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今のカツミと過去の克美。

---SIDE B


「ばあちゃん、これ、もっといっぱい食べて良い?」


 琢美は、箱の中に並んだきな粉餅を、すでに一切れ手でつかんでいた。きな粉餅から漂う甘い匂いにつられて、言葉より先に、手が動いているようである。さて、鈴乃はというと、遠足のおやつで、このきな粉餅の箱をひとつもらっていた。なので、


「ばあちゃん、僕、これ好き!」


 と、琢美が声をあげるのだが、鈴乃も、同じように、声をあげるでもなく、そのことばにうなずいていた。なぜなら、お別れ遠足におやつで、このきな粉餅を祖母からもらっていることを、琢美に知られたくなかった


「鈴乃は、どうだい?」

「うん!」


 幼稚園年長組さんの鈴乃は、計算高い幼児である。


「二人とも、もう喧嘩はしちゃだめよ?」

「「うん!」」


 と、まあ、いつもこんな感じで、なし崩し的に兄妹喧嘩は終わりになる。そんな二人の孫を優しいまなざしで鈴子は見ていた。


「会長! 、二人を連行、もとい、連れてきました」


 孫二人との鈴子にとって、午後の静かなひとときは続かないもので、水菓子は、開発・天海の二人を引き連れて、鈴子の下へと戻ってきた。それも、鈴子が予想していた時間よりをずいぶん早くにである。


「ありがとう、水菓子君。それにしても早かったわね? 琢美に、鈴乃や、中に入っててくれるかい?」


 孫二人に、これ以上も無いぐらい優しい声をかける鈴子。後に、水菓子は、その声を聞いたとき、背筋に何かゾクリとするような感じがしたそうであり、それは現実のものとなるのだった。


---SIDE A


「で、でたぁ~~~~~・・・・はっ、夢? 夢かぁ?」


 カツミはベッドの上で飛び起き、あたりを見回していた。


「ふうっ、ああ、なんか、ひどい夢を見たなぁ・・・・」


 大きなため息ひとつ、カツミの額は、もうすぐ冬だというのに、汗びっしょりである。

 カツミは、ベッドから起き上がると、時計を見る。


『午後11:30』


 当然のことながら、部屋の中は、真っ暗。カツミは、自分がどこにいるの確認するかのように部屋を見まわす。ふと、思い出したかのうように、カツミの視線は、壁の扉に釘付けになる。なぜか、そこは、ほんのりと輝いていたからだ。


『箱の中、ちゃんと見ろよぉ~!』


 どこからか、そんな声が聞こえたような気がして、カツミは、扉を開けると、中にある箱に手を添えた。


「うっ・・・重い!」


 箱は、ずっしりと重く木製であり、木の香りが漂うのだが、そこには、ほんのりと、カツミがこれまで嗅いだ事の無い甘い香りが漂いカツミを包み込む。


「なんだろ・・・これ・・・・・・」


 カツミは意を決して、箱を開ける。中には、中が透けるように見える薄い布のようなもので包まれた木箱が、いくつも入っており、その中の一つをカツミは、手に取った。


「なんで布で? ・・・えっ? これって布じゃ無い? 紙なのか? ええええええっ?」


 見た目は、薄い布、シャーのように見えるのだが、触ってみると、それは、思った以上に薄いのだが、その手触りは紙そのものであり、カツミは、ただただ、それに驚愕する。


「だれが、何のために?????」


 カツミは、知らぬ間に、独り言を言っているのだが、それすら気がつかないほどである。ただ、その包みを通して、より強く甘い香りがする。その香りが、カツミに、包みを開かせる。


「何だろ、おなかが空く・・・・」


 さらに強くなる香りに、カツミは、食欲を刺激されている。気がつけば、木箱の蓋を開けるカツミである。そこには、躊躇するといった言葉は、すでに無い。ただ、箱の中に何があって、何が元になって甘い香りが漂っているのかを見たいと言う気持ちだけとなっていた。


「うわぁ・・・・・」


 箱を開ける事で、甘く漂う香りは、さらに強くなる。これまで嗅いだ事に無いに香りに、カツミは、溺れていた。そして気がつけば、目の前にある箱の中身は、空・・・。押し寄せる波のように、甘さがカツミの味覚を刺激し、感情を揺さぶり、気がつけば、その全てが去っていた。


「えっ? あっ? しまった」


 一瞬前まで、箱の中に、茶色の何かが入っていた。だが、甘いに匂いに釣られて、一口・・・また、一口・・・・、味わったことにない感覚に翻弄されるがままに、箱の中にあるものを食べていた。いや、むさぼりつくように食べ尽くしていた。


「もう一個、良いよね・・・」


 誰に断るでも無く、カツミは、木の箱から、もう一つ包みを取り出すと、さらに、その包みの中からを木箱を丁寧に取り出す。


『今度こそは、ゆっくり確認してやる』


 心意気は良いのだが、”はっ! ”と、気がつけば、箱の中身は半分まで減っていた。どうやら、我慢できないようである。


「こんなもちもちして、甘い衣に包まれたもの食べた事がない・・・・なになんだ? これは????」


 カツミは、最初に食べ尽くした箱を手に取る。そこには、


 品名;きな●×

 原材料:△米(魚●産こしひかり)」、大豆きな粉(北●×産)

    ・

    ・

    ・

 △造者:駄○子☆○本舗さとう△●会社

      〒6×△-0101

      ○○県×△○※区・・・・・・・・・・

                                      』

「これ、なんて書かれているんだろう・・・・サトウって言うのはわかるだけど、他は、意味が、よくわからない・・・待てよ・・・」


 所々、カツミに読めない字があるのだが、食べた感じと、ここに書かれている何かからお菓子であることと、自分の知らないどこかで作られたものだと言う事は、理解出来た。ただ、何故か、そのわからない字が何なのか、いつもなら、そこまでは考え込まないが


「見た事ある字なんだよなぁ・・・・なんだっけかな・・・・」


 食べたお菓子の甘さに、あてられたのか、どうしても、目の前にある字に引きつけられていた。


「あっ、そうか、あれだ、あれ!だとすると、あれについて書かれた本って、どこだっけかなぁ・・・・」


 なにかを思い出したのか、カツミは、おもむろに、部屋の押し入れを開ける。中から紐が掛けられていた本の束をいくつか引っ張り出す。


「・・たくっ、誰だよ。こんな紐をかけたのは・・・・俺だよ!くそ!」


 紐の結び目は、非常に固く結ばれて、うまくほどけない。一瞬、ハサミで切ってしまおうかと』思ったのだが、


『綺麗にほどけば、再利用しやすい』


 と、なぜだか、妙な貧乏性が出てしまっていた。結局のところ、時間は掛かるも、なんとか結び目を」ほどくと、お目当ての本はどれだと、探すのだが、結び目をほどく、探すを繰り返す羽目になる。普通なら”イラッ”とするのだが


「そういえば、この内容って、今はどうなってるだっけ?」


 とか


「懐かしいなぁ。この時、おやから褒められたんだよねぇ・・・そうそう、このテスト結果見せて」


 とか、ひたすら脱線を繰り返す事、数十回。気になることをほかの本で調べること数百回。カツミの作業がはかどらない。

 ただ、カツミの記憶に、大昔、この国で使われていた文字は、ここに書かれているものに近かったような気がして、しまっていた本をあれやこれやと開いていでは、読みふけりを繰り返すのだった。


---SIDE B


 鈴子は、お怒りモード。


「ところで、二人とも、この商品について、詳しく聞かせてくれるかしら?」


 静かな声ではあるが、凜とした雰囲気を漂わせている。水菓子を含めた天海と開発の3人は、本能的な恐怖で震えている。


「えーっと・・・ですね・・・これはですね」


 何か言葉を絞り出そうとする天海。


「はっきり、おっしゃい!」


 口調は相変わらず静かなのだが・・・・厳しい言葉が投げかけられる。


「鈴子w、そ、それはですね」


 なんとか説明をしようとする開発。


「・・・・」


 鋭い視線で、二人を見る鈴子。


「おい、天海、開発、早く説明せんか!」


 焦る水菓子。


「おまえら、さっきまで、『あれやこれやと説明するから大丈夫ですよ』とか言っていただろうが?」

「「は、はいぃ・・・・・」」


 天海と開発は、鈴子を説得できると思っていた。なぜなら、二人は、社長をちょろく説得できたからである。ただ、二人は失念していたことがあった。


 天海と開発、二人が新人としての研修期間中、創業者である鈴子の夫、克美は、天海と開発の二人が、見せつける発想力に目をつけ、入社1週間で、いきなり開発部へと配属させた。


「おい、二人とも、これ改良できないか?」


 最初は、軽い感じで色々頼まれていたのだが、よりよいものを作りたいという克美の希望に添う形で、二人は頑張った、頑張りすぎて、あるとき、原価が定価を超えるという事態を引き起こした。


「社長、大変です」

「天海君、どうしたんだね?」

「原価が販売価格を超えました!」

「う~ん、それは困ったな。だが、これはこれで良い感じに仕上がっているし、販売価格を上げるか・・・・それか量産効果で、原価を下げるか・・・・・どうするか・・・」

「えっとちなみに、原価の方は、こうなってます」


 開発が、原価をまとめた者を克美に見せると、克美は、厳しい顔をする。


「これは、量産効果は無理だな・・・しゃ~ない、販売価格を上げるか」


 こうして、駄菓子屋で販売するお菓子の販売価格が、それまで50円(税抜)が、200円(税抜)へと跳ね上がる事になる。最初はそれでもよかったのだが・・・・


 ある日、克美は、鈴子から、


「貴方? お得意様からクレームが来てるんだけど、どういうことかしら?」


 と、問い詰められる。


『えっ?』

「内容は、どれも同じで、子ども向けなのに、1個1000円とか売れないって書いてるわね・・・貴方?」


 なぜか、冷や汗が止まらない克美。


「えーっと・・・・」


 この後、克美は、販売価格高騰の共犯である天海と開発の二人を道連れに、鈴子からこってり絞られることになる。後に、駄菓子屋本舗サトウ、社長の乱といわれ、これは、鈴子によって鎮圧されたと社史に記録される事件となった。


「あなた達、あの人が亡くなってから大人しくしてたと思ったら、またこんなことをやらかしたのね?」

「いえ、昨今の健康志向に寄せただけです。それ以上の他意もそれ以下の他意もございません!」

「子どもが喜ぶ駄菓子を作るのが、本来の業務でしょ?」

「ええ、ですからお子様向けの・・・・」

「それで、販売価格が2000円超えるって、本末転倒でしょ!」


 何も言い返せない天海と開発。この後、二人は、こってりと絞られる。鈴子の予想通り、生産数の桁を若干ではあるが誤魔化していたようで、それについては、減給処分を受けることになるのだが、健康志向の駄菓子というテーマについて、鈴子は


「水菓子君、健康志向というのは、着眼点としてはよいと思うのよね。だから、貴方がきちんと二人を監視の上、企画を進めてちょうだい? お願いね?」

「はい」


 二人のしでかした事が、この程度で済んだことは、幸いだったことは言うまでも無い。

登場人物(SIDE B)

佐藤 鈴子・・・駄菓子屋の店主。駄菓子製造会社の一応、権限なしの会長。

佐藤 克美・・・鈴子の旦那。駄菓子製造会社の創業者で、数年前に亡くなっています。

   鈴乃・・・鈴子の孫(妹)

   琢美・・・鈴子の孫(兄)


水菓子みすがし 旨矢うまいや・・・営業部部長。鈴子の元部下

甘木あまき 花梨かりん・・・営業部電話受付

高井たかい 誇希こうき・・・名前負けしてる新入社員

開発 留夫かいはつとめお・・・商品開発部統括責任者。

天海進太郎(あまみ進めたろう)・・・商品開発部企画責任者。

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