表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
散華  作者: 河野 美月
6/14

花のある場所。

 目を覚ますと、見知らぬ天井が見えた。

 ゆっくりと体を起こすと、さらさらと上質な布団の上掛けが捲れた。体を見下ろすと、今まで着たことの無い上等な布で出来た、クリーム色の肌着を身につけている。


 いつの間に運ばれたのだろう。

 エレイラから衝撃の事実・・・北の皇帝を、師匠が愛していた、という言葉を聞いて、目の前が真っ暗になって・・・


 ユーリがぼんやりと昨日のことを考えていると、突然扉が開いて、エディアルドがずかずかと入ってきた。

 「起きたのか」

 ユーリが瞬きをする間もなく、彼は彼女が座っているベッドの近くまでやってきた。

 彼女は咄嗟に薄い布団を肩までかけて、見えている体を隠した。

 エディアルドはそんなユーリの様子を見てニヤリ、とすると、彼女のそばに素早く近づき、頬に口づけた。

 「な、なにを」

 エディアルドに触れられた頬を押さえて、ユーリは彼を睨みつける。だが、その頬は紅く染まっていて、彼女のものなれない様子に、彼は内心喜んでいた。

 「可愛らしい声だな」

 ハッとして、ユーリは喉に手を当てた。いつもは感じる禍々しい気配が、今は感じられない。

 「気づいてなかったのか?姉上とお会いしたときに、そなたは声を出して話していたんだぞ」

 さすがだな、と、エディアルドは感心したようにつぶやいて、ユーリの喉に触れた。


 昨夜は触られるのが嫌だったのに、今はなんとも思わなかった。

 呪いのせいだったのか、それとも・・・

 以前はあんなに声を出したいと望んでいたのに、どうして、この呪いは解けたのか。


 「そなたには、魔女の中でも最高の力がある。呪術師の呪いなぞ、そう簡単に受けるはずはないのだがな・・・

 リレイラのことが、そんなにショックだったのか」

 エディアルドのその台詞に、ユーリは素直に頷いた。


 ユーリにとって、リレイラの存在は、この世界で自分に一番近しいもの、だった。

 母親のように、姉のように、先生のように、慕っていた。

 彼女がいなければ、ユーリはこの世界で、こんなにも長く生き残ることはできなかったに違いない。

 ユーリに生きるための術を教え、導いたのは、リレイラだった。

 ある意味、自分の本当の家族よりも長く、密接につながっていたのだ。


 この世界に出現してから、師匠が殺されるまで、ユーリが彼女から離れる時間はそれほどなかった。雛が親鳥を求めるように、ぴったりとくっついて離れなかったのだ。


 そんなユーリのあり方を否定せず、師匠はずっとそばにあることを許してくれた。

 ユーリが文字を覚えようと勉強するのも手伝ってくれた。

 お金のないユーリに援助してくれて、薬草の知識を惜しみもなく教え、収入を得られるようにしてくれたのも師匠、リレイラだ。

 彼女には、返しきれないたくさんの恩がある。


 「こんな、得体の知れない私に、彼女はたくさんのものを与えてくれたの・・・」

 ユーリの眦から、涙が零れ落ちた。

 エディアルドはゆっくりと、手を伸ばして彼女の涙をぬぐった。

 「リレイラ、姉上は、そなたのことが本当に、大切だったのだな」

 彼は、どこか寂しげに、そう呟いた。


 「ところで、ここはどこ?」

 涙を拭きつつ、ユーリがエディアルドにそう尋ねると、彼は、彼女にとって衝撃の事実を言った。

 「ここは私の後宮だ。今後はここで過ごしてもらう」

 「は?」

 「だから、ここは私の妻が住まう宮だ。ユーリはここにいてもらう」

 「な・・・」

 なんて、言ったの?

 「ちなみにユーリ以外の女はいない。私の唯一だからな」

 そう言って、ゆっくりユーリの頭を撫でるエディアルドを、彼女がぐーで殴ったのは、無理もない話だ。

 エディアルドの言葉は本当で、ユーリはしばらく部屋から外に出してもらうことができなかった。


 エディアルドの妻なんて、無理!!

 ユーリが声を大にして叫んだ言葉は、誰にも聞こえず、だだっ広い宮に響いていくのみで・・・



 私は、どこまで流されていくの?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ