作品は採用、そして「民草の願い」へ
3人は今後のことを話し合います。生活の安定、異世界ではまずこれが大事。
翌朝、俺たちは出版社へ顔を出した.果たして書籍化してもらえるのか?出版社が引き受けない場合、市場で売り続ければそれでもそこそこの売り上げになって、生活費ぐらいは捻出できる。
「企画が通らなかったらどうするの?」エラが腕を組みながら首をかしげて尋ねてきた。
「そのときは市場の露店で売るしかない。」
「やだぁ、なんかかっこ悪い。」
「かっこ悪いと言っても金を稼がなければ飯が食えない。」
「私が養ってあげようか?」
「いや...なんか厄介なことになりそうだから遠慮する。」
「え~、私ってそんなに信用ないの?創業400年、信頼の実績なのに。」
「自分を煎餅屋みたいに言うな。」
「お店を出してくれたら絶対に儲かるよ。煎餅屋じゃないよ。コンカフェだよ。」
「水商売じゃないか。危険な香りしかしねえわ。」
「失礼ね。100年前に成功した実績があるのに。」
「私は参加しませんからね。」メフィストが悪魔の予知能力で危機を回避した。
出版社に到着した。編集室に通され、編集担当者と編集長が待っていた。
「おはようございます。プリモ様。お待ちしておりました。」編集長がもみ手をして出迎えた。
「おはようございます、編集長。で、会議の結果は?」
「もちろん3作とも採用です。あのクオリテイなら十分に採算がとれます。」
「そうですか。良かった。」
「ですが、多少のリライトが必要な箇所もありますので、弊社の編集部員と相談したうえで完成版を作成して頂きたい。」
「了解しました。ではしばらく王都に滞在してこちらの会社に通わせて頂きます。」
「そうして頂ければとても助かります。宿は当方で手配しますので、どうかご心配なく。」
無事に出版が決まった。宿も手配してもらえるので、しばらく食事と寝る場所には困らない。俺は会社に通ってリライトの仕事に没頭しなければならないが、メフィストとエラはどうしよう?このまま放置してると何か問題を起こさないか?俺は心配になった。安全に小金を稼がせる手立てはないだろうか?メフィストは今日で3日目だ。あと4日で消える。有効活用しなければ。とりあえず安全で平穏に活動させるため相互監視させることにしよう。俺はメフィストを廊下に呼び出した。
「俺が会社でリライトの仕事をしている間、エラと活動してもらうことになるが、あいつはサキュバスであの性格だ。何か不祥事を起こさないようしっかり監視してくれ。何かやらかしそうになったら、悪魔の力を使ってでも必ず止めろ。わかったな。」
「了解しました、旦那。お任せを。」メフィストは恭しく一礼した。
「よし、では戻ってエラをここに寄こせ。話がある。」
ほどなくエラが来た。
「エラよ、俺が会社で仕事をしている間、メフィストと活動してもらう。だがあいつは悪魔だ。何をやらかすかわからない。そこでエラ、おまえは理性も分別もある信頼に足るサキュバスだ。たしか、創業400年の実績だったな。そんなおまえを見込んで頼みがある.活動中にあいつが何かやらかしそうになったら全力で止めろ。おまえにはまだ謎のスキルがあると思うが、悪魔相手だ、出し惜しみせずに全力で止めろ。わかったな。」
「わかったわ。悪魔の悪戯を傍観していちゃ信頼が崩れて、計画中のコンカフェにも影響が出るからね。任せて♡」
よし、これで良い。俺は編集部に戻り、編集長と作業の打ち合わせを始めた。おそらく2日ぐらいかかりそうだという。
「それでは今すぐ初めて頂けますか?」
「いや、少し準備があるので、1時間、いや2時間後に戻ってくる。それまで待っていてくれ。」
「了解しました。」
俺はメフィストとエラを伴って出版社を出て王宮に向かった。冒険者ギルドでも良かったのだが、そこだとメフィストに拒否される怖れがある。バイトをしてカネを稼いで来いという命令は、悪魔の誇りが拒むだろう。なので、王が勅令で設置した「民草の願い」という部署を訪れた。ここはよろず困りごと相談所のようなもので、国民が困っていることを相談に来る部署だ。困りごとの中からメフィストとエラが解決できそうなものを選び、善意の協力者として助けを申し出る。相談事の難易度によっては、上手くいけば報酬、いや報奨金がもらえるかも知れない。もらえなくても名声は稼げる。今後の活動にとって名声は大切だ。
「こんにちは、作家としてもうすぐデビューするプリモと申します。これから2日間、私は出版社で作業をしなければならないのですが、その間、私の2人の助手が国のために何か貢献できないかと思って連れて参りました。どのような困りごとがあるのか、見せて頂けるでしょうか?」
「それは実にありがたい。案件が多すぎて猫の手も借りたいほどなのです。どうぞご覧ください。」事務官は大判のノートを広げて渡した。
種類も難易度もさまざまなものがたくさん書き連ねてあった。橋や道路の修理といった、役所の土木部が対応すべきものもずいぶんあったが、それは追々政府機構によって解決されるだろう。野獣被害もそこそこあった。小物はメフィストもエラもいやがるだろう。もっと2人のやる気を引き出せそうなのは...あった!空飛ぶ火付け強盗!夜になると空から飛来し、金品を奪い、逃走時に火を放って火事を起こす。こいつは手強そうだ。だがエラはたしか飛翔できる。メフィストも、まあ高位悪魔なのでなんとかなるだろう。よし、これに決めた。
「この空飛ぶ火付け強盗、凶悪で手強そうですが、うちの有能な助手なら必ずや捕らえてみせましょう。」
「おお、引き受けて頂けますか。騎士団を派遣しても、空に逃げられ、火を放たれ、負傷者が出るばかりで困っていたのです。よろしくお願いします。」
俺は依頼書を手にして部署を出た。
「というわけだ。仕事は夜になると思うが、それまで別れて聞き込みをして夜に備えてくれ。俺は出版社に戻る。」
主人公が作家の地味な作業で缶詰になっている間、助手の2人は「民草の願い」を解決することに。報奨金は出るのかしら。