路傍の花のままで。
「ここから出して」
「断る」
「私、あなたのつ、妻になんてなる気無いの!」
「残念だが、婚儀は10日後だ」
「はあっ!?」
「久方ぶりの魔女との婚姻だからな・・・ジジィどもが騒いでるんだ。いまおとなしくさせてるところだ」
「何の話よ」
「心配しなくてもいい・・・あんまり騒ぐと、体で分からせるぞ」
俺のモノだってことをな・・・耳元で囁かれた言葉と息で、背中がゾクリ、とした。
あわてて首を横に振りまくると、(ユーリにとって)魔王のようなアリアネンドの王、エディアルドは、上機嫌でユーリの部屋の扉をくぐって外に出て行った。
こんな会話が、最初の朝から毎日繰り返されている。
ユーリがアリアネンドに着いてから、もう10日を数える。
その間、彼女は、エディアルドの言葉が本当であるということを、エレイラから聞いて(実際に宮を歩いても見たが)認めざるを得なかった。
彼女が普段過ごしている部屋は、どうやら後宮の最奥にあるらしい。
後宮でも一番広い部屋で、王の寝室とつながっており、部屋の間には、王と王妃が使用する居室が設えてある。シンプルだが日の光の十分に入る設計になっている部屋は快適で、軟禁(半監禁?)生活を余儀なくされているユーリの慰めになっていた。
たくさんの蔵書と、豊富な薬草類が(何故か)乾燥しておいてあったので、ユーリは手慰みに調薬しては、彼女の世話を命じられているらしい侍女たちに、役に立つようにと王宮侍医の元へ運ばせていた。
いつも、誰かに追われている生活をしていたユーリは、この世界に来て、やっと、落ち着いて過ごすことができたのだが・・・
引き換えに好きでもない男と結婚するのは、論外だ。
だが何故か、ユーリはどうしてもエディアルドに逆らうことができなかった。
あの深い青い瞳に見つめられると、反抗する気力が奪われてしまう。
ここで、本当に「嫌だ」といっておかないと、なし崩し的に彼と結婚する羽目になってしまう・・・!!
一人でいるときには、「絶対に結婚しない」と強く思っていても、エディアルドの前になると、言えなくなってしまう。
本当は、彼と結婚したいのか、私・・・
そう考えて、ユーリは緩く、頭を横に振った。
王の妻なんて、私に勤まるはずも無ければ、そもそもエディアルドのことを好きかどうかすら、分からないのに。
ユーリは小さく、ため息をついた。
こんな風に守られていて、安心感をおぼえてしまったためか・・・強くあらねば、と思っていたのに、今は安らかな気分でいることが多くなったからか。
エディアルドは強引でも、触れる手は優しくて・・・自分に無理強いしないと思っているせいなのか。出会ってそんなに経たないのに、師匠の身内だからなのか、安心しきってしまっている自分がいる。
それがいいことなのかどうか、ユーリには分からなかった。
どうか、このまま私のことを放っておいて。
そっとしておいて。
誰も知らない場所で、ひっそりと暮らしたい・・・
そうつぶやくユーリの台詞は、誰の耳にも届かなかった。