鈴子、困惑す
日本のどこかであるかもしれない日常と・・・・
SIDE A---
「なんじゃ、これ?」
カツミは、朝起きると枕元の壁に露出している扉をみて首を傾げていた。開けてみようかと思った物の、部屋の惨状を見て、それどころではない事を思い出すと、慌てて、飛び起きるのだが、
ドスン!
「いってぇ!」
地震のせいで湯かに転がっている何かを踏んだのか、カツミは、思い切り、すっころんだ。普段、どんな状況でも人前であるというだけで、2枚目クールを気取っているのだが・・・実際のところ、彼の本質は、三枚目である。
「いてててて・・・・一体、何を踏んだんだ???」
結局、翌日は、朝から一日、家の中を片付けることになり、枕元の扉のことなどはすっかり忘れてしまい、翌朝、扉を見て思い出すことになる。
SIDE A---
鈴子が切り盛りする店の前に、この場所には場違いな○ンツの高級バンが止まった。
「失礼いたします!鈴子様、ご注文の商品を、お持ちしました!」
鈴子が何事かと思っていると、車の中から、なぜか、礼服に身を包んだ運転手が降りてくる。
「え?」
鈴子は、一瞬、驚く。そこには、誰がどう見ても、金糸と銀糸が織り込まれた西陣織のうような高級感あふれた風呂敷で包まれた”何か”を、仰々しく両手を添えた状態で、これまた、鈴子に対して、まるで神様に供物を献上するかのような恭しい姿勢で、その”何か”に両手を添えて捧げるようにもっていた。
「ちょっと、待って!なによ。その仰々しいの!」
「は、はい!申し訳ございません!平に平にご容赦を!」
運転手は、何をどうしたのか、深く頭を下げ、両手を添えて、西陣織で包まれだ”何か”を頭上に掲げたまま、立っていた姿勢から、店の床に土下座スタイルに変形すると、その頭を床にすり付けていた。
鈴子は、「え?なんで?どうやったの?」目の前で起こったことに、完全に引いた状態である。
「ちょ、ちょっとあなた、何してるの!」
「大奥様に、ご無礼を働き誠に申し訳ございません。この償いは、この身を持って」
鈴子は、慌ててクジの景品である○首○リル専用と書かれた景品の棒を手に取ると
バコーン!
これまたいつの間にか、左手だけを添えて西陣織で包まれた”何か”を底から掲げ、右手で”どこ”からともなく取り出した”別の何か”で自刃しようとする男をひっぱたく。
「ちょっと!落ち着きなさい!」
男は、止められたことに、”なぜか”呆然としており、右手に持っていたの”別の何か”は、いつの間にやら、”どこ”かにしまわれていた。
「あなた、お名前は?」
男は、鈴子の言葉にはっとしたのか、顔を上げると、
「た、高井 誇希です」
男は、か細い声でそういった。
「誇希君ね?」
名を呼ばれ、一瞬、ビクンとしたのだが
「は、はぃ」
「どうしたの?仰々しい態度で・・・・それに、何を、そんなに、おどおどしてるの?」
「しゃ、社長と、ぶ、部長から、創業者で、会長様であらせられる鈴子様に、失礼の無いようにと申しつかりましたので・・・・」
”何故”か、高井と言う名の若い男は、ガチガチに緊張していて、これまた、”何故”か言葉遣いが微妙な状態となっていた。
「ちょっと、ちょっと、落ち着いて、ちょうだい。私は、このお店の店主で、もう会長職を引退した身なのよ?」
「そう言われましても、部長から失礼のほど無きこと給えよとのこと申したてまつりましたので」
微妙に古文的な表現が入った意味不明な日本語が続く。
「ちょっと誇希君、ほんとに落ち着いて、いい?」
鈴子は、そう言うと、”ふーっと”ため息をつき、店の黒電話風プッシュ式電話の受話器を手に取る。
「大奥様、何処へお電話をなされ奉りますのでしょうか?」
男は、緊張しすぎて、話す日本語が、微妙な古文が混じると状態となっていた。鈴子は、再びため息をつくと、登録してある短縮ダイヤルを押す。
「息子に電話するのよ。こんな若い子をいじめるなんて許せないから」
「お、おやめくださいませ、後生でございます!大奥様!」
男は、これまた、西陣織のような風呂敷で包まれた”何か”を両手で捧げるような姿勢のまま、鈴子に対して、頭を下げていた。
鈴子にしてみれば、
『一体、この子は、どうやって姿勢を変えているんだろう・・・』
と、首を傾げるほどであり、鈴子が、一瞬、目を離す度に、”そんな短時間では無理でしょ”とか”身体の構造上、その姿勢は絶対無理よね?”とか思う姿勢を高井という男は取っていた。
『ぷるるるるる・・・・ぷるるるるる・・・・、はい!、子ども大人も夢中、駄菓子製造卸の駄菓子製造本舗さとうの営業部、甘木でございます。』
「鈴子ですけど、水菓子君、部長はいる?」
『水菓子で、ございますか?少々お待ちください』
鈴子の耳には、受話器を通して”そよ風の誘惑”が聞こえてくる。
『お待たせいたしました。水菓子は、ただいま、席を外しております。戻り次第、ご連絡を差し上げます。もう一度、お名前の方をお聞かせ願いますか?あと折り返しのご連絡先をお願いいたします』
「佐藤 鈴子です」
『佐藤 鈴子様で、ございますね。』
「ええ、そうよ」
『折り返しのご連絡先の方、お願いいたします。』
「連絡先は・・・07」
電話の向こうが、何やら騒々しい。
『し、失礼しました。佐藤様、今、水菓子が戻りましたので、お待ちください』
鈴子の耳には、また受話器を通して”そよ風の誘惑”が聞こえてくる。ただ保留音に、切り替わる前に、鈴子のよく知る声が聞こえていた。
『鈴子会長。お待たせして申し訳ございません。水菓子でございます』
「ちょっと、もう会長職は、引退したのよ。やめてちょうだい」
『いえいえ、私どもにいたしましては、創業者である鈴子様は、引退なされても、会長でございます』
鈴子は、
『そういえば、この子は、昔から、そういう子だったわね・・・・ああ、また、ややこしい・・・』
と、ばかりに、ため息をつく。
「もう、それは良いわ、それより、高井君だっけ?」
鈴子は、姿が見えないほどに低姿勢過ぎる男に確認すると、男は、小さな声で、「はい」と答える。
『うちの高井がなにか失礼なことでも?』
少々びくついた声の水菓子。
「そうじゃ、なくて、あんたたち、こんな若い子に何を吹き込んでるのよ?」
『は?』
電話の向こうの水菓子は。”何”がといった感じであるのだが
「なんで、ベ○ツのバンに、西陣織の風呂敷、それに、仰々しい態度を取らせているのかって事」
『は、はい!鈴子会長様に、失礼があっては思いまして、細心の注意をもって、お会いするようにと指導いたしました次第でございます』
「こらこら・・・あんた達、何をやり過ぎてるのかしら・・・・」
『え、と、申されますと?』
「しがない町の駄菓子屋に、何を意味不明な事をやっているのかということ!」
電話の相手、水菓子は、鈴子に叱られて、電話の向こうで冷や汗だらだらである。
『誠に、もうしわけございません。不肖、水菓子、鈴子会長の下へすぐ伺います』
「ちょっと、ちょっと、来なく・・・・」
ブツ・・・・ツーツーツー
鈴子は、水菓子を呼びつけるつもりで、電話したわけでは無く、わざわざ来なくてもよいと言いかけたのだが、言うよりも早く電話が切れた。
「ああ、切れた・・・」
鈴子は、もう一度電話しようとしたのが、昔の部下でもある水菓子の性格上、止めても無駄な事を理解している。
「あの子の事だから、止めても、来てしまうわね・・・それに、あのこのスマホ、番号を知らないし・・・・」
本日、何度目のため息をつく鈴子である。
SIDE B---
今日は、一週間に一度の休み。そう、日曜日である。カツミは、朝から少し遠出しようかとか、それとも、昼までゆっくり寝ていようかとか色々思っていたのだが、なぜか、昨夜遅くに、カツミの家だけが地震に襲われるという不可思議な目にあい。午前中は、休んでいたのだが、昼からは、ずーっと片づけをしていた。
「たくっ、なんなんだ。あの地震はよ!」
改めて、明るくなった店内、カツミは、あっちこっちで、商品が散乱しているのを見ていると、その口から自然と独り言ではあるが、ため息交じりに愚痴もでてくる。
「なんで、こうなる・・・・」
店の棚という棚が、倒れていることから、棚を起こしていくと、当然、店の床に落ちた商品の中には、箱が壊れていたり、商品に傷がついていたり、中には、箱の中でガラスが割れていたりするものなどが、いくつもあった。
「うちだけの地震って、意味わからん・・・、これ、火災保険は使えないよな・・・」
カツミは、そうつぶやくのだが、火災保険にじしんとくやくを付けていなかったことを思い出したのか、再び大きなため息をつく。
「ふう・・・・」
傷がないのと、問題のない物は、出来ればそのまま売りたいのだが、微妙ではあるが、少しでも傷がついているものは、そうもいかない。売り物にならないものを袋に入れていくと、45lのゴミ袋が、5個、6個と増えていき、それが、店の中で山積みになっていく。
「あー、もう、どれだけ、こわれたんだよ・・・・というか、これ、全部仕入れ直すとしたら、かなり金かかるよな・・・」
それを考えるだけで、カツミは軽い頭痛を覚えていた。折角、親から引き継いで、何とか、商売も軌道にのり、ようやく生計を立てられるまでになったというのに・・・・カツミのテンションは、ただ下がるばかりであるのだが、カツミも食っていかなければならない以上、仕入れをしないといけない。
「しゃーない。朝一で、問屋に注文して、それから・・・・うっ」
今、カツミが仕入れに仕えるお金を確認しようと通帳を見ると、仕入れ代金にお金を回すと、生活できなくなってしまうという現実に襲われる。
「早めに、現金化しないと不味い・・ほんとに不味い・・・・・」
もし、この場に、誰かがいて、カツミを見れば、奇妙な顔をしたかもしれないのだが、なぜなら、ぶつぶつと独り言の状態であったのだが、それもいつのまにか独り言も尽き、やや目もややうつろになると、そこには乾いた笑いしかなかった。
「ほんと、まずい・・・・」
壊れた商品は、もう売り物にならないが、それ以外のもので、売ることができるものが、全体の半分ぐらいは、残った。それでも、できるだけ早く現金化するためには、もう値引きするしか選択肢はなかった。
カツミは、また、テンションが下がるのだが、大きく深呼吸をすると
「とりあえず、片づけてから考えよう・・」
カツミは、現実を見つめながら、軽い現実逃避をしつつ、店の中をひたすら片付けていた。
「片付け終わった。やっと終わった・・・売り物にならないゴミになったものがたくさん出て、気が重い・・・」
カツミは、一心不乱に片づけをし終えたのだが、それでもやはり、ゴミの量を見ると、それなりにテンションが下がる。
「明日は、こっちの燃えるゴミを出して、明後日は、燃えないゴミと・・・なんだろ、もの凄く虚しい・・・」
ゴミ袋の数を見るだけ、カツミは、その中身を思い出し、頭の中では、その被害額を計算してしまう。店の売り上げにして3ヶ月分。そして、店の商品、半分以上廃棄という現実が当たり前のように突きつけられる。
「あっ・・・・倉庫のこと忘れてた・・・・」
カツミは、家の中も店も、漸く片付け終わって、ほっとしていた。のだが、家の地下にある倉庫のことを思い出すと、見なかったことにしたいと、思うのだった。
・・・・どこか、遠い世界の日常と




