君と僕はエビフライ
病んだエビフライの世界をお楽しみ下さい。
君はパリパリサクサクされて嬉しそうだよね。
君はムシャムシャモグモグされて痛そうだよね。
…………。
ああ…、僕もパリパリサクサクされて嬉しくされたり、ムシャムシャモグモグされて痛くして欲しい。
そして僕と君は同じ喜びと痛みを分かち合いながらエビフライとしての生を終えるんだ……。
君と僕はかつて一緒のパッケージに入れられていた冷凍のエビフライだったよね。同じ袋の中でスーパーの店内を共に過ごしたのが懐かしいよ…。
「君…、衣がチクチクしてて痛いじゃないか。もう少し向こうへ行ってくれないか」
「そんな訳にはいかないよ。ここ、狭いし。」
君はちょいと独りよがりなところもあったけど、それは、普段からクールな雰囲気を見せている中でもほんの少しだけそうでない面を僕、僕『だけ』に見せてくれているかの様にも思えて気持ちが余計良くなるんだ、正直興奮するんだよ。
僕は『エビフライ』に成る前の記憶が無いから、自分が『エビ』だった頃どんな奴だったのか分からない。でも、そんな事で興奮するような僕だ。きっと、海で生きていた時は変な物を見る目をされていただろうなと思う。
――そして僕達は連れて行かれたんだ、あの忌々しいヒト共の手によって。
僕はとても辛かったんだ。
足元から外界の光がサラサラと入り込み、僕達の間を縫い抜けていく。君との仲が終わってしまう予感がして嫌な気分にさせられたんだ。
そして僕らの『愛の巣』は機械チックな正体不明の箱の中へ幽閉されてしまった。
外でピッ、ピッ、ピッ、ピッ、と無機質な音が聴こえてくる。こんな音は生まれて初めて聴いた。初めて聴いた筈なのに体の震えが治らない。むしろ、その音を聴く度に身震いが増していくばかりだ。
「ピーーーッ!」
な…、何だ…?
ガタッ、ブゥゥゥゥゥゥンと音を立てて僕達を包む物を載せた何かが動き始めた。
感覚で判った、その何かは回っている。
何かは分からないし、何の目的があって回っているのか知る由も無い。
そんな事を考えていると、ふと、感じた。感じてしまった。
「暑い…、俺達はサウナにでも入っているのか…?」
君もそう思ったか、気の所為じゃなかったんだね。
暗黒の世界に僕達を閉じ込めた紅い箱は、エビフライともあろうものを茹でタコにせんとばかりに室温をどんどん上げている。
暑い、熱い、蒸し蒸しとしてくる。
僕達を熱して何になるのか、何故、ヒトは僕達を熱するのか、どうして、僕達にこんな非道的な仕打ちをするのか、この僕にはまるで理解が出来なかった。
いや、もう理解しようにも熱で脳がやられてしまいそうでとても頭が回らない。
脳だけじゃない、僕の、僕の体にこびり付いている氷が溶けてきている…!
「はぁ…、はぁ…、溶…る…。溶けりゅよ……。僕達…、このまま…、『解凍』…されちゃうの…」
あっ…、あっ…、解凍される…っっ!
解凍…されりゅの…!
僕を解凍してくれるのは君だと思っていたのに…。
僕の『初めて』は君が奪ってくれると、そう、ずっと期待していたんだよ…。
なのに…、なのに…、僕の氷を解かすのは君じゃなくて…、この…、生命の息吹も見せる事の無いただの箱だったんだね!!!!
嫌だよ…、僕は…、君にして欲しかったんだよ…?
ああっ…、何でなんだよ…!
僕は今、脈動の欠片すらも感じさせない無慈悲な四角い物体に興奮させられている…、ムラムラしている…っ!
体が言う事を聞かない。
僕はこんな物に熱だけで気持ち良くされている事実を受け入れたくない。
そっ…、そうだ…。僕は…、この箱で絶対に解凍される悦びを知る訳にはいかない!絶対に!
だが、そんな僕の意志を暴力的な熱がドロドロにしていく…。
「あっ…、あっ…、熱っ!ひぃ、ひぃぃぃん…」
熱過ぎて気が可笑しくなりそうだよ…。
「あっ、あっ、あっ、あっ、んああああ、解凍、ああああ、解凍され、解凍されりゅ…、解凍されりゅのおおおおおおおおおおんんああぁぁあああぁぁのほぁああああぁぁぁぁぁぁ!!!!」
チ――ン
解凍、されちゃった…。
何事にも例え難い、過激な高温。
無理矢理に、滅茶苦茶に、僕は氷を剥がされたんだ。
ふと、隣を見る。
「……………………」
君も、ふふ、解凍、されちゃったんだね。
ああ、僕達これからどうなるんだろう。
身ぐるみ剥がされて、好き勝手に弄ばれて、おまけに初めてまで奪われて、
『ほーら出来たわよー』
『おいババ〜、まーた夕飯冷凍食品なのかよ』
『いいじゃないのよ別に』
『ちぇっ』
『『『頂きます』』』
僕ら…、これから、どうなっちゃうんだろうね。
皆さん、心のエビフライを解凍されてエクスタシーに堕ちましたか?
お読み頂き有難う御座いました。




