お菓子と姫。会長と部長。そして・・・
SIDE AとSIDE Bを世界をつなぐのトンネル効果
---SIDE A
「姫様、執事のハジメより、これをお渡ししろとのことです」
ミオは、前日、ハジメから渡されたお菓子。それは、紙で包まれているにもかかわらず、鼻をくすぐるほどに甘い香りを放っている。しかも、その包みを非常にきらびやかである。ミオは、その包みに負けないほど豪華な皿に、わずか盛りつけ、目の前にいる少女にそっと差し出し。少女の名は、ココアと言い、この国を治める大王家(オリオン家)の一人娘である。
「それは、なんじゃ?えらく、甘い香りがするのう?」
「はっ、姫様、これは、南蛮渡来の『Chocolat』とか申します甘い菓子でございます」
「ほう。なるほど、この菓子から甘い香りがしておると申すのだな?」
「はい。左様でございます」
そういうと、ココアは皿の上から、きらびやかな包みをひとつとると、包みを開ける。とたん、更なる甘い香りが立ち込める。
「ふむ、確かに、甘い香りじゃが・・・色は、黒、いや、茶色か、見た目は、鹿の○より大きくて、●キ×リのような形をしておるな」
ココアは、その見た目に対して、とんでもないことを言うのだが
「姫様!これは菓子でございますぞ?なんということを言われますか?」
「くくくっ、見た目からそう申しただけであろう?味もわからない物に対して、妾は、ただ似ておると申しただけじゃぞ?」
「そうではございますが・・・」
「まあ、よい、そなたが、そうまでいうのであれば。毒味として妾より先に食べたのであろう?それもかなりうまかったのではないか?出なければ、そちは、そこまで妾に文句を言うこともなかろう?」
ミオは、はっきり言って、食べ過ぎていた。毒味として、一つつまむ程度土良い物を、あまりに甘かったこともあり、3つ、4つ、5つ、気がつけば、10ほど食べていた。
「いえ、まあ、その、姫様にそのままお出しするわけにもいきませぬゆえ、少しばかり・・・・」
「ほおぅ、で、どうであった?」
「はい、それはもう、甘くておいしゅうございました」
ミオは『Chocolat』の味を思い出したのかうっとりした表情を浮かべている。そんな侍女を見て
「おぬし、何を惚けておる。まあ、よいわ、どれ、妾はも一つ戴こうか」
と、呆れた顔を浮かべながらも、ココアは、一粒、指でつかむ。当然見たことも無い菓子である以上、じっくりとへしゃげてはいるが、丸みを帯ている『Chocolat』を物珍しげに見ながら、漂う甘い匂いをかぐ
「おお、ほんに、甘い匂いがするものよ」
そう言うと、茶色『Chocolat』の粒を、口の中に放り込む。その瞬間、これまで食べたどの菓子よりも甘さが口の中に広がる
「これは、なんと!ミオ、そちが、そういう惚けた顔をするのもうなずける!」
そういうと、口の中にまだ『Chocolat』の塊がのこっているにも関わらず、次の粒を口の中へ、気がつけば、ココアの前に出されていた『Chocolat』は、全て消えている。
「ミオ、お代わりじゃ、もう少し持って参れ」
「は、はひ!でも、姫様、もうすぐ、夕食でございますし・・・これ以上食べられますと・・・・」
「ええい、そなた、なにを申すか、夕食までまだ3時間以上時間があるでは無いか」
「それはそうでございますが・・・・」
「はよう、もって参れ!!」
ミオは、ココアに追加を頼まれて、とっさに夕食前に食べ過ぎてはいけないと、まともな理由を言うのだが、実際は、毒味と称して、ハジメから預かった箱の中身を半分以上食べてしまっていたため、『Chocolat』の残りがわずかである。まさか、ココアがこれを更に所望するとは思っていなかったのだ。
「で、ですが、姫様。今日は、国王陛下の名代で、この地を治めるご領主様と会食でございます。何卒、これ以上の御間食は、お控えしていただきたく」
「ぬぬぬ・・・確かに、父上の代理ではある一つぐらい良いではないか?」
「ですが・・・・」
「ミオ、早く、持って参れ!妾の命令じゃ!早うせい!」
箱の中には、『Chocolat』はわずか数粒。たとえ、ここで、残りを出したとしても、更に追加を所望される可能性もある。なので、表面上は、ココア姫を諫めるのだが、その内心は、焦りに焦っている。が、 廊下をドタバタと走る音が近づいてくる。
「何事じゃ?騒々しいのう。それより、ミオ、はよう、菓子を持って参れ!」
廊下を走る足音は、ココアの部屋の前で止まると、勢いよく、ふすまが開けられた。
「誰じゃ!」
襖を開け、あわてて入ってきたのは、今回の訪問に同行している護衛のトメオである。
「ひ、姫様!御領主のアマミ様がおいででございます。いかがいたしましょうか?」
ココアが訪れている古都の領主がやってきた。そのことばに、ミオはほっとする。
「アマミ殿が?まだ、会食の時間には早かろう?いったい何用じゃ?」
「はっ、火急の用件に付き、姫様にお目通り願いたいとの事でございます」
「火急の用よな?ふむ。あい、わかった。すぐに、通せ。ミオ、茶菓子の用意じゃ」
「は、はい!すぐに支度いたします」
ミオを、なんとかこの苦境を乗り切ったのだが、このまま、『Chocolat』を半分以上食べてしまった事を隠し通せるかかどうかは、神のみぞ知ることである。
---SIDE B
「お~い、高井!あれ?高井はいないか?」
「あ、水菓子部長、誇希なら、鈴子会長のところに、きな粉餅を持って行ってますけど?」
「会長のところ?」
水菓子に返事をしたのは、誇希と同じ、営業部所属で2年先輩の江井 清である。
「はい、開発係長が、消費期限のことがとか言って、誇希に頼んで、会長のところに持って行ってくれとかなんとか言ってましたけど?」
誇希を探しにきた水菓子は、それを聞いて
「は?何だって?いや、ちょっと待て、どうしてそうなる?そんな話は聞いてないぞ?」
「あれ?”部長の許可はもらった”とか、係長は言ってましたけど?おかしいなぁ」
水菓子は、開発が無理やり会長のところへ商品を運ばせようとしたことを理解するとともに、慌てて、倉庫を見に行くのだが、確かに、そこに山と積まれていたはずのきな粉餅が無かった。
「これは、会長に、怒られる・・・・」」
水菓子は、顔を真っ青にするのだが、次の瞬間、真っ赤にして、営業部へ駈け戻る。
「開発はどこだぁ!天海でもいい、どこにいる!」
「え?開発係長ですか?」
「他に誰がいる!」
江井は、倉庫から戻ってきた部長が、どうして顔を真っ赤にして怒っているのか理解できず
「開発部じゃないんですか?知りませんけど?」
軽く返事をする。これが、水菓子の怒りに油を注ぐことになる。ところで、この江井という男は、緊張してしまいがちな誇希とは性格がまるで逆。なれなれしさを地でいくことから、客受けが良い場合と悪い場合が両極端な営業課員である。いつもは、のらくらと部長にすかれも嫌われもせず新井田のだが
「江井!なんだ、その返事は!」
と、いつもならこの応答でも、”仕方ないな”とういう部長の逆鱗に触れたようで。”まじ、やば・・・”と、いつもとは違う怒りに江井は、すこしばかりこわばった顔になり、
「は、ひゃい!すいましぇん!」
かみかみになりながら返事しつつ、立ち上がると、
「す、すぐにでも、開発部長か天海さんを探してきます!」
と、嘘も方便とばかりに、背もたれに掛けていた背広を手に取ると、この場を逃げ出すのだった。
「全く、今の若いもんは!」
と、吐き捨てるような台詞を言うのだが、もし、この場に鈴子がいれば、”あの頃のあなたもね?”と言われたかもしれないのだが、そこまで、水菓子自身、頭は回らなかったが、いざ、課員がいなくなった営業部、シーンとなると、当然、怒りも冷めるわけで、真っ赤だった顔も、今度は青ざめる。
「た、大変だ!会長に連絡を入れないといか、いや、今から謝りに行った方が早いか・・・肝心の高井は、今どこにいるんだ?」
と、一人パニックになるのだった。この後、結局、水菓子が鈴子に電話で謝罪している間に、誇希が帰ってくるのだが、どうして、倉庫に山のように積まれたきな粉餅の箱が、●ンツのバンに積み込めたのかは、謎であり、再度、10箱ほど、鈴子の元へ運ばれることになる。
---Side A
「どうしようか?」
今日の営業を終え、店を閉めてから、カツミは、自室の壁に”なぜか”ある隠し棚から木箱を取り出し、中の高級そうな箱を一つ手に取ると、箱を開ける。甘い匂いがふわっとして、鼻孔をくすぐる。当然、その匂いに我慢しきれず、一つ口に入れる。
「ああ、うまい・・・昨日は、なにがなんだかわからなかったけど・・・・落ち着いて食べると、これはうまい!」
甘い匂いに踊らされるように、手が次から次へと、黄土色をした餅をつまんでは、口へと運ぶ。そして、小一時間、おなじことを何度も何度も
「どうしよう。ほんと、どうしよう・・・」
と呟く。
「昨日あれが売れて、また手に入れるにも、すぐには無理だし・・・これだけあるから、売っても良いかな・・・でもなぁ・・・」
単に売るだけならそれで良いのだが、これは食べ物、賞味期限やどこで作られたかを示しておかないと、あとで、役所なり、お客から文句が来る。たとえば、昨日売れたフランク王国製の『Chocolat』は、賞味期限が、”王国歴1999年12月”とか書いてある。カツミの使う暦と違うため、大王歴に換算する必要はあるのだが、それでも、きちんと書かれている。
「問題は、賞味期限なんだよな・・・・なんだよ、この”平成29年12月”って、どこの暦だ?この文字は、この国のもじと同じだけど、こんな暦見たことない」
カツミはため息混じりに、悩ましげに頭を振る。
「あとは、これだよな・・・・・」
箱に印字されている表記は、カツミ達の国の文字と一部違うが、”製”の字がおなじであるので、製造元と書かれているのだろうと見当はつくのだが、それでも、やはり書かれている内容は、部分的にしか読めない。
「手持ちの資料には、こんな字のこと書かれてなかったし、それに”日本”って、どこだよ・・・・」
部分的に書かれている文字は読めるのだが、結局、意味不明なままである。
「シール作って、貼るか。それとも、ばらして売るか。ばらして売るとなると、食べ物を販売の許可証がいるけど、確か、あったはず・・・・どこだっけ?」
カツミは、自室を出ると、店へ向かう。この国において、箱や袋入りで、直接手に触れない工夫がされている食べ物は、これと言った許可証は必要な無いのだが、そうで無い場合は、販売の許可証がいる。ただ、その許可証は、かなり厳しい審査を受ける必要があるため、普通の商店は、その許可証を取ること無かった。
「確か、この辺りにまとめておいてたような・・・・」
ただ、親の後ついで、店をしているカツミは、そんな商品を扱うことはないと、店のどこかにしまい込んでいた。
「おかしいな・・・・確か、ここに置いたはずなんだけど・・・・、あ、あった!」
店で使っている机の引き出しの奥からそれを見つけ出すのだが
「あれ?ありゃ・・・う~ん、こまった」
許可書の有効期限が切れていた。
「となると、まだ、更新手続きはできるだろうけどって、あと1週間しかないじゃん、駄目じゃん!」
結果として、カツミは、今週のどこかで、一日に店を閉めて、役所に出向日無ければいけなくなる。それまで、せっかく売ろうと決めたお菓子を売ることが難しくなる。それも、これと言った目玉商品が無い状態で、この状況は厳しい。
「どうしようか・・・・う~ん・・・・しょうがない。シール作って上から貼るか」
結局、シール作ってはることにしたのだが、賞味期限をどうするかとか、製造元をどうするかとか悩むことになるのだが、期限は、販売開始日から1ヶ月として、製造元は、自分の所で作ったことにしたが、そんなものを作る機材も何も無いのだが、とりあえず、カツミは、その点を余り深く考えずに軽いのりで販売を開始することにしたのだった。
---SIDE B
『鈴子会長様、水菓子でございます』
「あら、水菓子君、ちょうど良かったわ!」
『か、会長、会長のお怒りはごもっともです。うちの高井がご迷惑をおかけしまして、まことに申し訳ございません。この水菓子の不徳のいたすところでございます!』
「え?なに?」
『このたびの事は、全て、私の管理責任が至らぬばかりに、誠に申し訳ございません!』
「え?いや、だからね」
『会長のお怒りはごもっともでございます。この水菓子、すべての責任を取って、』
「ちょっと、水菓子君、待ちなさい!私は、怒ってないんだけど?いったいどうしたの?」
『は、それが。開発と天海の二人が、高井に、例の商品を、全て鈴子会長の店に運ぶようにと、命jた次第でして、それでご迷惑をおかけしたと・・・』
「あら、そうなの?あの二人の事だから、それぐらいはやらかすわよ。でも、その誇希君なんだけど、持ってきたのはよいけど、うちの倉庫に入りきらないからって、全部、持って帰ったのよね」
『はあ?えーっと、会長の店に、1000箱以上持ち込んだのですか?』
「そんなわけないじゃない。100箱ほどだと思うわよ?でも、おけないからって、一つもおかずに全部持って帰ってしまってね。すぐに、10箱ほどもっとこさせてくれないかしら?」
『は、はい!わかりました!すぐにでも高井に10箱を持って行かせます!』
「お願いね。それから、あの二人には、明日にでも、うちに来るように伝えておいてね?」
『かしこまりました!おい、高井、会長の店に、きな粉餅を10箱持ってすぐにいけ!』
鈴子は、水菓子に用件を伝えると、電話を切るのだが、電話の最中、水菓子の顔色は、青くなったり赤くなったりしていたのは言うまでもない事である。
SIDE A
大王家姫:ココア
姫従者:トメオ
古都領主:アマミ
SIDE B
営業課員:江井 清




