翡翠の悲願、プリモの安堵、そして...
エンディングの予感ですね。はい、きっとそうなります。
ダンジョンの外に出た俺たちは町長に挨拶したあと王都に帰った。いよいよ翡翠の夢を実現するときが来た。俺たちは王宮に出向いて王様との謁見を申し出た。
「王様、お久しぶりです。冒険者の町の問題も解決して参りました。」
「ご苦労であった。あの町は我が王国にとって経済の要、滅びるようなことがあれば国全体が傾くところであった。」
「あの町を救う過程で高額素材を落とす敵の撃破や採掘場の開放によってたくさんの資金を得ることができました。その一部は町の復興資金として町長に委ねて参りました。」
「ありがたいことだ。その資金、ぜひ有効に使って国を繁栄させてもらいたい。」
「国王様!」ここで翡翠が前に出た。
「この資金を使って設立したい組織がございます。」
「ほう、何だ、その組織とは?」
「大学でございます。上級学校のさらにその上、もはや学校ではない研究期間、研究と教育が一体となった機関でございます。大学は新技術や新しい社会のアイディアを案出し市民に還元できます。今回の悪魔ダンジョン攻略で得た資金を投入すれば、立派な大学を設立することができます。どうか大学設立の勅旨を発布していただけないでしょうか?」
「ふむ、他ならぬ翡翠殿がそこまで強く主張するなら反対する理由もないが。」
「大学には理事長と学長が必要です。いろいろ考えました結果、理事長にはぜひ王妃殿下に就任いただきたい。」
「何と、王妃が理事長とな?」
「はい、この国最初の大学です。なのでぜひロイヤルアカデミーとして発足させたいのです。」
「そういうことならぜひ本人と話し合ってくれ。」
「翡翠さん!」
王妃は小走りにやってきて翡翠の手を取った。目は推しと手を取り合うことができた悦びで輝いていた。
「お久しぶりです、王女殿下。」
「翡翠さん、冒険者の町の悪魔を一掃なさったんですって?」
「はい、仲間たちと協力してダンジョンを解放しました。これであの町にたくさんの冒険者が集まってかつての活気を取り戻すと思います。」
「翡翠さんがいてくださる限り、この国も安泰です。」
「それはわかりませんが、私の使命は国の防衛ではないのです。」
「と言いますと?」
「大学という施設を作り、この国に学問を導入したいのです。そこで王女殿下にお願いがありまして参上した次第です。」
「私にできることならなんなりと。」
「ありがとうございます。大学には理事会という運営組織が必要です。私はこの国初の大学をロイヤルアカデミーをして発足させたいのです。そのため、ぜひ王女殿下に理事長になっていただきたい。」
「私は右も左もわからない小娘ですが。」
「だとしても王女殿下です。王女殿下が理事長ならば大学はロイヤルアカデミーを名乗ることができます。幸いにも資金は潤沢に準備できました。当面は経営に行き詰まることはありません。経営に関しては王室や王都の商人ギルドから専門知識を有する人材を取り立てれば良いかと。教学方面に関しては、コンカフェ店主のプリモさんに一任しようと思っています。あの方は学長というポストを毛嫌いしているので、何か違う役職をあてがって影の学長として大学を作り上げていただきます。もちろん私も全面的に協力するつもりです。」
「了解しました、翡翠さん。そういうことでしたら私、微力ながらできるだけのお力添えいたします。」
「ありがとうございます。これで私の悲願が叶います。」
大学の敷地は王室から見晴らしの良い高台があてがわれた。講堂や研究棟の建築が進められる中、校門から近い日当たりの良い場所に天使たちの念願の教会も建立された。
「ようやく教会ができたわ。」セレスが涙ぐんだ。
「私たちの神様、来てくださるかしら?」ステラが空を見上げた。
「待ちましょう、人々を導きながら。」
王都の城門前、旅姿のエルフィーナとフェリシアがエラと語り合っている。
「あなたたち本当に帰っちゃうの?」エラは少し寂しげだ。
「はい。お金も貯まりましたし、これを使って森の村と浜辺の村の間に交易路を開きます。クイーンも自由にお酒が楽しめるようになりますしね。」
「コンカフェも寂しくなっちゃうわね。でも、がんばってね。」
「あ、エラさん、ここにいたのか。」
旅支度のファザリアがやってきた。
「あら、ファザリア、あなたも出て行くの?」
「はい。コンカフェにはお世話になりました。無骨者で接客には貢献できなかったのに、お部屋まで用意していただいて。」
「武道家としての修業の旅かしら?」
「いいえ、故郷の冒険者の町に帰ります。あそこは獣人が多く住んでいるので、冒険者を養成しようと思っています。商売に向かない子もたくさんいますから。」
「あなたなら良い師匠になれるわ。がんばってね。」
開店前のコンカフェのステージ。JK隊が不安そうな顔で話し合っている。
「エルフさんたちもいなくなったし、天使さんたちは教会に行っちゃったし、コンカフェはすっかり人が減っちゃった。」
「ステージやれるの、私たちとミナルナだけだよ。」
「キャストを増やさないとお店が回らない。」
「私たちが心配しても仕方がないよ。経営は運営に任せてステージを頑張ろう。」
「そうだね。私たち人間じゃないし。」
「早く人間になりたいか?」メロがパタパタ飛んできてとんちんかんなことを言った。
「そんなことはありません。」亜依がとりあえず返事した。
「魔物は歳をとらないですし、その日暮らしで気楽です。」霧江が心から笑顔で続けた。
「人生設計を考える必要もありませんから。」菫玲も同意した。
「私たち、JK隊として需要がある限りここでがんばります。」天華がまとめた。
場所は新設されたロイヤルアカデミーの中庭。ペンテシレイアがプリモと翡翠に別れを告げている。
「長いこと世話になった。期限が来たようなので元の世界へ帰ろう。帰る元の世界がアマゾネスの国なのか、あるいは冥府なのかはわからぬが、アキレウスも打ち負かすことができたし、思い残すことはない。楽しかったぞ、プリモ。」
「さようなら、ペンテシレイア。俺が召喚するのも君で最後になるだろう。こちらこそ世話になった。」
「ありがとうございました。アマゾネスの女王からたくさんのことを学ばせていただきました。」
「ふむ、プリモの試練はだいたいやりきったようじゃな。さて、次は...。」
悪魔ダンジョン攻略を終えて、資金も貯まってさあエンディングというところで、作者が伊豆の海に潜りに行ったので更新が遅れてしまいました。これでこの物語は最終回ですが、女神様が何やら考えていますね。このまま終わらせるのは惜しいと思っているのでしょうか?ということで、スピンオフというか、いやスピンオフともちょっと違うような。翡翠さんの試練が始まります。試練を貸す必要もない立派な巫女なのですが、女神に目を付けられてしまった以上、逃れられません。新作品のエピソードはいくつか考えてあるのですが、肝心のタイトルがまだ決まらないので、近日中に発表とだけお知らせしておきましょう。始まってしまえば、夏休みなのでわりと頻繁に更新できると思います。




