反応する。鈴子の顔色が、次第に困惑の表情へと変わる。
「誇希君、これを開発したのは、聞くまでも無いけど、商品開発部よね?」
「は・・」
鈴子は、問答無用で、返事を遮る。鈴子は、商品の箱書きを読んだようで
「きな粉は・・・・北海道の大豆?、砂糖は、阿波の和三盆?上新粉ね。”うるち米(青天・・・”」
鈴子は、原材料の一覧を見て、目を点にする。
「誇希君、納品署見せて?」
「イエス、マ・・」
鈴子は、誇希がいつの間にか、手に持っていた納品書を取ると
「あ、やっぱり・・・・これ仕切りが、一つ1500円?・・・・一箱だと、45000円・・・・」
鈴子は目眩がした。
「ちょっと、これって、原価を考えずに作ってる?そうよね??」
流石に、営業部で、最も若手である誇希には、原価について、言われてもわかるはずも無く。
「これ、普通に、粗利を考えたら・・・・2000円超えないとダメじゃ無い・・・・えっ?」
鈴子は、製造年月日と消費期限を確認する。
「製造日から、3ヶ月?」
と、店頭においてあるきな粉餅の消費期限は、製造から半年ぐらいとなっているのに、鈴子の手元にあるきな粉餅は、その半分の期間しか無かった。まあ、それだけでも驚きなのだが
「嘘でしょ・・・・」
鈴子は、さらに注意書きを見て、絶句する。
『直射日光をさけ、風通しが良く涼しい所にて、保管。及び、販売ください』
そこには、保管場所について書かれていた。
「これ専用のスペースが必要って事よね・・・・?」
鈴子は、畏まり過ぎている誇希のいる店内をみると、「困ったわね」と、今日、もう何度目になるのかわからないため息をついた。店にある専用スペースと言えば、アイスキャンディー用の専用ストッカーや、ジュースのストッカー。それ以外に、専用と呼べるスペースは今の所無い。
「どこに、おこうかしら・・・・」
専用のスペースを造るにしても、一つ50円前後、高くても200円はしない駄菓子屋の店頭に、2000円を超える商品の販売スペースなんて、どこに作れば良いものかと、思う鈴子である。
「大体、誰がこんな商品企画通して、作らせたのよ・・・・」
鈴子の言葉に、誇希は、大きく首を横に振る。
「誇希君じゃ無いのは、わかってるわよ」
と、いうなり、鈴子の脳裏に
「あ、そういえば、居たわね・・・・こういうことをやらかしそうなコンビが・・・」
悪乗りするコンビの顔が浮かぶ。その瞬間、鈴子は、再び大きなため息をついた。
SIDE A---
「あ?あれ?なんで???」
カツミは、地下倉庫の惨状を予想していたのだが、いざ、倉庫の入り口ドアの前、カギを掛けてはいないが、それでも、いざ開けるとなると、かなりの覚悟が必要となり、そのために、かなり長い間、迷った。たが、どう転んでも、かならず、開けることにはなる。なので、カツミは意を決し、扉のノブに手を掛け開ける。最後まで、いきなり視野に、様相される惨状が入らないように、目をつむりながドアを開けた。
「ガチャ」
カツミは、ドアを開けると、恐る恐る目を開けた。はっきり言って真っ暗な倉庫、開けたドアからわずかばかりの外部の光で入り込む。やがて、カツミの目は、その明るさに慣れたのか、薄暗い倉庫の中がどうなっているのか。カツミは、ただ、なんとなく違和感を抱いていた
「えーっと、電気のスイッチは・・・・あったあった。これを」
壁際にあるスイッチの場所を探る。
『この辺だったかな?』
と、手を伸ばすと、そこにある南下に触ると、これだとばかりにカツミは、突起部分を押した。
地下倉庫の蛍光灯は、チカチカと明滅しながらも、部屋自体を明るくする。その明かりの下、カツミは倉庫の惨状が予想していたものとことなっていたことに驚いていた。
同じようで、同じでない世界・・・マルチヴァースの一つの形?