降り注ぐ、花びら。
どうしても書きたくなってはじめてしまいました・・・
このお話は中篇ぐらいの予定です。
お楽しみいただければ幸いです。
「残酷描写」「R15」ですので、不快な方はゴエンリョください(ぺこり)
思い出すのは決まってこの情景だ。
はらはらと、音をたてて散りゆく、花びら。
私は、どうして、
あの時、振り返ってしまったのだろう・・・
ここは高い山に囲まれた狭隘な地にある、鄙びた村だ。
厳しい生活環境にあったが、動物を飼い、その乳や毛から作られるものを売って、生計を立てることが出来た。
この村に、どこから来たのか分からないが、老婆が住み始めて3年程が経つ。
人の少ない村なので、彼女のことはすぐに話題となり、村人達がこぞって彼女の元に行くと、彼女は身寄りがなく、静かな場所で暮らしたかったため、王都での生業をたたみ、この土地までやってきた、と言った。
彼女は薬師であった。
村人は彼女を歓迎し、空き家を改修して住めるようにした。
彼女には蓄えがあるようで、改修費用をきちんと支払い、村の若い夫婦に食料の調達をお願いした。
それから、さまざまな材料を用いて薬の調合をはじめ、月に一度、村人に、近くの街で開かれる市で、薬を売りに行ってもらっていた。
彼女の薬は効能があると評判で、街でなじみになった店の一角に、薬を置いて売ってもらうようになっていた。
だが、彼女は決して、村から出ることはなかった。
家から出ることも稀で、彼女の姿を見るのは、彼女の家に食料や必要な雑貨を持っていく若夫婦の妻か、薬を売りに行ってくれる村人くらいで、彼女はいつも、深くフードをかぶり、顔を晒すこともなかった。
ただ、彼女は決して外に出ないわけではない。薬草を摘みに行くため近くの山に登ったり、薪を集めるため近くの森の中に入ったりしていたが・・・それはいつも、誰の目にも触れない、夜更けのことであった。
彼女には、人前に出られない理由がある。
さらさらと、流れる水の音がする。
家から出て、初めて入る森の中、ふと視線を上げると、何かがキラキラと光っていた。
先程まで足元を見ながらゆっくりと歩いていたため、気づかなかった。
彼女はこの村に住んで3年程が経つが、ここは本当に山深く、彼女が未だ足を踏み入れていない山や森がまだたくさんある。
今入っている森もそのひとつで、村からはかなりの距離がある。彼女は食料がなくとも、山や森の恵で食べていけるので、ほんの4,5日は何も持っていなくても平気だ。そこが恵みある森や山であれば。
彼女が今住んでいる村に定住しようと決めたのは、村が恵まれた自然に囲まれていたからだ。それに王都に住んでいては手に入りにくい薬草が、ここでは自然に手に入る。薬師として、本当に探求に値する場所なのだ。
目の前にある光に誘われるように、彼女は早足で駆けていく。とても老婆とは思えない動きだ。
ふぁさり、と頭にかぶっていたフードが取れる。
フードの下にある顔は・・・若い、女の顔だった。
黒い髪は長く、少し癖があってうねっていて、腰のところまで伸びている。
象牙色の肌は、闇の中でほのかに白く浮かび上がり、くっきりとした眉と、つぶらな大きな瞳の色は、今は闇の色と同じように見えるが、陽の元で見たら明るい茶色の瞳が見れただろう。
あまり高くない鼻に、薄めの唇。
・・・彼女は日本人だった。
彼女は、気がつけばこの世界にいて、薬師の師匠と共に各地を放浪していた。
それが、5年。
彼女は25歳になっていた。
何故、この世界に来てしまったのか。
・・・桜の花びらが散る、あの道で。
誰かに呼ばれたような気がして、振り返ったら。
師匠の前に、立っていた。
続きます・・・
割とすぐにUPできそうです。