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The end of the sky  作者: みるく
本編
13/66

12 ナターリア


  Ⅳ


 ――最初に、このたびはイスヴィラ国際美術展での入選、おめでとうございます。


「ありがとうございます」


 ――今回最年少での受賞ということですが、大先輩方に肩を並べることが出来たご感想をお聞かせ願えますか?


「うーん、肩を並べるっていうのはまだまだ不遜な気がしますね。でも、昔から憧れていた皆さんと同じ場所に作品が展示されているっていうのは純粋にうれしいです。もちろん未熟な部分はまだまだあると思いますけれど、でも、今の俺が創れる最高のものであるという自負はあるんで」


 ――なるほど。今回のことを冷静に受け止められていらっしゃるようですね。

「そうですね。多くの方に見て興味を持っていただける機会を得たという意味では、とてもうれしい賞ですけれど。こういう場でどんな評価を受けようとも、作品にある本質、価値は決して変わらないと思ってます。だから入選しなくたって落胆することではないし、それ以上に入選したからと言って思い上がるのはばかみたいかな、って」


 ――そうでしたか。ところで、今回の入賞作品「青の彼方に佇む者への憧れ」について、伺いたいのですが。この作品のテーマは?


「授賞式や他の場所でも言ったんですけど、テーマとか語るのって恥ずかしいんですよね。製作者が言葉で語ると、そういう風にしか見えなくなるでしょう?だから、製作者は作品のみで饒舌になればいいんです。あとは、それぞれが見て感じたものがすべてです」


 ――えーっ、今日それを聞けるのを楽しみに取材に来たんですが、やっぱりダメですか。


「だめですね」


 ――では・・・これを見た方々の多くが思い浮かべるのが、幻想天穹シールドシステム、だと思うのですが。今の世界の在り方についてどう思われますか?


「え、それを聞いてきますか?今回のインタヴュー目的と、なんだかちょーっとずれてる気もするんですけど」


 ――気のせいですよ(笑)。


「俺なんかが言っていいのかな。・・・いつどの時代にだって、どこかに不満はあったと思います。その不満って、自分の力では状況を打破できないせいじゃないですかね。結局、自分に苛立ってるっていうか。俺はこうやっていろんなものを作って発散しますけど、そうじゃない人たちはどうしてるんだろうってよく考えます。そんなときにテロのニュース聞くと、なんとも言えない気持ちになります」


 ――冷静に現状を分析されているんですね。芸術家の方は、失礼ですけれども、俗世とは隔絶されたイメージがあったので意外です。


「そういう人もいますけどね。でも俺はそこまで高尚な芸術じゃなくて、時代の流れとか自分のすぐ傍にあるものを表現したいなぁと。・・・あれ、俺結構語っちゃってますね。黙ります」


 ――いえいえ(笑)。黙らなくていいですよ。インタヴューなんで。


「やだなぁ、もう。喋らされちゃう感じで」


 ――今「青」という色を見ると、やはりラスト・ブルーを連想する方も多いと思います。芸術に携わっていれば意識しないわけにはいかない影響力だと思うんですが、あえてこの青を表現に使ったのはどうしてなんでしょう?


「んー・・・普段から隠してないから知っていらっしゃると思うんですけど、レナラストの作品好きなんですよ。どんな評価をされてもその芸術の価値は変わらないと言った舌の根も乾かぬうちになんですが、あれほどに影響力のある作品を生み出すってすごいことだと思います。だからそういう尊敬とか、いつか自分もそうなろうとか、・・・言葉にすると軽いですね。あとはご想像にお任せします」


 ――わかりました。ありがとうございます。



    *



 エアノストラ総合芸術大学キャンパス――


「――いつか自分もそうなろうとか、色々ありますよ。言葉にすると軽いから言いたくないですけど。でも、そうだな。正直に言えば――俺は今この瞬間にしか価値を持たない芸術も肯定できるんですよ」

「今この瞬間、ですか?」


 いづもはテーブルを挟んだ向かいの青年の回答に首をかしげた。

 青年はその反応を予想していたのか、流暢に続ける。


「システムを連想させ、青を使う。これって風刺画みたいなもんでしょ。この時代の人の中にある共通認識を利用してる。この時代にしか通用しない。十年も経てば無価値です。芸術って永遠をどこかに求めてることが多いんですけどね。俺さっき、時代の流れを表現したいって言ったでしょ。そういうことです」

「ええと」

「簡単に言うと、注目されるためにホットな話題を題材に選んだ。けっこうあざといでしょ?だから語りたくないんです。あ、記事にはしないでくださいね」


 小柄で人懐っこい印象の青年――ナターリアはにこりと笑って見せた。

 いづもは笑顔のまま表情を凍らせる。

 気持ちを反映してか、めがねがずれ落ちてきたので、指で押して上げる。

 どういう風に切り返そうか。――こっちはプロなのだ。大手総合メディアの名を背負っている。少々問題ある返答があったって、動揺などするものか。


「確かに・・・、語らないほうが多くを語れる場合が、あると思います」

「あ、わかってもらえます?よかった」

「報道も伝えるという意味では芸術と同じなんでしょうね。けれど、やればやるほど言葉や文字の限界を感じますよ。言葉を重ねれば重ねるほど遠ざかる、というか・・・。そういう意味では、芸術がうらやましいです」

「なるほど。――ま・・・俺がやっていることは、あとはご想像にお任せしますってやつですよね。はっきり言えば丸投げ。正確に伝えようっていう、そちらのお仕事と比べるほどすごいことじゃないです」


 思い上がる馬鹿な若者ではない。それどころか、――随分と冷静に頭を回転させるのだ。

 少し世間ずれした芸術家だと勝手に思い込んでいた。世間でもそう思われている。――いや、最初喋っていたときは確かにそうだった。

 だがどうだろう。本音を引き出せば引き出すほど、記事にしにくいことばかり言ってくれる。


「これ以降は記事にするつもりはないから伺いますけど・・・ああいう発言、あっさりしちゃっていいんですか?」

「レナラストのことですか?別に、常に言ってますし」

「この作品も、反社会的思想ととられかねないと私は思いましたが」


 はっきりとしたいづもの発言に、斜め後ろにいたカメラマンがぎょっとしている。

 それに対してナターリアはといえば、平然としていた。


「そのための沈黙、でもあるんです。――ご想像にお任せ。本音は誰にもわからない。だから責めようがない。ま、やってることはギリギリのとこですけど、残念ながら俺の作品にはレナラストほどの影響力ないですからね。大目に見てもらえるでしょ」


 これのどこが世間知らずの芸術家だ。


「俺も逆に聞きたいんですけど。今、新聞もネットもテレビもラジオも、ぜーんぶ研究所の監視下でしょ。そういうの、どうなんです?せっかく取材したのに握りつぶされたりとかあるの?」


 カメラマンが焦ったようにいづもの腕を引いた。だがいづもはすぐさまそれを振り払う。

 笑顔を崩さない。


「世間が求めている限り、届かない情報なんてないんです。時代を超えてでも、必ず伝わります。私はそう信じていますよ」


「素敵だね。まるで芸術だ。どんなに潰そうと、人の内側から生まれてくる。誰にも止められない。ただ存在しようとする何者かの意思。きっと、これも生きているというんだろうね。意思が先にあって、それが誰かを突き動かして、現象や、芸術になるんだ」


 歌うように彼は言葉を紡ぎだす。

 ぞくり、と何色ともつかぬ感情が体の底から湧き上がってきた。超流動を思い起こさせる動きで、感情が器からずるりとあふれ出る。


(これを探していた)


 いづもは期待を膨らませた。


「――ねえ、聞いていいかしら」

「何を?」

「個人的な質問なの。私は、幻想の創造主の残した伝説を追っているんだけれど―――」


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