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散華  作者: 河野 美月
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花、ひらく。

 ユーリにとって、エディアルドは師匠の弟で、俺様王様な鼻持ちならないやつだった。


 昨夜までは。



 現在の彼を形作った過去を垣間見ると、ユーリ自身の過去と重なる部分があり、そんな彼が本当に、身近な人間となったのだ。

 エディアルドとて、自分と同じ、血肉を持った人間なのだ・・・



 エディアルドの過去の話を聞いてから、ユーリは自身の母親のことを思い出すようになっていた。



 ユーリ・・・百合香の母、美香は、ある政治家の愛人だった。

 資産家で血統の良い(と自分たちで思っている)家柄のお嬢様で箱入り娘であったらしい母は、父の見た目に騙されて百合香を身ごもり、未婚のまま彼女を産んだ。

 父は百合香を認知しながらも母とは結婚することなく・・・当時父は同じ政治家を父に持つ女性と結婚していたため、現実的に母美香と結婚することはできなかった。

 母は弱い女だった。現状に耐え切れず、酒に溺れて元々弱い体を更に壊し、百合香が小学校を卒業する年に亡くなった。

 その後百合香は母方の身内・・・伯父に引き取られて、母の育った土地で暮らすこととなった。


 この地での生活は・・・ただ生きて、死に物狂いで勉強する日々だった。

 真面目に勉強して優秀な成績を修め、この地から・・・自分の父も、母の家も知ることのない人々の住む街へ、出ていきたかった。


 それが叶ったのは高校生になる時。

 伯父の家に住んでいた百合香は、中学校3年生の時に従兄弟に襲われそうになった。

 幸いなことに、その現場を義伯母に発見されたため大事には至らなかったものの、すぐに伯父の耳に入り、百合香は遠い地方の全寮制の高校に入学することができた。

 学費その他の経費は父が負担し、百合香は高校3年間の必死の勉強の甲斐あって、有名国立大学に入学することができ・・・とうとう、(父以外の)しがらみから、解放されることとなった。

 進学する大学のことも、住所等も連絡せず、百合香は大学生活を楽しんでいた。


 ・・・あの、桜吹雪の日、までは・・・



 エディアルドを心配するエレイラの様子をみると、ユーリは伯父や義伯母のことを思い出して申し訳ない気分になる。

 携帯電話の番号は教えていたが、住むところの住所等は教えておらず(住居の保証人は父の秘書が手続きしてくれた)、高校を卒業後、一度も彼らのところに戻ることはなかった。義伯母は月に1度連絡をくれたが親しく会話するほどの仲ではないし、彼女からすると罪悪感からくる衝動であっただろうから、そういう相手に気軽に話しかけられるわけはなかった。

 だけど、確かに気にはかけてくれていたのだ。

 自分がいなくなった部屋や大学のことは、きっと彼らがいろいろ動いていてくれるに違いないとユーリはぼんやり思った。


 自分のことばかりしか考えてこなかったので、他人の機微に疎い(だが自分の置かれている立場くらい想像して察することができる)ユーリは、自分に対する好感情に、自信がなかった。

 だから恋愛のスキルもものすごく、低い。

 思春期に従兄弟に襲われたことがさらに恋愛感情を自分から遠ざけてもいた。


 だけど、エディアルドから真剣に思われていることは、ユーリの中で疑いようのない事実で、

 北の皇国の皇帝から庇うと、外交上良くないのはわかっていることなのに、

 それでも一歩も引かなかったエディアルドに、ユーリは確かに、惹かれていた。

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