散り行く先は。
「ああ、そろそろアリアネンドが見えるぞ」
エディアルドは暗闇の中、何故か明るく輝いて見えるほうを指差した。
月はそろそろ西の方に傾いており、未だ夜明けには時間がありそうだった。煌々と輝く建物は遠くから見ても巨大で、その明かりも松明等ではなく、魔法によるもののようだ。
ここが師匠の生まれた国であると思えば、何故か不思議な気がした。
魔女は自分自身のことを語らないため、特定の居場所を作らないし持たないものだから。
叶うなら、師匠と共に来てみたかった。
あの、豊かな表情と明るい声で、この国のことを教えて欲しかった。
だが、奇妙な出会いで、彼女はその弟と、師匠の生まれ故郷に足を踏み入れることになった。
エディアルドが指し示した方向にあったのは、アリアネンドの王宮であった。
ドラゴンがゆっくり降下している。その先には、王宮の中心でひときわ高い台形の建物があり、ドラゴンはどうやらそこに降りるらしい。
「リグイル、よし」
ドラゴンはその巨体にも関わらず丁寧に着地してくれた。ほとんど揺れを感じない着地で、彼女は知らないうちにこわばっていた体から力を抜いた。
先にドラゴンから下りたエディアルドが、彼女の方に手を伸ばした。
彼女は少し戸惑ったような表情を見せたが、おずおずと小さな手を出して、エディアルドの手に手を重ねた。
エディアルドの手にぐいっと引かれたかと思うと、彼女は彼の腕に囲われていた。
またしても不意打ちのようにエディアルドに抱きしめられ、彼女はむかっとした。彼にとって自分は何なのだろう。恋人でもないしましてや血縁関係も無い。こんな風にべたべた触られる筋合いはないのだ。
そんな彼女の気持ちが表情に表れていたのだろうか。エディアルドは彼女の顔を見るとにんまり笑い、抱きしめる腕にますます力を加えた。
死にそうです。
窒息しそうな圧力を加えられ、なんとかエディアルドの腕を逃れようともがくが、その腕の力はちっとも緩まない。
両の手を背中にまわし、バンバンと思いっきり叩くが、彼にはちっとも効果がないようだ。
そんな彼女の窮状を救ってくれたのは、聞き覚えのある、声。
「エディアルド、そんなに抱きしめていてはつぶしてしまうよ」
明るい、声。
涙が出るほど、懐かしい声、その響き。
「お師匠様・・・」
彼女の目の前で死んでしまったはずのリレイラが、嫣然と微笑んでいた。