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破壊と創造  作者: 井嶋麻犀
破壊編
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第八章~息苦しい朝食~

 実にとって『袴』は中学の卒業式で女性教員や、ニュースで大学を卒業する女性が着る姿くらいしか目にしたことがなく。勿論袴を履く機会というよりは、着物を着たこともない。

 

 しかし、だからと言って。逢ってまだ僅かな交流しかしていない者のために、せっかく着替えを持ってきてくれのに、また違う服を用意させることに戸惑いを覚えた。

 

 いくら考えても如かないので、試しにその袴の上衣の袖を通してみたが。どうも格好が違うようで、イメージ通りに着れず。ああだこうだと四苦八苦していると、朱沙と名乗る女中が彼の着替えに痺れを切らしたのかさっさと近寄り。


 「このお召し物はこう着るのでございます」

と囁くと実の着替えを手伝いだした。その手際はかなり良く、みるみる実の全身は青色の布に包まれてゆき。最終的には細長い帯状の紐が腰に、きつく締めすぎないよう注意しながら絞められた。

 

 渡された服に着替え終わり。もう一度観察してみると、全体的にゆったりとしたシルエットで、実の体型だとサイズが大きく上衣の裾を捲り上げなくては手が出ない状態だった。

 

 「少しサイズが合いませんでしたね。新しいお洋服をご用意いたしましょうか?」

 と朱沙に訊かれたが丁重に断った。

 

 「畏まりました。それでは朝食のご用意が出来ておりますのが、お召し上がりますか?」

 「はい。いただきます」

 「では、こちらへ」

 と朱沙は部屋のドアを開けて客人を食堂へと導いた。


ドアをくぐり廊下に出てみると。廊下の窓に差し込む日差しのお蔭で、あの時の陰鬱な空気は影も形も消えさり、昨夜より視界が明るいため廊下の設計にいくつかおかしい点に気が付いた。

 それは、天井がやけに高い割には、道幅はやっと人一人が擦れ違えるほどしかない狭く。外門より木の木目がはっきり観察出来る程にきれいに磨かれた木の扉が均一の間隔で綺麗に整列していた。


 この場所はいかにも、“廊下の隅で立ち話を楽しむ”などの交流には適していなかった。

事実、実自身は生きた心地がしなかった。何故なら、顔を合わせてまだ五分も経っていない男女が並んで歩くには非常に息苦しい。


前を歩く彼女をよく観察してみると。実よりも10cmほど高い身長。オレンジ色が強い赤髪を腰まで伸ばしたロングヘアに、両サイドの髪の毛を耳の上辺りで、白いリボンで一つに結んでいるヘアスタイルが、合って間もない実でさえ不思議と彼女にとっても相応しい容姿に見えた。歩くたびに揺れる髪やひだの付いたロングスカートの裾に、つい視線を送ってしまうのは男のサガなのだろうか……。

 

 「食堂に着きました。どうぞ、こちらへ」

 朱沙が振り向き、後ろを歩いていた少年は胸がドキリとした。

まさか、さっきまで見惚れていたことに気がついたのか。と不安になったが彼女の素振りからは感じ取れなかった。

 実は思わず、朱沙の髪と同じ色をしたスカーレットの瞳から目を逸らしてしまった。食堂に着くまでずっと、見惚れていたことに気づかれるのが気恥ずかしいかったからだ。


 実が朝食を食べ終わり、食後の珈琲ならぬ。食後のオレンジジュースで寛いでいると、扉が開くギィーという音が聞こえたと同時に微風が頬に当たった。

 


 その瞬間。少年はまるで、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 「おはようございます。実様。よく眠れましたか」

 と比較的優しい口調で零萊は実に声を掛けてきた。

 「お、おはようございます。昨日は沢山なことがありすぎて、すぐに寝付くことが出来ました」

 「そうですか。それならよかったです」

 零萊は持ち前の親しみやすい笑顔で実に微笑みかけた。しかし、実は特に女性から微笑みかられた機会がほとんど無かった為、すぐに零萊から目を逸らし。飲みかけのオレンジジュースを一気で飲み干した。

 

「実様。私の話を聞いて頂けますか?」

と彼女は先程までの笑顔のまま、小鳥の囀りのような声で少年に優しく声を掛けた。

 「昨夜申し上げた通り、なぜ実様がこの世界に迷い込んだ原因を究明し。必ず貴方様を人間界へ送り届ける方法を、私を含む全勢力で追及しております。ですので、もうしばらくお待ちになってください。気をしっかりお持ちになってください」

 

 と実を励ました。そして、目を逸らして聞いていた実は零萊の言葉を聞き終わると、正面に座っている彼女に顔を向けて。何か言いたそうに口を半ば開きかけたが、すぐに口を閉ざして彼女の目を見ないように俯いてしまった。







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