悪魔ダンジョン攻略3
町の復興が第一。第2層までの安全を確保したら、まず復興対策だ。
ダンジョンを出た俺たちはギルドの受付へ赴き状況を伝えた。
「第2階層までの敵は殲滅した。第1階層にいた元冒険者たちは塵となった。武器や装備品には手を付けていない。第2階層には武器庫と財宝室があったので、すべて回収してきた。補給しなければならないので、今日の攻略はここまでだ。悪魔がいなくなれば通常の魔物が復活するかも知れない。ギルドの連絡網を使って、第2階層までの安全を確保したことを広めてくれ。冒険者が戻ってくるだろう。第1階層の元冒険者の装備品は、戻ってくる冒険者へのプレゼントだ。早い者勝ちだと伝えてくれ。」
「了解しました。本当にありがとうございました。」
「おっと、お礼を言うのはまだ早いぞ。最後に控える悪魔の親玉を潰すまでは気が抜けない。それを楽しみに待っていてくれ。」
次に俺たちが向かったのは鍛冶屋だ。かつてエミリーがガトリングガンを作らせた名工だ。
「親父、悪魔の武器をどっさり持ってきた。」
「もう客は来ないから、店を畳もうと思っていたんだが、どれ見せてみろ。」
「どうだ、この材料は?」
「うーむ、なかなか良い鋼だな。打ち直せば良い武器や防具を作れそうだ。」
「いくつか格安で譲ってやろう。」
「そうか、ならば買い取ろう。材料がなくて困っていたんだ。」
全部は多すぎると言うので半分だけ渡して5000ゴールドを手に入れた。復興が目的なので儲けは度外視だ。
次に俺たちが向かったのは町役場だ。町長に会って復興資金を渡したい。財宝室から回収した金貨――この国の通貨ではない――を町長の机に積み上げて、町の衰退による不況に苦しんでいる市場の商人たちを援助してくれと頼んだ。町に食材を提供している市場が困窮して食材が店頭に並ばなくなると、飲食業だけではなく一般家庭の食糧事情にも深刻な影響を与えることになる。市場に援助が入れば、屋台を開いているモフ子の両親も喜ぶだろう。
「ありがとうございます。復興のために有意義に使います。」町長は目に涙を溜めて感謝した。
次は薬屋だ。攻撃力と防御力の強化剤やポーションやMP回復薬を買い足しておく。明日の攻略が長引くかも知れないからだ。薬屋も冒険者の流出で顧客が減り困っていたとろろだったので、俺たちの爆買いを心から歓迎した。
明日の行楽の準備に余念のない俺たちの前に甘やかし女神が現れた。
「きゃっ!急に出ないでくらさい。あなたが出ると変な影響を受けて口調が酔っ払いのようになってしまうのれす。」ステラは影響を受けていた。
「ほっほっほ、かわいい子リスちゃんたち、元気でやっておりますか?マシュマロ欲しいですか?抱っこは足りてますか?」
「なんだ、この女は?」ペンテシレイアがあからさまな敵意をもって尋ねた。
「いちおう女神なのだが、かかずらわらないほうが良いぞ。」俺は忠告した。
「あら、新しい子リスちゃん?何か望みはおありかしら?」
「望みか?アキレウスとの再戦だ。神々の加護というチートを使って私を破り、そのあとで私を辱めた。許しがたい!」
「お安いご用だわ。さあ子リスちゃん、思いのままに戦いなさい。」
甘やかしの女神が投げキッスをすると、ペンテシレイアの前に仇敵のアキレウスが出現した。
「さあ、尋常に勝負せよ!ここにはおまえに加護を与える神々はおらんぞ!」
ペンテシレイアはこの世界の装備で攻撃力も防御力も増大しているのに対して、アキレウスは古代ギリシャの装備なので、勝負はあっという間に付いた。地に倒れたアキレウスに剣を突きつけたペンテシレイアは満足したように語った。
「さあ、このまま元の世界に帰るが良い。故郷ではおまえの妻がたくさんの男たちに...ふっふっふ、いや何も言うまい。自分の目で確認するのだな。女神よ!こやつを元の世界へ戻せ!」
「あらあら、満足したのかしら?では戦いで疲れたこの殿方にはたくさんマシュマロをあげますね。はい、あーん!」
アキレウスは口いっぱいにマシュマロを頬張りながら消えて行った。
「すまなかったな。私怨をこの世界に持ち込んでしまった。」ペンテシレイアは気恥ずかしそうに頭を下げた。
「良いさ。気が晴れた状態で明日の戦いに臨もう。」
「良かったわね、子リスちゃん!」甘やかしの女神は空気を読まずにまだそこにいる。
「ねえ女神ちゃま。うちらに変な影響を及ぼすからもう帰ってくれまちぇんか?」
セレスはステラとは違う方向でこの女神の影響を受けるようだ。
「女神よ、ペンテシレイアの願いを聞き入れてくれてありがとう。また何かあったらよろしくたのむ。ナンマイダーメン!」
とってつけたような俺の感謝の言葉を聞くと、甘やかしの女神は笑顔とともに去って行った。
俺はペンテシレイアを伴って、冒険者の町の高級服飾店トレ・シェールにやってきた。王都のブティックと違って、ここは一点もののの高級品しか扱っていない。出費は惜しいが、ずっと甲冑姿というわけにもいかないので衣服を見繕ってやることにした。
「お客様、こちらの女王様のようなお方に着せるドレスですか?ならとびっきりのがありますよ。さあ、お試着を!」
「まあ、よく似合いますこと。まさにクイーンの威厳と美を体現したお姿です。」
宿屋での晩飯はペンテシレイアの歓迎会になった。
ペンテシレイアの私怨を、あまり手を借りたくなかった甘やかしの女神で晴らしたので、明日は気持ちよく悪魔ダンジョンを攻略できるでしょう。ぼくもグラッパを飲んで気持ちよく眠れそうです。




