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鈴子の怒り、カツミ交渉する

---SIDE A


 気になる物を片っ端から開けてみるといったことを、何度も繰り返していた。


「これこれ、ずーっと前から探してたんだよなぁ・・・・」


 と、いつまで経っても、違う本を読み耽っていた。


「ふう、面白かった・・・・しまった、こんなことしてる場合じゃないじゃん・・・・」


 気がつけば、外は明るくなってきており、押し入れの中には、まだ半分ほど未確認の本の束があるのだが、時計は、すでに、午前8時を回っていた。


「おかしいな・・・・さっき見たときは、3時だったのに・・・」


 カツミの手には、学生時代夢中になった物語全集全20巻の第10巻があった。つまり、1巻を手にしてから、10巻まで読んでいたようで、結局、カツミは、箱に書いてあった文字が何であるのかわからないままに、朝を迎えたのである。


「あの文字のこと調べられなかったなあ・・・・しかたない、店を閉めてから調べるか・・・」


 そう自分に言い聞かせると、カツミは立ち上がる。


グルルルル、キュー・・・・


 カツミのおなかは、盛大になる。


「そういや、昨日、あの不思議な物を食べてから、なにも食べてないや・・・」 

 

 一晩中、じっと動かず集中して本を読んでいたのだから、当然と言えば当然で、店を開ける前に,何かを食べようとは思ったのだが、よく考えると、カツミは、片付けやら、なにやらで、かいmのをしていなかった事もあり、家に何も食べ物がなかった。あるのは、昨日の不思議な食べ物だけ、とても腹が膨れるはずもなく、


「ダメだ、意識すればするほどお腹が空いてくる・・・」


 カツミの家であり店舗でももる場所は、繁華街でもなく、そうかと言って住宅地でもない。どちらかと言うと、旧市街地のはずれであり、あさからやっている店など無く、昨日の昼間に行った定食屋も、昼前からであり、他も、そんな感じの店ばかりで、早朝からやっている店はというと、町の中心地か、住宅地からの通勤してくる人が利用する停車場そばぐらいにしか無かった。


「買いに行くとしても、店をあける時間に戻ってこれないし、それに、たぶん、商品が届くだろうし・・・・・う~ん・・・・」


 壊れて廃棄せざるえなかった商品の代わりになるものを注文していたのだが、それがいつ届くかわからない以上、店を閉めたままというわけにもいかず


「しょうがない。お昼まで、我慢するか・・・」


 覚悟を決めるも、我慢しきれず、お腹がキュルキュルと鳴る。それでも、カツミは、急げとばかりに、散らかった部屋を出ると、洗面台へ向かい。鏡を見る、そこには、ほぼ徹夜明けで、ぼーっとしてうっすらひげ面の顔があった。


「うわぁ、冷たい!」


 冬の水道水は、冷たかった。けれど、その冷たさが、ぼーっとしたカツミの意識を、今という時間の流れの中に急速に引き戻す。昨日、着たままの服は、冬だというのに、なぜか汗臭く、くすんで見えており、慌てて服を脱ぐと、濡れタオルで体をふき、真新しい服を着込む。時間は、午前9時まであと少しといったところ。いつもなら、朝食で何かを軽くつまんでいるのだが、ここ2日ばかり、予定にないことがありすぎてそんな時間もとれていなかった。なので、今日は、朝食を意識しないようにはしているのだが、そうすればするほど、カツミのお腹は、自己主張をし始めていた。


「我慢、我慢!」


 あくまでも、言葉にしないようにしているはずなのに、なぜか、独り言のように言葉が出てしまい。それに気が付くと、首を振りながら、自嘲気味に笑うカツミ。そんなこんなで、身なりをきちんと整え、慌てて店へ向かう。家の中からは、扉一枚明ければ店であるが、ただ、慌てるカツミは、扉を開けるまで、そのことをなぜか忘れていた。



---SIDE B


 部屋の中は、何やら、甘い匂いがしている。よく見ると、そこかしこに、お菓子のようなものが、置かれていた。

 

「いやぁ、久しぶりに、会長に、怒られたな・・・・まいったよ」

「あれは、お前が悪いんだぞ?おれはやりすぎだって言ったのに・・・・」

「よく言うよ、お前だって、乗ってただろう?俺だけに責任にすんなよぉ」


 天海と開発の二人は、高級(過ぎる)きな粉餅のことで、鈴子から呼び出され、叱責をうけた。前社長が、生前、商品開発に二人を巻き込んで、何度も暴走を繰り返していたのだが、その時も、何度かに一度、開発費が、7桁後半へ迫り、度を超えるたびに、前社長と共に、なぜか、3人そろって呼び出されては、鈴子の前で正座させられては、延々と叱られるということがあった。


「でもさ、会長がお元気でよかったよな」

「そうりゃな、前社長が亡くなられてから、会社の方に、お見えになってなかったからなぁ」


 鈴子は、会長職にはいたのだが、夫であり社長の克美が、亡くなってから、一線を退くと宣言をして、息子に全権を委ねると、息子夫婦の近所で、生前の克美が、死ぬまでにしたかった駄菓子屋をオープンさせて以降、会社には顔を出さなかった。その分、開発部の二人の歯止めを掛ける人間がいなくなったことが、今回の超高級きな粉餅につながったのだが


「それにしても、あれぐらいのことで、あんなにお怒りになるなんて・・・」


と、肩を落とす開発なのだが、


「いやぁ~。会長が怒るのは当然だと思うなぁ・・・ははははっ」


天海は、なにかを隠しているかのような振りをしていた。


「どういうことだ?」

「いやね・・・ふと思い出したんだけど・・・・」


天海はそう言うと、数枚の封筒を取り出した。それ全てに請求書と書かれていた。


「えーっと、こっちの請求書に書かれてる原価を入れるのわすれてた・・・」

「をい・・・・」

「いやぁ、参った、参った」


はははっと、軽めに笑う天海と、事実を知り頭を抱える開発である。


「おまえなぁ~、いい加減にしろよ・・・・」


 開発は、請求書を一枚一枚確認するのだが、その数字を見てげんなりとする。


「これだと、今の原価計算じゃ、利益が・・・・会長がお怒りになるのも当然じゃないか・・・・」

「え?そうなの?」

「あのなぁ、お前がくれた原価表の数字とこっちの請求書の数字、比べると桁も間違えてるし・・・・」

「あれ?だって、10個での計算でしょ?1000個注文したから100で割っただけじゃん」

「ちょっとまて・・・・なんでそんな数を注文してるんだ?100でよいって言っただろ?」


 開発は、天海の言葉に突っ込み続けるのだが


「いや、だってロットが1000個 からだったし、どうせ作ることになるし、問題ないでしょ?」

「だから、そういう時は、相談しろっていっただろうが!」


 結局、このあと、他にも出してない請求書や書類がないかと、開発は、天海をと問い詰めることになり、改めて原価計算をする羽目になる。翌朝、昨夜は一睡もしていませんと言わんばかりに。疲れた果てた顔の開発と、十分に睡眠を取り、とても血色が良い顔をした天海という二人を社員全員が目撃することになるのだった。


---SIDE A


 カツミは、ただ空腹であった。なので、早く昼休みにしたかったのだが、珍しく、お客が途切れなかった。


「店主、店主?これは、いくらになる?」

「こちらはですね・・・ちょっと待ってくださいね。少々、傷がありますので、正札は口ですが、これぐらい値引きさせてもらいますね」


 辛うじて、販売できる商品の値段を聞かれるたびに、カツミは、丁寧に対応していく。だからといって、空腹感はおさまるはずもなく、忙しさで空腹をしのごうとした。お客の数も次第に減り、もうすぐお昼休みに入ろうかと言うときに、一人の常連客が、カツミを呼び止める。


「おい、カツミ、こっちのこれ、この菓子なんだが、いくらだ?」


 呼び止めた男は、ちょっと豪華そうに見える箱を一つ手に取っていた。箱の表にはり、『Chocolat』と大きく書かれており、その裏には、”The principality of Francs”という記載があった。


「それは、遠く欧州にあるフランク公国で作られた”しょこらて”とかいう甘い高級菓子で、それを手に入れるのにかなり苦労したんですよね。なので、値札通りでお願いしますね。絶対値引きは無理ですからね・・・箱の方もしっかりしてますし・・・・」

「う~ん、そうか・・・噂のフランク公国で作られてた菓子か・・・それでも、いくらかまからんかな?ここまで、引いてくれたら買うんだが・・・」


 男は、そう言うと、手に持った紙に、希望する金額を書き込み、カツミに見せる。


「う~ん、それだと、流石に、駄目ですね。これを手に入れるのにどんだけ手間がかかったと思います?それを考えると絶対に、その値段では駄目ですね・・・・」


 いつものカツミなら、提示した額で売っていたのだが、先日の自分の家だけ地震の被害分をいくつかの商品を売ることでカバーしたいと思っていたので、珍しく”うん”とは言わなかった。


「そこをなんとかならんか?」


 カツミはにっこりと笑みを浮かべると


「駄目です」


 の一言で返す。


「主が、駄目というからには、仕方ないか・・・」


 男は、カツミの性格をよく知っているようで、ここぞとばかりに粘ることもなく、早々に諦めるのだが


「だからといって、手ぶらで帰るわけにもいかんのだが・・・のう、カツミ、何か、こう、これと同じように、よさげなものはないか?」


 なぜか切羽詰まった雰囲気で、カツミに、詰め寄るのだが、いきなり何か他にといわれて、浮かぶべくもなく


「そうですね・・・・」


 困り顔のカツミである。カツミが悩む、一瞬、昨夜食べたあの甘い食べ物の事を思い出すが、何かわからないものを今出すわけにはいかず、答えに詰まっていた。男は、カツミの答えが無いのは代わりになるものが無いということだと思ったようで


「やはり、他にないか・・・なら、やはり、これを、この菓子をいくらかまけてくれんかな?」


 男は、あきらめきれていなかったようである。ややあきれ顔のカツミではあるが、やや考え込むと


「そこまで言われますとね・・・しかたがないですね、わかりました」

「わかってくれたか!そうかそうか、わかってくれたか!で、いくらにしてもらえる?」


 カツミは大きく深呼吸をすると


「二つ買ってくれたら、1割、いや1割五分まで引きましょう」


 カツミの提案は、男の予想とは違っており、かえって焦ることになる


「ふ、二つだと!1つではダメか?」

「一つでは、値引きなし。二つ購入から値引きさせてもらいます」


 カツミなりに、原価と手間を考えた上での値引きである。男はというと、「う~ん」とうなり声を上げながら


「二つか・・・・予算が・・・・だが、これを買って戻れば、(お嬢様が)喜ばれるし・・・・」


 カツミにとって、目の前にいる男は、常連客ではあるのだが、その職業を知らないが、いつも身なりの良い恰好をしていることから、どこかの金持ち?といった感じだった。


「わかった!仕方ない、2つ買わせてもらうが、2割まで引いてくれんか?」

「1割6分でどうですか?」

「いや、もうひとこえ、1割9分で!」

「じゃあ、1割7分で」

「1割8分!」

「わかりました。1割7分5厘引きで!それ以上は、絶対にまけませんからね?」

「よし、買った!」


 そういうと、男は懐から財布を出すと、紙幣を数枚取り出してカツミに手渡していた。


「毎度ありがとうございます」


 カツミも紙幣を受け取るとそう答え、商品を二つ、手に取ると、


「少々、お待ちを」


という言葉と男をその場に残すとレジのあるところへ戻り、商品を二つ、手提げ袋に入れる。男はその様子を見ながら、『これでお嬢様に怒られずに済む』と内心、ほっと胸をなで下ろすのだった。


---SIDE B


 「あら、あなたたち、こんな朝早くからどうしたの?」


 鈴子が時計を見ると、まだ、午前10時、店を開けたら、目の前に、天海と開発の二人が立っていた。


「えーっと、会長、えーっと、えーっとですね・・・」

「なんなの?開発君?貴方、顔色が悪いわよ?」

「そのつまりですね・・・」


 非常にばつの悪そうな開発の隣で、天海はというと、きょとんとした顔で、天海を見ていた。


「はっきりおっしゃい!」

「えーっとですね」

「いやぁ。原価計算を間違えましてね。それに、発注数の方も、先代の言いつけ通りの数でやったんですよ。あははははっ」


 あまりにも、言いよどむ開発を見かねたのか、天海が悪びれもせず、開発の顔色が悪くなったというか、一晩眠れなかった原因をさらっと言ってのけた。


「え?何ですって?どういうこと?」


 天海の言葉に、鈴子は、ギロリと、開発をにらみつける。


「えーっとですね」


冬だと言うのに、昨日よりも30%増しで汗が、身体のあちこちから吹き出してくる。


「この馬鹿が、原価表を全部出して無くてですね」

「それで?」

「昨日、会社に戻ったら、こいつが、他の請求書とか発注書とか出してきまして・・・・」

「はあ・・・・で?まさかと思うけど・・・」

「・・・・」

「はっきり言いなさい!」

「はっ、はい!原価が、元の1.5倍まで膨れ上がり、製造数が100じゃなくて1000個でした!」


 開いた口が塞がらないと言うのは、開発の言葉を聞いた鈴子のことを言うのであろう。


「あんたたち!うちの人がやらかしてたことと、同じ事をやったわね!」

「「はっ!すいません!」」


 鈴子の剣幕に開発だけで無く、天海までが、背筋をただすのだった。


SIDE AとSIDE B 同じ地球で、似たような歴史ではありますが微妙に違いがあるのです・・・

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