悪魔ダンジョン攻略2
ペンテシレイア、輝く黄金の鎧を身につけて敵をなぎ払うアマゾネスクイーン。強いです。
ダンジョンの回廊で戦闘が始まった。前衛のペンテシレイアは鉄壁で、攻撃と防御の強化剤の効果もあって、敵陣が瓦礫のように崩れて行く。その後ろに控えるJK隊は属性魔法と物理攻撃でペンテシレイアが撃ち漏らした敵にとどめを刺す。
さらにその後ろのシューター部隊、エミリーとミナルナ、そしてエルフたちは、左右の小部屋から襲いかかる敵を殲滅している。
敵のレベルは進むにつれて高くなって行くが、エラとメロのヴァイタルアブソーブが効いているのと、全員に配付した強化剤のおかげで、紙くずのように蹂躙されて行く。後衛にまで到達できる敵はほとんどなかった。モフ子と俺は仲間のHPを管理し、同じくヒール係を務めるファザリアが直衛に入っていた。偶然ここまでたどり着いた敵がいたとしても、ファザリナの鉄の爪の餌食になる。
翡翠さんは霊力を温存するために分身は出さず、守護式神と2体の式神を召喚して回廊の地理を調査し、あたりのマッピングに従事している。敵は軍隊の組織で戦いを挑んでいるが、俺たちの部隊も十分な準備の上に絶妙の連携で迎え撃っているので、安定して敵を殲滅し続けていた。
「ピーピー、オッキイノガクル。」ピーピーが付いたミミちゃん警報が出た。
「アークデーモンです。気をつけて!」セレスが叫ぶ。
メートヒェンを始めとする魔法部隊が幾重にも土壁を展開してアークデーモンの前進を阻む。空を舞うサキュバス隊はヴァイタルアブソーブによる弱体化、エンジェル隊は光魔法の攻撃、JK隊もそれぞれの属性魔法を試みた。エミリーは土壁の隙間からガトリングガンで数百発の弾丸をアークデーモンに撃ち込んだ。精気を満タンまで貯め込んだエラとメロは、それぞれアイスブレスとファイアーブレスをアークデーモンに放ち、周辺の部下たちは全滅した。アークデーモンのHPも残り30%になっただろう。
「良し、土壁を解除して突撃だ!」
俺の指示でペンテシレイアとJK隊はアークデーモンに斬りかかった。弱っているアークデーモンの攻撃はこちらにはほとんど当たらず、たまに当たってもモフ子などのヒールがたちまちに回復する。5分ほどの戦闘でアークデーモンは倒れた。
「ここからしばらくは敵が確認されません。」
式神の報告を受けた翡翠さんがみんなに伝える。この階層の地図は守護式神の月煌が記録し、いつでもミミちゃんが映像として映し出せるようになった。俺たちは素材を回収しながら、下に降りる階段がある部屋まで進んだ。第2階層のダンジョンは色が黄色みを帯びていた。
「ここでしばらくお待ちください。先にマッピングを済ませます。」
翡翠さんの式神たちが散開した。俺たちは陣を作り、飲み物や食べ物を補給して体力やMPを満タンにした。
「翡翠さん、霊力はMPとは違うのか?」
「はい、霊力はMP回復剤では回復しません。自然に少しずつ回復するものです。式神を3体召喚する程度なら30分でほぼ満タンに戻ります。」
式神たちが戻ってきた。翡翠さんは霊的交信で情報を引き出すと式神たちを収束させた。
「マッピングが完了しました。月煌からミミちゃんに記録を渡すので映像で確認してください。」
下の階層へ続く階段がある部屋へは、右の回廊と左の回廊のどちらを通っても到達できる。右の回廊を通れば途中に武器庫、左の回廊を通れば途中に財宝室がある。どちらの回廊を進んでも、結局はこの階層の敵全体と会敵することになるだろう。敵は軍隊のように交信手段を持っている。だとすれば、武器庫と財宝室、どちらも制圧して回収できるものは回収しておくべきだろう。この遠征の最初の目的は翡翠さんと天使たちの資金獲得だった。
「良し、では右に進んで武器庫を制圧しよう。それによって敵の攻撃力を削ぐことができる。」
「出ました。攻撃します。」エルフたちが敵に矢を射かける。
「前衛を差し置いて先走るな!」ペンテシレイアとJK隊が飛び出して敵を切り伏せた。
「武器庫はこの先です。番人がいます。」
翡翠さんが指差す方向に2体のグレーターデーモンが部屋の扉を守っていた。色が違う。おそらく戦いで連携してくる。
「ヴァイタルアブソーブ!」「あぶそ~ぶ!」エラとメロが先行して精気を吸った。
「待ってられないんだよ!」エミリーのガトリングガンが火を吹いた。
「それそれそれそれ!」ミナルナとエルフの銃弾と矢がそれに続いた。
「ふっふっふ、私は雪女、なんちて。」エラはアイスブレスを吐いた。
慎重に戦いを作り上げようと思っていたが、こちらの手数がこれだけ多いと、敵はただ蹂躙されるだけで何も手出しができず、あっという間に沈んでしまった。武器庫の扉を開けると、人間には使いこなせそうもない大小の武器が並んでいた。売れるかどうかわからないが、溶かして素材にはできるだろうから、すべてアイテムボックスに回収した。
「もう廊下に敵はほとんど残っていないでしょうから、今度は財宝室を制圧しましょう。」翡翠は式神を飛ばした。
「モフ子、何を書いているんだい?」
モフ子は戦いが終わるたびにノートに詳細な記録を残している。
「戦いの記録よ。私、お兄ちゃんみたいな物語作家になりたいの。この町は私の故郷。故郷の町が苦境に陥っているとき、お兄ちゃんたちと一緒にその原因となったダンジョンの悪魔たちを制圧する。この町の伝説になるわ。その物語を私が書くの。」
俺は感動した。転生直後に空腹で倒れそうな俺に黄色い果実を取ってきてくれた小さな女の子が、今は将来のことを考えて着実に準備している。子どもの成長は尊い。
「財宝室に扉の番人はいません。しかし、財宝室内に2体の悪魔がいます。今までの悪魔とはかなり様子が違うようです。」
式神の報告を受け取った翡翠がみんなに告げた。月煌の記憶を受け取ったミミちゃんが財宝室内の様子を映し出す。
「気をつけてください。これはアグラトとリリスです。危険な悪魔です。」セレスが警告した。
「強力な魅了スキルを持っている。」ステラが補足した。
「私には効かないな。」ペンテシレイアが不敵に笑った。
「私たちにもね。ていうか女には効かないんじゃない?」エラがパタパタ飛び回りながら言った。
「切り伏せてやりますよ。」JK隊が得物を振るった。
「よし、俺は念のため部屋の外で待つので、剣を持っているメンバーだけで制圧してきてくれ。」
狭い室内の戦いなので、同士討ちにならないようシューターは控えさせた。
戦いは一瞬で終わった。アグラトとリリスは呪文を唱える間もなく首を切り落とされた。
「プリモ~、私もダガーを持っているから参加したけど、みんなが早すぎて一太刀も浴びせられなかったよ~。」
メロが残念そうな顔をしながら重そうな首飾りを付けて部屋から出てきた。
「それ、欲しいならあとであげるから、今は戦いの邪魔になるのでアイテムボックスにしまっておけ。良いな?」
財宝をすべて回収したので、残るは下の階へ続く階段がある部屋だけだ。翡翠さんによると、ここには色違いのアークデーモンが5体いるらしい。突っ込めば必ずこちらにも被害が出る。
「提案があります。」翡翠さんが手を挙げた。
「これから分身3体を出してあの部屋ごと液体窒素で充満させ、敵をすべて凍らせて窒息させます。それによって下の階層に進むことはできるようになりますが、私の霊力を大量に使うので、それ以上の探索は危険です。なので、今日はここまでにして、残りの階層は明日以降にしましょう。ギルドに第2階層まで安全を確保したことを伝えれば、町の復興も早まります。」
「うん、回収した素材も早く職人に引き渡したほうが良いだろう。では翡翠さん、頼む。」
翡翠は3体の分身を召喚し、階段のある部屋の外に控えた。分身たちはそれぞれに御幣を取りだし術を唱え始めた。
「七の原子、疾く集まりて結びつき、虚ろなる冷気、光を閉ざし、息を奪う。幽かなる凍り、死の吐息、此処に顕現せよ!急々如律令!」
「終わりました。このまま扉を開けると危険です。離れた位置から扉に銃弾をいくつか撃ち込んで外部と気圧を調整してください。」
換気が済んだあとで部屋に入ると、氷漬けになったアークデーモンが5体固まっていた。死亡を確認してから火魔法やファイアーブレスで氷を溶かし、貴重な素材を回収した。部屋の中央に下へ降りる階段を確認してから俺たちはダンジョンを出た。
翡翠さんの分身液体窒素攻撃、「窒素で急々如律令」はチート過ぎる作戦ですが、相手が悪魔なので問題ないのです。




