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散華  作者: 河野 美月
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花を乞う男。

 他のものが持ち得ない力を持つ私は、正直、他人(ひと)の心の機微には疎いらしい。

 自分の心にはもちろんのこと。

 だが、彼女のことは本当に、心から大切にしたいと願い、それこそ何の憂いもなく、自分の傍で過ごして欲しいと思っている。

 だが、それでは駄目のなのだと、姉は私に言ったのだ。





 ・・・だから、どうしてこんな状況になっちゃうのかなあ・・・

 エレイラも、何故か近衛の皆様も退出してしまい、現在二人きりの状況にいる私と王様(エディアルド)

 しかも、エディアルドの膝の上に乗せられるという羞恥プレイは未だ続行中です(涙)。

 彼らが退出した後も、何事か真剣に考えているエディアルドの膝上から脱出しようと体を動かすけど、彼の両手はガッチリと私の腰を掴んで離しません(涙)。


 はっきり言うと。

 前の世界でも、今の世界でも、正直、男性経験はありません(悲しいことに・・・)。

 容姿はそんなに悪くは無いと思います。まあでも、平凡。

 だけど、生まれた家のせいか、私に近づく男なんて、ホント、ろくでもない人ばかりでした。

 大学を卒業したら、こんなイナカまちを出て、誰も、「私」を知らないところへ行って、一人で暮らしていこうと思っていたのに。

 まさか本当に「私」を知らない世界に来るなんて、思ってもみなかったけど。

 出会った師匠や、この世界の人たちは、北の皇国の人たち以外はみな、概ね好意的で。

 向けられる悪意がこんなに壮絶なものだったのかと知ったのは、師匠が殺された日で。

 そしてまた、この王宮に来て、わけの分からないことで、悪意を向けられるのは・・・


 正直、腹が立ちます。

 だから、嫌だったんです。

 権力者の身内になるっていうのは!!!


 エディアルドのこと、好きかどうかも分からないのに。

 無理やりこういう状況に陥らされては、はっきり言ってドン引きです。

 逃げ出したくなります。

 というか、逃げても良いですか?


 「駄目だ」

 いつの間にか思考が声になっていたらしい、ユーリの「逃げ出す」発言に、エディアルドはさらにキツく彼女を抱きしめて離すまいとした。

 膝の上に乗せているユーリは本当に可愛らしい。黒い長い髪は上の方のみ軽く結われていて、後の部分はそのまま背中に流されていた。

 衣装はアリアネンドの民族衣装で、この世界でも暖かい気候にあるこの国らしく、薄絹を何枚も重ねたふんわりとした衣装は、彼女の儚いイメージにぴったりだった。

 体を動かせばさらさらとした衣擦れの音がして、それが何故か(なまめ)かしく思える。

 つまりエディアルドは、本気でユーリに溺れていた。


 「最初は・・・」

 何か話し出したエディアルドの方をユーリが向くと、彼は少し赤くなっていた。

 はて、何か飲んだっけ?

 ユーリの頭が可愛らしく傾くのを見ると、エディアルドは(何故か)ますます赤くなっていくような気がする。

 「魔女の到来を予知したエレイラに、迎えに行けといわれて、無理やり旅立たされた。

 そのことに腹が立って仕方がなかったのに。・・・ユーリが」

 そういいながら、エディアルドはユーリの頬を緩く、撫でる。

 その感触に、ユーリはぞわわ~っとしたが、嫌悪感はなかった。

 真剣に話すエディアルドから目を離せず、そうやって自分の頬を撫でる彼の動きを、ユーリは止めることができなかった。

 「あの池のほとりでないてるのを見て、どうしても涙を止めたくなった。

 傍に近寄って、ユーリの魔力と姉上の魔力の名残を感じて、探していた『魔女』だと思ったとき・・・」

 膝の上にあるユーリの体を抱きこむと、エディアルドは話を続けた。

 「どうしても、攫って、閉じ込めて、自分だけのものにしたくなった。そのままにしておいたら、ユーリは散ってしまいそうだったから」

 はあ、と、いつになく熱いため息を漏らすエディアルドの様子に、何故かユーリの心はざわついた。

 不安になってエディアルドを見上げると、彼は彼女をとても・・・優しい目で見つめていて、余計に落ち着かなくなった。

 「閉じ込めても、こうしてユーリを狙ってやってくる愚か者がいる・・・だから」


 そう言って、エディアルドは自然にユーリにその美貌の顔を近づけた。

 ユーリは自然に瞳を閉じて、エディアルドが望むように、唇をゆっくりと彼に近づける。

 ゆっくりと、唇だけ触れて。

 二人は少し、離れた。

 エディアルドは真っ赤な顔で、目を開けたユーリに言った。

 「最初から間違っていた。何も知らせず、ユーリを自分のものにしてしまえばいいと・・・そんな風に望むのは間違っていると、今は思っている。だから」


 ユーリを膝の上から下ろして、ソファに座らせたエディアルドは、今度は彼女の足元に跪いた。

 それから、ユーリの手をとり、そっと、手の甲に口付ける。

 そのしぐさに、ユーリの顔が赤く、染まっていく。

 その表情に、満足げな表情をしたエディアルドは、ゆっくりと、ユーリに告げた。


 「私の伴侶となって、ずっと、私の傍にいてくれ、ユーリ」

 そういったエディアルドの声は、少し震えていた。

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