第二章~そこは、桃源郷・・・?~
肉眼で確認できる範囲を端から端まで見渡しても、碧色に生い茂げる野原に。赤、青、黄色と朝露で濡れた。美しい花々が咲き乱れているばかりで、この野原の中で動く生き物は誰もいない。
風に乗って運ばれてなのか、草むらに隠れて見えないだけなのか。
小鳥の囀りが聞こえるだけだった。
少年はある心情に駆られた。
それはまるで。どこまでも、どこまでも。目が慣れることもない暗闇が支配する大宇宙の中でたった一人、小さい宇宙船に閉じ込められ。宇宙を放浪しているような、表しようのない孤独の様だと...。
自分の両頬を抓って痛みがしっかりあること確認すると、少年はほっと胸を撫で下ろした。
――これは夢でもなく、ましてや僕は死んでいない。
すると彼は、何気なく口元に触れると、にっと口角が上がっていた。
――少年は笑っていた。
「そっか。叶ったんだ。僕しかいない世界。僕を知っている者がいない世界だ」
少年は喜々として思い思いに歩き回り。本当に自分一人しかいないという、漠然とした疑惑が確信に変わるにつれて。
鼓動が速くなる胸を抱えながら闊歩した。そして、しばらく歩いているうちに。
ここの世界の空気はとても綺麗で、さっきまでいた。あのごみごみとした世界よりも、澄んでいる様に感じた。
遠くに聳える山々には。濃い桃色の花をつけた木々が、どれも息を飲む程に色鮮やかで。時々そよぐ微風から、甘い香りを鼻腔を撫で姿を見せない。
小鳥たちの楽しげなおしゃべりをはっきり聴く事ができるのも恐らくそのせいだろう。と少年はそう納得し、またルンルン気分で草原の散策を再開した。
草原に飛ばされてから、一体どれくらいの時が流れたのだろうか。
少年は、休むことなく無計画なハイキングを飽きもせず、楽しんでいたが。
いつの間にか、色とりどりな花場が途絶え。代わりに現れたのは、小高い丘だった。
少年はそれを深く考えず、そのまま登り始めた。
彼の足は羽が付いたのかと、誤解してしまうほどに軽く、実に軽快な足取りで歩を進めた。
ごく些細な障害を容易に乗り越えられることが、とても幸せに感じた。(なぜ、人の目があるだけで他人の顔色を、いちいち気にしていたのだろう)と今まで歩いてきた己の人生に疑問を感じている反面。
今ならなんでも乗り越えられる自信に満ち溢れていることに少年は満足していた。
しかし、長い間願っていた願望が成就し、舞い上がる時間が後数分で終わりを迎え、絶望に変化しまうことに。
本人はまだ、気付いていなかった。