刺神家
奈那が休憩しているところに、偶然にも、ある人物が通りがかった。
「…あ、姉さん。…こんなとこで何を?」
その姿は、まぎれもなく……
「…大毅…なんでここに来たの?」
彼の名は「刺神 大毅」
奈那の弟で…
「私の気配でも探ったの? “10年前のように”…!」
…刺神家の両親を殺害した、家族で唯一の反逆者だった。
「いや、別に…。偶然ここを歩いていただけだ…。緑が懐かしくて」
裂也と同じセリフだった。
この神秘幻界に緑が戻ったのは、それほどに最近の話なのだろう。
「それに、ボクは姉さんも絵菜も好きだから…殺しはしない」
唐突に呟かれたその言葉は、奈那の心を刺激した。
「……」
しかし、まだ弟の大毅を疑っていた。親を殺したことを未だに許す気がないからだろう。
それもそのはず。
誰でも、自分の親を殺されたら、親を殺した人物を憎むのは当然のことだろうし、その上、その犯人が肉親と知ってしまったら、余計に憎み、そして殺意も芽生えるだろう。
今の奈那の心には、そういった“恨み”や“憎しみ”しかない。
「私は…母さんも父さんも殺したアンタを好きになれないし、大嫌いよ」
奈那は続けた。
「それに…殺し足りないんじゃないの? アンタの“殺欲”は」
未だに“殺欲”が残っているのではないか、と思い込んでいる奈那だったが、
「いや、もう殺したりしない。それに、姉さんと絵菜が好きだっていうのは、ウソじゃないんだ…」
「あの時は、ただ感情的になってしまっただけ“だと思う”し…本当は、殺す気は無かった」
大毅の、心の底からの訴えだった。
親を殺してしまったことを心から深く反省しているし、姉の奈那、妹の絵菜、2人を好きなのは本当の気持ちなんだ…。
それを必死に訴える大毅。だが、一度壊れた縁は、そう簡単に戻らない…。
「それにしては、あっさりと殺したよね?」
大毅が何の感情も無く両親を弑逆したのを目撃していた奈那は、安易に信じなかった。
そこで大毅は、真実を話した。
「そういえば、まだ誰にも話してないんだけど……殺した瞬間のこと、“覚えてない”んだ…」
―――…10年前……
「大毅? …どうしたの?」
奈那が大毅に話しかけたが、
「………」
その日、大毅は突然、奈那や絵菜、そして両親と口を利かなくなっていた。
そして“抜け殻”のように、表情一つ変えずに食事を終え、部屋へと戻った。
「大毅、どうしたのかしら?」
母親が心配する。
「なんだか知らんが、表情が無くなっていたな」
あまりの無表情さを、父親が心配する。
「どうしたんだろう…?」
絵菜も心配していた。
「…ちょっと様子を見てくるね」
その3人の心配を背負って、奈那は大毅の部屋に入った。
「大毅? なにかあったの…?」
そうして言葉をかけるが、大毅からの反応は無い。
「なにか話してよ…。みんな心配してるよ?」
まだ反応しない。
「……ねぇ、大毅。いつまでそうしてるの?」
あまりにも反応しないので、今度は、言葉をかけながら肩を揺さぶった。
しかし、それでも反応しなかった。
「…やっぱり、何かあったの…?」
その言葉をかけた時だった。
突然、大毅は立ち上がり、奈那の首元をつかみ、部屋の壁に押しつけた。
「うぐっ!! …だ、大……毅…っ!?」
その直後に発せられた言葉は、大毅の普段の声とは違う音で発せられた。
「………コロ、ス……ッ」
その部分しか聞き取れなかった奈那は、自分が殺されるのかと思っていた。
しかし、そう言って大毅が向かった先は、両親の前だった。 奈那を持ち上げたままで……。
そんな姿を見てしまった親は、相当テンパっていた。
「だ、大毅! 落ち着きなさい!!」
父親がそう言って大毅を抑えようとしたが、止まらなかった。
そして、奈那の首をつかんだままの状態で、片手で両親を殺害した。
その殺害現場には、絵菜は居なかった。 だが、少し時間が経ってから、絵菜が戻ってくる。
「ただい……」
玄関に入ってそう言いかけたが、この悲惨な状況を見て、買ってきた物を落としてしまった。
それと同時に、大毅は自我を取り戻した。
「……っ!?」
立ちくらみをし、同時に奈那の首から手を離した。
「な、なんで…姉さんの首、ずっと持ってたんだ…!?」
おぼろげながらも、少しだけ殺害の瞬間を覚えていた。
そんな大毅に、放心状態の奈那が話す。
「アンタが……お父さんと、お母さん…殺したのよ…」
そう言った直後、奈那は大毅に殴りかかった。それも、いつもの数倍の力で。
大毅は、その攻撃を受け、倒れた。
「お、俺……が…!? そんな…バカな……!!」
殺害する瞬間の記憶は、全て吹き飛んでいた。
―――…
「だから…ボクは、全く覚えてないんだ…。でも、殺してしまったのは知ってる…」
手が血で染まっていて、そのうえ死体が目の前に転がっていれば、誰しもすぐに『自分が殺した』と確信できるだろう。
大毅は、そうした殺人を犯してしまった一人なのだから。
「……」
その時、奈那は黙り込んで、何かを始める。
……そして、確信した。
「ウソ、ついてないのね…」
大毅が真実を話しているのを何らかの方法で悟り、そして続ける。
「覚えてなくても、殺したのが分かってるなら……それだけでいいよ、今は」
奈那の憎しみが込もっていた表情が、優しい微笑みへと変わっていた。
「もう殺さないって言ってることだし…その言葉、信じるわよ」
やはり、肉親だからこその信頼もあるのだろう。
姉の優しさが、大毅の心に沁み込んだ。
「ありがとう、姉さん! …信じてくれて、ありがとう…!」
……と、そうして話しているところに、何かが、とてつもなく速いスピードで降ってきた。
それに気づいた奈那と大毅は、緊急回避でよけきった。
…その時、奈那は何かを感じ取り、こう言った。
「……!? この“特異感触のオーラ”……まさか!」
降り注いできたのは、隕石やミサイルといった大規模な兵器ではなく…人間だった。
「……いつ復活したんだ…!」
同時に、大毅も“その人物”の登場に驚いていた……―――――




