第三章 ~この世界は美しく残酷だ~
気がつけば、前回の投稿から早10日以上……。
投稿が遅くなり本当に申し訳ありませんでした。
「なん...だ。これ...」
丘の上から広がる光景に、少年は驚愕し今まで忘れていた恐怖が蘇る。また、同時に異世界に飛ばされたことにひどく恨んだ。
そこに広がる光景は、
そこはまさに阿鼻叫喚の地獄絵図そのものだった。
血と硝煙や火薬などの普段の生活では、嗅ぐことがない。悍ましい臭気を含んだどす黒い煙がまるで、人の意志を持って風が吹くたびに左右をうねうねと揺らいでおり。
それの火元には。
目や口から大量の血を流して絶命した男。
四肢がばらばらに散らばり、人の形をなしていない肉塊。
腹部から内臓が飛び出て悶える人影。
頭が半分抉られ、その割れ目から鉄錆びに似た赤い液体が垂れ流しの状態で息絶えているモノ。
かつて、少年と同じ人間の営みをしていただろう。この世界のヒトが、数十。数百。爆発で窪み所処焼けた地面の上に転がっていた...。
この悪魔の巣窟のような、残虐な光景を前に。全身が粟立ち、がくがくと震えた。
先程まで嗅いでいた臭気と、自分もいつかこうなるのではないのか。という恐怖が沸き起こり吐き気を催した。
口を塞ぐその一瞬。
耳元から“助けてくれ”と、かすれた男の声が聞こえた・・・。
少年は自分自身から発せられる、 激しい息遣いで我に帰った。
いつも運動などは、ほとんどしない彼だったが。 この時だけは、疲れも感じず。ひたすらに全力疾走で当てもなく駆けていった。
ただ、あの地獄絵図から少しでも離れたかったのだ。
当てもなく延々と走っていると。目の前に黒塗りで塗装された、木製の大きな門が現れた。
少年は残り少ない体力を振り絞り、煤けた門をゆっくりと二、三回叩くと。その場で膝から倒れ次第に瞼が重くなり、そのまま意識を失った。
目が覚めると、見知らぬ天井を見上げていた。
身体を起こそうと、腹筋に力をいれた。だが、体力の消費が想像以上に大きく、びくとも動くことが出来ない。
「あぁ。良かった。目が覚めたようですね」
突然、牢屋越しから鈴が響く美しい声色がその女性の口から発せられ。
青年は、ビクッと身体を強張らせた。辛うじて動く首を声のした方に傾けた同時に、思わず息を飲んだのだった。
彼の視線に飛び込んできたのは。漆塗りされた漆器の様ににてらてらと光り、隙間から吹き込む微風で揺らめく黒い髪。黒々と輝く黒水晶を思い浮かべる程に澱みのない瞳と、血が通っていない蝋人形を連想するほどに白い素肌。
淡く染められた空色をした着物らしき服を身に纏った、女性はまさにユリの花そのものだった。
そして手に触れるだけでも、汚してしまうような儚げさと。どこか 言い様ない気品を漂わせる彼女が目の前に立っていた。
少年は、突然現れた謎の美妙な少女に向けて、戦きながらこう尋ねた。
「ここは何所ですか?」
その問いを聞いた美少女は、一瞬眉をピクリと動かし、フフフと軽く笑った。
「今、貴方が立たされているこの状況に理解していないのかしら?それとも、冗談かしら?」
と横になっている少年の心理を探るかのように、しゃがみこんで顔色を伺う仕草をとった。
そして、その少女は口元を少し歪ませ、こう発した。
「では、特別に教えてあげましょう。貴方は、我々の敵。”月蝕”からの使者だと見なし。監禁されている身なのですよ」
その言葉の羅列の意味を理解した。少年はたちまち頭の先から、足の爪先までの血流が凍った。
そして、彼女を包む独特な気配の正体をやっと理解した。
それは、誰も信じない。といった冷たい心の現れだったのだと、少年と彼女の間に頑丈な鉄格子が。
そう、裏付けしているようかのように、冷酷に隔離していた。
新年あけましておめでとうございます。
よいお年をお過ごし下さい。