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The end of the sky  作者: みるく
本編
14/66

13


     *


 イスヴィラではイース博物館館長として知られるラウドは苛立っていた。

 博物館勤務かと誤解されがちだが、それはオマケの名誉職。実質的な肩書きといえば「ウルダン基地局長」である。そこは世界を支えるシールド・システムの一柱、西の要所だ。仕事内容は、激務の一言に尽きる。


「結局ガーディアンが増えてないんだ、そんなばからしいものに時間を割く余裕があるわけがない!さっさと断れ!」


 あちこちから上がってくる、エラー報告。人員が足りていればそれぞれに配置できるのに、足りていないから、あっちから助っ人を呼び、足りなくなった場所に別のところから人を呼び、それの繰り返しだ。ラウド自身も動くし、本来ならば違法となるが、資格が必要な場所に資格がない人間を派遣したりもする。そのときには特例措置を楯に押し通すか、隠し通すか。どのみち面倒である。


「でも、認可されている総合メディアなんですよ。ある程度以上の情報開示をしないと」

「適当に開示してやれ」

「局長をご指名なんです」

「阿呆か」


 ラウドは一言で切り捨てる。


「局長、お願いですから聞いてください」

 張り付いてくる対外対策室の職員を押しのけるように、ラウドは進む。

「聞いている」

「ちょっと!だから待ってください、局長!」


 突然腕を引っ張られて、近くの部屋に引き込まれた。計器ばかりが動いている無人の部屋である。


「なんなんだ!」

「やんわりとでしたが、あれは脅しではないかと」

 眉間のしわを深くした。

「お前個人が脅されたと?」

「んなわけないでしょう。〈レナラスト〉の居場所を知っていると言っています」

「またあの小娘絡みか!」


 世界を揺るがせた芸術家だが、ラウドにとっては疫病神でしかない。


「もうひとつ。テロリストに関する情報を持っているとも」


 ラウドは頭を盛大に掻き毟り、持っていた書類を床に投げつけた。

 部屋に備え付けてある通信機に自分のIDを入力して、秘書室につなげる。


「――どうしましたか、辺鄙な場所からの通信ですね」


 通話に応じたのは、秘書の一人。


「五分でいい、外部の者との面会ができるよう、調整できるか」

「無理ですそんなもん」


 秘書の返答はにべもない。対外対策室の職員はやれやれとため息をついている。


「食事時とか、そんなんでいいんじゃないですか?」

「馬鹿をお言いでないよ、そこの金バッジ。三食まともに食う時間なぞ、その御方にはない。ていうかさっさと帰ってきてください、テトから助けてくれと悲鳴が上がってますから」

「ったく、テトは問題起こしすぎじゃないですか?」

「レナラストの崇拝者やらテロリストの内通者やら、いるんじゃないかね。迷惑千万だよ。でも疑っている暇がない。だからさっさと帰ってきてください局長。それからそこの金バッジは、記者会見で適当にごまかして」

「あ、また無資格派遣しましたね?!」

「それ以外に人がおらんのだよ。――だから局長」

「わかった、行く」

「待ってくださいよ、取材はどうするんです?無視します?圧力かけます?潰しときます?」


 対外対策室の職員は、ラウドが投げ捨てた書類を拾い上げる体勢のまま、慌てた。

 彼の差し出す書類を奪い取るようにして己の手に戻し、ラウドはうめく。


「・・・・・・セイファだ」

「え?」

「あれの居場所を教えてやれ。ばかなメディアは喜んで食いつくさ」


 対外対策室職員は一言目を飲み込み、恐る恐る、――


「・・・・・・恨まれません?」

「使えるものはすべて使え。天秤の片側は世界だと知れ」


 通信機越しに秘書が「いまいちカッコいい台詞に聞こえませんね」と無表情でつぶやいている。



 ――かくして、被害者が生まれるのである。


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