悪魔ダンジョン攻略7(ラストバトル)
いよいよラスボスとの戦いになるのでしょうか。
俺たちはギルドの受付に今日の成果を報告した。
「すごい。あと中ボス1体とラスボスを残すだけなんですね。」受付は感動して涙ぐんでいる。
「ダンジョンの深層には地獄温泉という巨大な温泉があるので、悪魔を退治したら冒険者たちの癒やしスポットになって、このダンジョンの人気もうなぎ登りになるでしょう。」
「まあ、温泉付きダンジョン、なんて甘美な響きなのでしょう。冒険者でなければ与れない快楽の泉。私、冒険者に転職したくなってきました。」
「ダイヤモンド採掘場もありましたから、悪魔を追い出したら鉱物資源もいろいろ期待できるかも知れません。」
「ああ、誰かイケメンの冒険者さんが私に誕生石の指輪をプレゼントしてくれる日がくるのでしょうか。」
ダメだ。完全に夢見過ぎな乙女だ。
昨日の今日だが、俺たちは町の変化を確かめるために市場へ赴いた。昨日よりも心なしか人出が多い。屋台に並ぶ品物の種類も増えている。町長がしっかりと仕事をしてくれたようだ。モフ子の両親の屋台に行ってみた。
「やあ、プリモさん、町長から聞きました。復興資金を寄付してくれたどうですね。各屋台に援助金の支給がありました。本当に助かりました。」
モフ子の父親の話を耳にしてたくさんの店主たちが集まってきた。
「プリモさん、ありがとう!」
「がんばって町の人々に食を届けるよ!」
それから俺たちは武器屋と防具屋を覗いた。ぽつりぽつりと冒険者が戻っているようで、装備を買い求める客がいた。
「鍛冶屋へ行こう。明日に備えて弾薬を注文しないと。」エミリーが言った。
鍛冶屋へ行くと店主が汗だくで金床に向かってハンマーを振り下ろしていた。この店主、人間なのだがビジュアルがドワーフ寄りだ。
「忙しそうだな。」
「あ、プリモさん。こないだ悪魔武器をどっさり仕入れさせてもらったので、良質な武器をたくさん作れます。1年はこの材料で商売ができそうです。」
「おじちゃん、ちょっと良いかな?」ミナルナが店主に声をかけた。
「これからエミリーさんと一緒にたくさん弾薬を注文するんだけど、それ以外に作ってほしいものがあるの。」
ミナルナは店のカウンターに手裏剣を並べた。
「これ、手裏剣という投擲武器なんだけど、同じのたくさん作ってくれない?」
「おう、これは面白い形をしているな。良いだろう。明日までたんまり作っておいてやるよ。実は昨日から助手を雇い入れたんだ。生産力が爆上がりだ。」
「さて、温泉にも入ったし、資金は潤沢だし、あとは美味い酒と料理で今晩を締めよう!」
「市場にたくさん食材が売られていたから、今夜も期待できそうね。」メートヒェンがよだれを垂らした。
「明日の攻略成功を祈願して、乾杯!」
「なんか私たちだけ衣装が特殊ね。」
「実用を追求したら、この新素材のガードスーツになった。」
「裸の上にアイスアンダーウェア、その上に天使のチュニック、そしてこのガードスーツ、各種対策は万全ね。」
ファイアーブレスの効果が90%減、属性魔法の効果も90%減、物理攻撃が半減、これだけガチガチに対策をしていれば、そう簡単に倒れることはない。事実、エルフの2人は作戦中一度も倒れなかった。ただ、あした出会う未知の敵はどんな攻撃を繰り出してくるのだろう。全く対策していない未知の攻撃なら、この装備でも大きな被害が出てしまうかも知れない。俺はその心配を飲み込むようにワインを流し込んだ。
ラストダンジョンであと残すのは、中ボス1体とラスボス、そしてダイヤモンド採掘場を守る高額モンスターたち。まずは中ボスだ。
「ベルゼブブ、ハエの王です。」セレスが解説した。
豪華な部屋だが悪臭が充満して、ハエの羽音がブンブン五月蠅い。「うるさい」の文字に蠅が入っているではないか。
「おい、てめえは汚くて臭えんだよ!」
言うが早いかエミリーのガトリングガンが火を吹いた。しかしハエの数が多すぎるうえに、独特の動きで飛び回るのであまり当たらない。
「エラ、メロ、どう見てもあいつの精気は毒だ。吸うんじゃないぞ!」
「あんな汚いもん、吸えるわけない。」
エラのアイスブレス、メロのファイアーブレスがたくさんのハエを巻き込んで落とした。良いぞ。ブレスは良く効く。そうこうするうちに前衛にたくさんのハエがたかり、独特の吸精スキルで活力を奪う。いかん、これはヒールで治せる損傷ではない。
「セレス、ステラ、天使の光魔法で穢れを浄化してくれ!」
2人の天使の特殊スキル「裁きの光」が発動し、前衛にたかっていたハエが蒸発した。
「良し、良いぞ。光魔法持ちはできるだけ巻き込むように光魔法で攻撃してくれ。シューターと前衛はベルゼブブ本体に攻撃を!」
俺は電撃棒から広域の稲妻を落としながら指示した。
「くノ一忍法、胡蝶の舞!」
ミナとルナは大量の手裏剣を使う新スキル「胡蝶の舞」を発動した。これによってハエはほとんど消えた。
「今だ、ベルゼブブ本体を削り切れ!」
俺の号令でシューターと前衛の激しい攻撃がベルゼブブの体力を奪い、ハエの皇帝は沈んだ。
「良し、残るはラスボスだけだ。引き締まっていこう!」
ラスボスの部屋の扉を開けた。そこにはたくさんの女悪魔に傅かれた魔王ルシファーがいた。
「ルシファー、いよいよ年貢の納め時だ!」
「ついにここまで来ちゃったのか。仕方がない、降参だ。」
「え?」
「降参だと言った。ぼくは弱いのでね、戦って勝てる気がしない。配下のベルゼブブとアスタロトよりもずっと弱い。肉弾戦ならアークデーモンにも負けるだろう。ぼくの劣化版のデーモンロードにだって負けるかも知れない。そんなぼくが君たちと戦うなんて自殺行為だ。降参して退却するよ。負けだ負け!このダンジョンは好きにするが良い。」
「そんな弱いおまえがなぜ魔王として君臨できたのだ?」
「簡単なことさ。ぼくはみんなに愛されていた。それだけのことだ。君だって弱いのにリーダーをやっているじゃないか。」
「ここを出てどこへ行くつもりだ?」
「人間が近寄れない場所に籠もって静かに暮らすよ。」
「そこでまた人間に迷惑をかけるつもりか?」
「心外だな。ぼくは人間に迷惑なんてかけるつもりはないよ。このダンジョンだって、人間に害をもたらすかも知れないモンスターを駆逐して住んでいたんだ。ぼくたちがここから町に出て人間に迷惑をかけたことがあったかい?ぼくらはここから一歩も外に出なかった。」
「だが冒険者を不死者にして使役していただろう?」
「あれは仕方がない。攻撃されれば反撃しないわけにはいかない。そして、今後の反撃の手駒として復活させて第1階層に放っておいた。」
「このまま見逃すと思っているのか?」
「そうせざるを得ないね。もう転移は始まっている。アデュー!」
ルシファーは消えた。メロは憤ってる。かつて泥棒までして貢いだホストの源氏名と同じルシファーが超絶イケメンで、何も絡めずに去ってしまったからだ。
「仕方がないな。ダイヤモンド採掘場で番人を倒して持ち帰られるだけダイヤモンドを持ち帰ることにしよう。」
俺たちはゴールド系のモンスターとジェムドラゴンを倒し、翡翠の目標額を大きく超える2億ゴールドを持ち帰ったのである。
まさかのルシファー撤退でした。弱いリーダー、たしかにプリモにも通じるところはありますが、「ぼくはみんなに愛されているんだ」という自信はプリモにはなさそうですね。愛を知らないからこそ誠実で補完しようとしていたのがプリモかもしれません。




