鈴子は、謎に頭を抱え、カツミは、迷い悩む
似て異なる二つの世界。
---SIDE B
「鈴子会長様、商品をお持ちしました!」
2馬鹿が帰った、午後の昼下がり、前日、異常なほどの緊張していた面持ちだった誇希が、今日も同じように緊張した面持ちで、店の中へとやってきた。
「あら、誇希君、ずいぶん早いわね」
鈴子は、彼を見るなり軽く挨拶をするのだが
「会長様、今日も、ご機嫌麗しゅうございまする。こ、こちらの商品をお持ちするようにと申しつかりましたで候」
「ちょっと、誇希君?普通に話しなさいって」
「は、ははぁ。会長様よりの御言葉、勿体のうございます」
気が付けば、いつの間にやら、店の床に、見事な土下座をする誇希である。鈴子にすれば、目の前に広がる光景は昨日の既視感でしかなく。
「誇希君!そんなところにすわりこまないの!」
「いえいえ、滅相もございません。会長様にご無礼があっては、わたくし、高井 誇希、死んでも死に切れません!」
「だから、誇希くん、その口調は止めなさいと・・・」
困惑する鈴子、誇希は新入社員である。なので、それなりの研修を終えて、配送係に任命されたはずなのだが、鈴子からすれば、誰かが、何か間違ったことが、この子に教えたのだろうということは、予想できたのだが、だから、なんとか普通の言葉遣いをするように注意するのだが
「滅相もございません」
ただ、土下座をしている誇希をみつめることしかできない鈴子であるのだが、
「もう、わかったからね?」
「まことに申し訳ございません!」
いったい何にたいして謝っているのか不明であり、首を傾げる鈴子。ただはっきりしているのは、まかり間違って、担当交代などになれば、息子の会社が大騒ぎになるような予感がする鈴子であった。
---SIDE A
町の中心部に、威風堂々とそびえ立つ城。カツミの店で『Chocolat』と書かれたお菓子を購入した男は、そんな城の中にある、部屋のまえに立っていた。
「姫様」
男は、扉越しに声を掛ける
「姫様?」
部屋の中から返事が無く、困惑する男。いつもこの時間は、男の言う姫は、部屋に居るはずなのだが
「姫様??」
困惑する男のは、たまたまを通りかかった女中に声を掛ける。
「おお、ミアか、ちょうど良かった。ココア様は、どちらかへ行かれましたかな?」
「ハジメさま、私は、ミアではございません。ミオでございます」
少しばかり怒った声で返事をするミオ。
「おお、ミオ、すまんかった!で、ココア様は、どこへ?」
ミオは、大きくため息をつくと
「ハジメ様、ココア様は、本日、国王夫妻と、古都へ視察に行かれますって、朝、ハジメ様が、私どもに。そうおっしゃいましたわよね?」
「!」
ハジメは、その連絡を受けて、朝、使用人に全てに連絡していた。と言うより、知っていて当然なのだが、どうやら完全に忘れていたようである。
「おお、そうであったな。すまん、すまん。そなたたちが覚えておるか、確認したかっただけなのでな。ははははっ」
ハジメが、部屋の前でわりと大きな声をあげていたことをミオはしっていた。ので、やや冷ややかな目で、ハジメを見つめている。
「そうでございましたか。私は、ハジメ様がお忘れになったか、それとも、そのお歳で、もうぼけたのかと思いましたわ」
「馬鹿を言う出ない。まだ呆けてなどらんわ!」
ハジメは、そう言い返すのだが、すっきりさっぱりきれいに忘れていたなんてことが、ここでばれるわけにはいかないと、額にうっすら汗が浮かぶ。で、それを誤魔化すように
「ところで、ミオ、おぬしは、ここで何をしておるのだ?今日のシフトでは、おぬしこの時間、非番であろう?」
ミオを”ふーっ”と、大きなため息をつくと
「そうなんですけどね。ココア様からのお使いがございましてね」
ミオが言うには、日帰りの視察のはずが、急遽、古都にて一泊お泊まりになると言うことで、届けて欲しいものがあるとのことで、それをココアの部屋まで取りに来たと言うのである。
「なるほど、そうであったか・・・・それでは、今日の夕食の手配も、」
「あ、そちらのほうは大丈夫です。ハジメ様がいらっしゃらなかったので、料理長の方には、ミア姉様からお伝えしております」
本来、ハジメが夕食の手配等を全て取り仕切っているのだが、昼間、カツミの店に行って留守だったため代わりに、ミオの姉、ミアが手配をしてくれていたようで、ほっと一安心である。
「それは苦労を掛けたな。すまん!」
「その言葉は、ミア姉様にしてください。それでは、ハジメ様、失礼いたします」
と、ミオはココアの部屋へ入ろうと扉に手を掛ける
「ちょっと待て、ミオよ。ココア様の元へ向かうと言っておったな?」
「はい?」
ハジメに呼び止められて怪訝な顔のミオに対して、ハジメは、手元に持つ袋から、かなり立派な紙包みを取り出す。カツミの店で買った『Chocolat』と書かれたお菓子である。
「すまないが、この包みをココア様に渡してくれんか?
「これをですか?」
ミオは、ハジメから手渡された包みをしげしげと見つめ
「『Chocolat』?なんですか?何やら甘い香りがしますが?」
「ほう、わかるか?市中で見つけた欧州からの舶来品の甘い菓子だ」
「へぇ~、で、これを姫様に?」
「そうだ。主は食ってはならんぞ?本来なら、今日、お戻りになった際に、お渡しするはずだった菓子だ」
「食べませんよ!ミイ姉様やミウ姉様では、あるまいし、私はそこまで食いしん坊じゃありません!」
ハジメの言葉に、ぷーっと頬を膨らませるミオ。ハジメは、ココア姫との間でそんな約束はしていないのだが、万一のことを考えて、軽くうそを混ぜたようである。ところで、ココア姫その傍付きはミオを入れて5人。この5人の名前は、ミア、ミイ、ミウ、ミエ、ミオと言い、5姉妹であり、ミオを末っ子である。
「わかったわかった。そう怒るな。とにかく、その包み姫様に届けてくれ、頼んだぞ」
そういうと、ミオの返事を待つまでも無く、ハジメは、その場を後にした。
「もう、荷物が増えた!」
とは、ミオの独り言ではあるが、この1時間後、ミオは、ココア姫の滞在先である古都へ向かって出発するのだった。
---SIDE B(
鈴子は、目の前に、山とおかれている例のきな粉餅の箱を見て、頭を抱えていた。
「確かに、あの子達は、原価計算について、確かにいろいろ言ってたわよ」
ふーっと、大きくため息をつくと
「何よ、この数は、店にお客さんが入るスペースが無いじゃ無いの?あなた、いくつ持ってきたの?」
「はっ、はい!100箱持って参りました!」
「えっ?100?」
「そうであります!」
目の前には、背筋をビシッと伸ばした誇希がいた。
「店の邪魔になるじゃ無いの、早く・・・・いや、それより、そんな数、うちの倉庫に入りきらないじゃないの・・・」
「鈴子様、まことに、誠に申し訳ございません!」
目の前には、いつの間にやら、なぜか、地べたに土下座している誇希でいた。
「誇希君?あなたを責めてるわけじゃないのよ。これ自体、あなたのせいじゃないんだから、これは、あの二人の責任よね?」
「いえ、滅相もございません!わたくしが、ここに運び込んだ事が悪いのでございます!」
と、誇希は、全てが自分責任だと主張するのだが、誇希の乗るバンに、どう考えても載せきれない量の箱が置かれている。そのこと自体が、異常なことであり、鈴子は、首をかしげる。
「ところで、誇希君、これ、ほんとに、その車一台に乗せてきたの?」
「はい!先輩様から、鈴子様のところへ、全て運んでくれといわれましたので!」
「ちょっとまって、こんな数、倉庫に入らないわよ・・・う~ん・・・・」
鈴子の言葉に絶望的な表情を浮かべる誇希。そんな誇希を見て、鈴子は
「わかったわ。10箱だけ、倉庫に入れておいて、残りは、私から会社の方に連絡して、しばらく保管するようにいうから」
会社に連絡するという言葉に、さらに絶望的な表情を浮かべる誇希。
「・・・この償いは、死をもって、」
「ストーップ!何を考えてるの!あなたは悪くないの!わかった?だから、その物騒なものをしまいなさい!」
いつの間にやら、誇希の手元には、短刀が握られており、衣装も、白装束である。
『この子、いったい、いつの間に、着替えたの?いや、それより、意味がわからないは・・・・』
鈴子は、誇希を見ていろいろと思うところはあるのだが
「あなたに責任は無いから、いいこと?私からの、いや、会長命令です。その物騒なものをしまいなさい!」
「Yes、Mom!」
気がつけば、目の前に、再び背広姿で、背筋をびしっと伸ばした誇希がいた。
---SIDE A
18時を周り、世も暮れ始める頃、カツミは、商品棚を眺めていたのだが、店内に客はいない。
「今日は、そろそろ閉めるか」
カツミは、そう言うと、店の片付けを始めた。
「今日は、どうなることかと思ったけど、昼間、あれが売れたのは、幸いだったな」
そういうと、高額値札だけが残る棚を見ていた。
「正直、これ、売れるかどうか賭けみたいな感じだったしな」
しみじみと独り言である。
「たしか、倉庫には、無事だった在庫、いくつか残っていたな。後で出しておくか」
そう言うと、他にも品切れになっている商品を確認していく。とは言え、少しでも壊れている商品は、店頭に並べられるわけも無く。明日以降は、次の商品が入ってくるまで空いたままとなる。
「明日注文しても、入ってくるのは来週か・・・う~ん・・・どうしようか・・・」
昼間、常連の男が、高額商品を購入してくれたおかげで、仕入れ金の問題は、小口の現金取引ができる程度の状況にはなっていた。それもあってか、カツミは、商店主として空いたままの棚をそのままにできず、どうしようかと悩んでいた。
「なにか、ならべるものはないかな・・・・」
とはいっても、大半は、傷物扱いで、棚に置くことができない。
「あ!」
カツミの脳裏に、例の木箱に入った、お菓子のことが浮かぶ。ただ、それでも、どこで作られたかわからない代物であり、朝見たとき、箱の中にはかなりの数があり、そのまま売っても問題ないように思えた。
「でもなぁ、あれをそのまま並べるのはまずいよな・・・・う~ん・・・・」
周りから見れば、カツミがぼそぼそと独り言を言っているようにしか見えない。とはいっても、店内には誰もおらず、店の片付けをしているところであるため、カツミ自身、自分の独り言に気がついていなかった。そして、最後に店の戸締まりとすると
「今、出せるのって、得体が知れないけど、あれしか無いよな・・・・よし、もういちど確認するか」
そう言って、夕食の用意もせずに、自分の部屋へ向かうのだった。
---SIDE B
鈴子の目の前で、背広で敬礼している誇希がいた
「鈴子様!倉庫に方に10箱おいてまいりました!」
そんな誇希を見て、頭を傾げ、こめかみを指で支える鈴子である。
「こ・・・まあ、良いわ、ありがとうね。誇希君」
「ありがたきお言葉」
そう言うと、かしずく誇希がいた。鈴子は、彼の行動や言動が変わらないことから半ば諦めの境地となっていた。
「一応、会社の方には、店の倉庫に入らない分は、持ち帰らせるといってあるから、良いわね?あなたに責任はないからね?だから、すぐにのこりの箱を会社へ、何往復かしないといけないだろうけど、わかったわね?」
「Yes, Mom!」
鈴子が、持ち戻るように説明をしながら、誇希から手渡されていた納品書の数字を確認して、書き直そうと、一瞬、したを向いて、顔を上げたとき、店の床に所狭しと積み上げられていた、きな粉餅の箱は、消えていた。
「えっ?」
「それでは、鈴子様、失礼したします」
いつの間にやら、鈴子のサインが入った納品書を手に持った誇希が、鈴子に頭を下げたまま、するすると後ずさりするように店を出る。
「ちょっと、待って、誇希君!」
鈴子は、慌てて、店を出るのだが、誇希の運転する○ン○のバンは、鈴子の店を後にしていた。バンの後ろは、ギュウギュウ詰めにされたきな粉餅の箱が詰まっているが、鈴子の目から見てもはっきりわかるのだった。
「・・・・いったい、どういうことなの?どうして???」
鈴子は不思議な物を見たような感覚にとらわれながら、車の姿が見えなくなるまで見送るしかなかった。
SIDE A
カツミの店の上得意さんの名前はハジメ。執事の職にあります。
5姉妹は、ミア、ミイ、ミウ、ミエ、ミオの5つ子です。




