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散華  作者: 河野 美月
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花は知を欲する。

 ユーリが軟禁されてから、15日ほどが経過していた。

 その間、毎日訪れるエディアルドとエレイラ以外、数人の侍女や近衛兵たちの存在にも慣れ、ユーリは心静かな生活を送っていた。


 だから、油断していたのだ。

 自分は追われている身であると言うのに。



 後宮にやってきて以来、ユーリは太陽が眩しくなると目を覚ます生活を送っていた。

 逃亡生活中は、こんな風にゆっくりと眠った記憶が無いほど、張りつめた生活を続けていたから、今の生活は、ユーリにとって本当に贅沢なことだった。



 彼女が目を覚ますと、侍女の一人がゆっくりと「おはようございます」と声をかけてくれる。

 それから、天蓋のカーテンを四隅に分けて開き、お手水を持ってユーリのベッドの近くにやってくる。

 ユーリはベッドから降りると、顔を洗うために用意された器で顔を洗い、侍女が差し出したふわふわのタオルで顔を拭いた。

 それから、用意された服に着替えるのだが・・・いつもはタイミングを計ったかのように、エディアルドがやってくるのであるが、今日は着替えが済んで、朝食をとるために居間に入っていってもエディアルドは顔を出さず、いつもは扉の外で待機している近衛兵が二人、居間の端っこに立っていて、ユーリはなんだか落ち着かない気分を味わった。


 「今日は何かあるのですか?」

 食事が済んだ後で、侍女・・・今日は一番年嵩のレシーナが一緒にいた・・・に聞いてみると、彼女はちょっと首をかしげた。

 「ああ・・・本日は北の大陸からお客様がお見えになるのです。それで、王命によりユーリ様がこの部屋から出られないよう、近衛が追加されたのです」

 「お客様?」

 「ええ」

 北の大陸、と聞いて、ユーリはなんだか嫌な予感がした。


 続けてレシーナは、ユーリに告げたのだった。

 「北の皇帝がお見えなのです。アリアネンドの王にお会いしたいとのことで」


 目の前が、真っ白になった。


 レシーナはなおも話を続けた。


 「この度、王はユーリ様とご婚姻なさると、大陸全土に通知しております。

 この王国では、魔女との婚姻が、王の一族に繁栄をもたらすと言い伝えられておりますので、その倣いに従い、王はリレイラ様の許に出現した魔女・・・ユーリ様を、北の皇国まで探しに出られたのです。


 わが王国では魔女は繁栄をもたらす存在とされていて・・・エレイラ様の星読みにて、ユーリ様の出現は予見されていたのです。王族の誰かの元に、現れると。

 まさか、出奔なされたリレイラ様の許に出現されるとは、私たちも予想がつきませんでした。


 ご存知かとは思いますが、北の皇国では、魔女は忌み者とされておりますね。

 皇帝がやってきたのは、今回の王と魔女との結婚について、メッセア教の教義に則り、阻止するためですわ」


 レシーナが語る言葉は、どれも本当のことのようだった。


 信じられない、というような表情でレシーナを見つめていたせいだろうか、彼女はユーリの表情を見ると苦笑して、小さなため息を吐いた。

 「本来ならば、このお話はエディアルド王よりなされなければならないお話であるにも関わらず・・・私の方から申し上げましたのも、このまま何も教えられずにご婚姻されるのでは、ユーリ様があまりにも気の毒でございましたから・・・」

 申し訳なさそうにそう言って、レシーナはゆっくりと頭を垂れた。


 レシーナはこの後宮の中の侍女たちの中でも、身分の高い侍女のようだった。聞けば、エディアルドの乳母で、現在は後宮の侍女長を務めているとのこと。

 この後宮ではとても大切な存在なのだ。

 そのほか、レシーナは様々なことをユーリに話してくれた。

 エディアルドの生い立ち、アリアネンド王国のこと、エレイラとリレイラ、双子姉妹のこと。

 そうして気がついたら、お昼近くになっていた。


 ユーリは、やさしくて強いレシーナのことが好きになった。

 母親のように、懐が深くて、暖かい・・・


 結局その後は、レシーナとゆっくり話すことはできず、近衛と他の侍女たちに囲まれて昼食を取り、日が暮れるまで本を読んでいた。

 アリアネンドの歴史書だった。


 魔女が「繁栄を約束するもの」であると、レシーナは言った。

 北の大陸・・・特に皇国の考えとは真逆だ。

 どうしてそのように言われるようになったのか、ユーリは知りたいと思った。



 だけど、結婚なんてしない、と、心に固く、誓いながら。


 自分を追ってきた北の皇国皇帝の存在に怯えながらも、何故か、ここにいれば大丈夫、と、安心していた。

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