第1話
この日。ブランド魔法学園では卒業式が行われ、その日の夜には王族主催のパーティーが行われる予定になっていた。
「はぁ、気が重い……」
通常、この様なパーティーが催された場合。婚約者がいる人は大体そのお相手と共にパーティー会場に赴く……はずなのだが、リリー・グランツ公爵令嬢はそのパーティーに一人馬車へ乗り込み、その会場である王宮へと向かっていた――。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「本っ当に信じられません!」
「アンナ。そんな事を言うものではありません」
あらかじめ用意していたドレスに身を包み、準備を手伝ってくれていたメイドの言葉をリリーは咎めた。
「ですがお嬢様!」
「今に始まった事ではないでしょう?」
そう、これは今に始まった始まった話ではない。
「それは、そうですけど。でも! さすがに婚約者にドレスどころか何も送って来ないのはさすがにどうかと思います!」
「そう……ねぇ」
迎えに来られない事は既に手紙で連絡されていたので知っていた。それに、これは今までに何度もあった事なのでもはや気にもしていない。
しかし、アンナの言う通り通常こうしたパーティーがある場では婚約者がいる場合は相手の女性にドレスを送るはずなのだが、それに関する事は一言もなく、ドレスも送られてきていない。
「元々、贈り物をあまりされない方だから」
ため息と共に零れた言葉には諦めと呆れが顔を覗く。
別に期待していたという訳ではない。
ただ今日は「学園の卒業式」という特別な日で、これが終われば数日後にはリリーたちは晴れて夫婦になるというのにこれではあまりにも味気ない。
しかし、思えば「プレゼント」と評して送られて来た物は誕生日だろうがいつも花束だった。
それ自体が悪い訳ではない。
そもそもプレゼントをもらえるだけでも嬉しかったのも事実だ。
ただ、それに対して「嬉しい」とか「この色が好きだ」などの感想を送っても特に反応が来た事はなく、ましてやお茶会やパーティーの前にドレスなんて今まで一度もない。
「でも、卒業式ですよ? これが終わったらすぐにご結婚なさるのに……」
メイドであるアンナの言葉に「心配」という気持ちが伝わる。
そういえば、今まで殿下とお茶会で会話をした時、お互いの気持ちが通った時なんてあっただろうか……。
こんな状態で結婚しても上手く行くとは思えないが、そもそも貴族の結婚にお互いの気持ちはあまり関係ない。
それはリリーがよく分かっていた。
そもそも殿下と出会ったのは幼少の頃だったが、その頃から既に殿下は自分が一番上で「お前が俺の婚約者か? 婚約者ならば俺をたてろ」と言わんばかりの態度で初対面のリリーを鼻で笑ったのだ。
本音を言うと嫌だったのだが、リリーはグランツ公爵家の長女だ。
そんな個人的な理由で断る事は出来ない。
そもそも殿下の婚約者の条件には「貴族」という事以外に大きな決まりはなかった。
しかし、王族としては出来れば爵位の高い者と縁談を組んだ方が権力を利用出来ると踏んだのだろう。
そしてそれは公爵家にも言える事で……要するにこの婚約は両家の利害が一致したからこそ結ばれたものだった。
「ありがとう。アンナ、心配してくれて」
「いえ、そんな。私はただお嬢様が幸せになってくれるなら……」
リリーにはアンナのその気持ちだけで十分嬉しかった。
なにせ、この家にはリリーの事を心配してくれるのは幼少期からずっとメイドとして仕えてくれているこのアンナだけだったのだから。




