序
壊して。
このあおいそらは、にせもだから。
*
「今度は黎逢で捕まったって。システムの管理塔に忍び込んだ五人とガードが争って、負傷者三人。――さっき館長に会ってきたけど、ガード不足を嘆いてたよ。今システムが破られたら、世界が混乱に陥るだろうしね、嘆く理由がわからないでもない。でもその原因が、レナだなんてねぇ。今でも信じられないよ」
外は晴れていて、からりと乾いた風が工房の中を通ってゆく。そこに、すでに夏の名残はなかった。
「あの絵をどこかに仕舞い込むか、いっそ焼き捨ててしまおうって話まで出ているらしいよ。どんなに反対の声が上がっても、研究所にはそれを押し切る力がある。ちょっと危ないね」
饒舌に喋っているのは痩身の青年だった。くたびれた大きな横がけのかばんを肩から提げて、工房の入り口から、そこの主に向かって喋っている。まだ二十歳前だが、漂う落ち着きと知性を感じさせる顔立ちから、ずいぶん大人びて見えた。
工房の主――ピアは、何も答えない。横にも縦にも大きな体をまるめて、鑿と槌をひたすら動かしている。
「――何も、思うことはないわけ?」
問いかける青年の声にはおもしろがっている雰囲気さえあった。
ピアは短い問いを返す。
「たとえば、何を?」
「レナの絵だよ。捨てられてもいいの?」
「私が関知するところではないな」
ピアの返答は平坦だった。
青年は肩をすくめ、それ以上は何も言わずに工房に背を向けた。
*