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異常事態発生

 突然の鼓膜を裂くような音にヒロトとシウルは顔を顰めた。

 目の前にいたガッタはそのことにさして驚く様子もなく、慣れた様子で広場の人々に指示を出していた。


「アンタらも街の女と子どもと一緒に逃げな」


 ガッタは真剣な顔でヒロト達に告げた。


「一体何があったんだよ!」


 突然のことでまだ状況把握が出来ないでいたヒロトはガッタに尋ねた。

 ガッタは家屋の近くに置いてあった刃のついた農具を取り、ヒロトの質問に答えた。


「――“野良リザード”の襲撃だ」


「“野良リザード”?」


 聞き慣れない単語にまたしても顔を顰めるヒロト。


「……やっぱり……」

 それに対してシウルは事前に知っていたかのような素振りを見せていた。

 何事かと、視線をシウルに向ける。

 シウルは得心がついたようで説明を始める。


「街外の時から視線を感じて警戒していたのだけど……まさかこの街に目を付けていたなんて……!」


 舌打ちするシウルはどこか悔しげに言った。

 話を聞く限りには"野良リザード"とは、いつもは街外の草原に生息していて、偶に近くの街を襲って食料を略奪していくらしい。

 この街はよく標的になるようで、いつ襲撃を受けてもいいように家屋には武器になる農具を常備している。

 戦力とならない女性や子どもは地下の避難所に向かい、男性は武器を持ち"野良リザード"の迎撃に当たる。


「魔物と戦うなんて大丈夫なのかよ」


 未だに本物の魔物を見たことのないヒロトはガッタや街の男性を心配したが、ただの杞憂に終わった。


「心配するな。この頃の戦績は連戦連勝だ。この襲撃もすぐにやっつけてやるよ!」


 ガッタの心強い言葉に安堵したヒロトは周りを見回した。

 既に街には農具を持った男性達だけ残っており、部外者はヒロトとシウルだけだった。

 襲撃の迎撃を街の男性達に任せて自分達も避難しようとイスから腰を上げた時、襲撃の音が鳴った方角の建物の影から一人の男性がやって来た。

 その男性は先程ガッタの指示で偵察に向かわせていた三人の内の一人だった。

 帰ってきた男性は肩から血を流し、足もフラついていた。


「一体どうしたんだ。他の二人はどこだ」


 男性の後ろを向いても他の二人がやって来る様子はない。


「ガッタさん、逃げるんだ。今回の襲撃は俺たちの負けだ。アイツら、ついに」


 男性の報告は盛大な鳴き声によってかき消された。

 先程よりも大きく、近くから聴こえた。

 男性は顔面蒼白となり、一目散に四つん這いで逃げて行った。


「オイ、どこに行く!?」


 ガッタの怒号は男性には届かず、虚空へ消えた。

 残された男性達は偵察の役目くらい果たせよ、と一同に思った。

だが、男性の傷と怯える様に尋常ではない緊張が伝わった。


「怯むな!!この街は俺達が守るんだろ!!」


明らかに以前とは状況が違う事に尻込みする男性達にガッタが一喝した。

徐々に大勢の足音が近づいてくるのが石畳の地面から伝わる。

 ここまで来てはもう避難は手遅れだ。今から逃げても、"野良リザード"が追いついて殺されるのがオチだ。それならば、街の男性と共に戦う方が生存率は高いだろう。


「シウル、俺達も戦おう」


 ヒロトは近くの家屋から鍬を取り出し、軽く扱い感触を確かめる。


「ええ、その方が良さそうね」


シウルも同じ結論に達したようで立ち上がり、指を解すように準備運動を始めた。


「シウルは武器を持たないのか?」


指を動かすだけで武器を選ぼうとしないシウルに尋ねた。


「私は、いらないわ。だって、エルフだもの」

そう言って、指をパチンと鳴らす。すると、指先に小さな火球が灯った。

そう言えば、とやっと思い出したヒロトは自分の発言がバカのようだったと反省する。

全ての準備は整い、後は迎撃するのみとなった。広場には瞬きを躊躇するほどの緊張が張り詰めていた。頬に伝う汗さえも拭えないほどに。


建物の影から小さな影が数体覗き見え、その中に一際大きな存在を誇る影があった。

感想・アドバイスを頂けると嬉しいです。

次話では初の魔物が登場するので精一杯表現できるように頑張ります。

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