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春を呼ぶ乙女と始まりのとき

作者: 七瀬

冬が終わり、春が訪れると祭りが行われる。冬が終わったことを歓び、春に感謝をする。春の女神に今年も恵みがありますように、と村人たちは祈るのだ。


シューリーはこの祭りが好きだ。寒い季節は終わり暖かく心地よい季節の訪れがシューリーは好きでたまらない。緑の匂い、土の匂い、その全てが喜んでいるように感じる。

その祭りのなかで春を呼ぶ乙女を選ぶ。春を呼ぶ乙女はその年、18歳になる少女が務める。春を呼ぶ乙女に選ばれると最後のファイヤーをつけるのだ。今年は誰が選ばれるのだろう。シューリーも、今年で18歳。



「おはよう!シューリー。」

後ろから声をかけたのは幼なじみのラキアだ。ラキアも同じ18歳で、周囲の女の子たちに騒がれている。なのに、さっぱりつれないものだから、シューリーには文句ばかりがたまる。

「おはよう、ラキア。今日はどうしたの?」

シューリーは洗濯の手をとめて振り向いた。

「えー?今日は春の祭りだよ。どうしてこんなことろにいるの?他の女の子たちは着飾っているのに。」

「もうっ、知っているでしょう?わたしはこの村の娘じゃないの。だから、春の祭りに行くことはできないわ。」

「どうして?俺はシューリーに来て欲しいんだけど。」

はぁ、とシューリーはため息をついた。どうしてラキアは困らせるのがうまいのか……

「お願い、困らせないで。この村の生まれじゃないから、着飾らずにこっそりとのぞくのよ。それでわたしは十分なのよ。」

「わかったよ。夜、迎えに行くからな。」

「どうしてそうなるの?わたしは行けないわ!」

じゃぁな、と言い捨てるとラキアは去っていった。


どうして、思ったようにいかないのかしら。わたしは小さな頃にこの村に移り住んできた。わたしを連れていた叔母は5年前に亡くなり、いまは一人で暮らしている。同い年の友達もできたけど、ここで一生を過ごすことはわたしはできないだろう。当たり前の暮らしは望めない。昔、追われてこの村に来た、という記憶がある。だから、行きたくても行けないのだ。

日が落ちると村の広場の方から笑い声が聞こえてきた。楽しそうだなと思うけど、行くわけにはいかない。昼間、ラキアは口ではああ言ってはいたけどきっと来ないだろう。18歳を過ぎた若者にとって春の祭りは歌垣の夜でもある。今夜、ラキアもいい人を見つけ明日には教えてくれるだろう。もう、外は真っ暗だ。きっと春の乙女も決まる頃だ。誰になったのか気になるが祭りが終われば役目も終わるからきっと今年も分からないで終わるだろう。

コンコンと戸を叩く音がした気がした。でも今日は春の祭りだから風の音だろう。コンコンとまた音がした。気のせいじゃないの?

少し怖いなと思ったけど、はい?と返事をした。

「よお。」

顔を出したのはラキアだった。

「え、どうしたの?祭りは?」

「来いよ。」

言うとラキアはシューリーを引っ張って歩き始めた。

「は?え、ちょっと待って!」

「いいから。祭りに行こうぜ。」

「だめよ!」

「どうして?」

「わたしは余所者よ!」

「誰が余所者は祭りに来ちゃいけねぇって決めたんだ?」

「それは……」

「いいから行くぞ。俺は村人に聞いてきた。余所者はきちゃいけねぇのかって。誰もきちゃいけねぇとは言わねぇぞ。」

ラキアに手を引かれて村の広場に着いた。

「ほら、誰も気にしてねぇ」

おーい!とラキアは広場に向かって声をかけた。

「シューリーが祭りに来たぞ!」

ほんとう!と声が上がった。仲の良いキュリーが駆けてきた。

「ずっとずっと待っていたのよ!」

「どうして?」

「今年の春を呼ぶ乙女はあなたよ!」

「………!!うそ、でしょう?」

ほんとうだ、とラキアが呟いた。

どうしよう、ラキア。と見上げると、ふ、とラキアは笑った。

「だめよ、わたしはこの村の娘じゃないもの。」

ラキアはそんなにだめなのか?と呟き、ため息をついた。

「そんなに村人じゃないと春の祭りに行けないのか?春を呼ぶ乙女になれないのか?」

「ええ、そうよ。」

「俺は関係ないと思う。だが、それがシューリーにとって大切なことなら俺は言うぞ。

俺と一緒になって欲しい。これから先、ずっとこの村で一緒に暮らしたい。」

「えっ……。本当に?わたしでいいの?」

「ああ。そうだ。お前がいいんだよ。返事をくれよ。」

「本当にわたしでいいのね……?ありがとう。」

シューリーが赤くなってる!ははっと周囲から笑い声が上がった。

「さぁ、シューリー!あなたが春を呼ぶ乙女!薪に火を灯してちょうだい!」

松明を手にしたシューリーは叫んだ。

「本当に、本当にわたしでいいのね……?」

シューリーは大きく息を吸い込んだ。

「冬は終わったわ!春の訪れよ!」

さぁ!と、薪に火が灯った。

シューリーは、薪の周りに人々が集まり、踊るのを見つめていた。ふと気がつくと隣にはラキアがいた。

「ラキア、ありがとう。春の祭りはこんなにも楽しかったのね。ふふ、笑っちゃうわ。こんなことなら早く祭りに来ればよかった。」

2人はまだ、始まったばかり。そう、ここから歩き始めるのだ、未来に向かって。







拙い話ですが読んでいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 多少荒くはありましたが、特に終盤、春の訪れを祝う祭りの、喜ばしい雰囲気が伝わったような気がします。
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