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歯車が回り始める時  作者: 黒虹
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光輝の独り語り

カシャンと玄関が閉まる音がする。


弱気になって嘆いていた友人の背中を蹴り倒す勢いで追い出したのは一昨日の午後。


成功するまで帰って来るなとは言ったが、成功したあいつが報告と共にやって来たのは2日後だった。


幸せそうに『離れがたくて』と言ったあいつは、本当に顔が溶けるのではないかと思うほどに緩んでいた。


まだ理性の箍は外れていないとは言っていたが、いったいいつまで保つことやら。


周囲はあいつの事を穏やかで優しいと評するが、俺からすればあいつは非常に気が短い。


短気と言われる俺以上に気が短い。


ただそれが出るのが、一点のみ。


侑奈さんが関わる事の時だけだ。


それ以外はどうでもいいんだろう。


怒らないんじゃない。興味がないんだ。


一部からは何を考えてるか分からなくて怖い、とも言われているが、あいつの頭掻っ捌いたら、確実に侑奈さんの事しか出てこないと言い切れる。


その代わり、その領域を踏み荒らそうものなら酷い報復が待っている。


中・高と死屍累々を見て来ているので、あいつは敵に回したくないと思う。


侑奈さんの前だとただのバカでしかないが、基本的にはハイスペックの持ち主だ。


品行方正、文武両道、容姿端麗、等々の美辞麗句を引っさげて歩いているようなやつだから。


勉強させればいとも簡単に首席を取るし、運動は苦手とか言いながらも本気を出せば個人技なら全国クラス。


なのに部活も『侑奈さんとの時間が減るから』と言って、中学3年に上がる時にスッパリと辞めた。


建て前として受験生だからと言っていたが、あいつが受験勉強しているところなど、これっぽっちも見たことがない。


高校の時に始めた株も、親父に指南してもらいながらではあるが、そこまで大きく損害を出すこともなくかなりの額を稼いでいたと聞く。


親父に筋が良いからと、大学卒業後の進路まで決められそうになっていたが、必要資金は稼いだからとあっさり断っていた。


どれくらい稼いだのか聞いてみた事があったが、『サラリーマンが稼げる生涯給与くらい』とぬかしていた。


全てを持っているのに、面倒な事はしたくないからと、力をセーブしてトップを取る事はせずにいつもそこそこの場所にいる。


ホント、ハイスペックすぎて気持ち悪い。


あいつ本当に人間か?と正直疑いたくなることがたまにある。


欠点と言えば、芸術が壊滅的なところくらいか。


模写や演奏くらいならどうとでもなるが、自由作画や歌は……思い出したくないな。


本人も全力で避けているし。


そして言わずもがな、唯一の弱点は侑奈さん。


彼女が関わると途端に弱気になるし、計算を間違える。


他の相手なら間違えるはずのない選択肢すら、彼女相手だと間違えまくる。


見ているこちらがハラハラする程に。


まぁ、いろいろ修正させながら今に至るのだが。


アレは放置するとヤンデレってやつになると言い切れる。


何年もかけて共依存に持ち込もうとするような奴だから。


はあ、とため息を吐く。


それでも羨ましいと思ってしまう。


相手を手に入れる事が出来たのだから。


俺には開かれていない未来だな。


だからなのだろうか。


世間体や外聞が悪いと言われるような純愛を応援したくなるのは。


あいつの恋愛もあまり大っぴらには言えないだろうから、しばらく惚気を聞く地獄が俺を待っているんだろうな。


想像してげっそりするが、唯一無二の親友の本願成就を祝う気持ちは変わらない。


今はただ、良かったなと思うだけ。


これで『歯車が回り始める時』は終わりになります。


最後まで読んで頂き、本当にありがとうございました。


また新しい物語でお会いできたら嬉しいです。



黒虹 ユエ。

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