冒険者の町が潰れてしまいそう
冒険者の町のダンジョンが大変なことになっています。この町はダンジョン経済で回っているので死活問題です。どうしましょう?
冒険者の町のギルドは活気があるはずなのだが、なぜか閑散としていた。冒険者の数が異様に少ない。何かトラブルがあったのだろうか?
「あ、プリモ様、魔王城攻略以来ですね。お久しぶりです。」
ギルドの受付は思い詰めたような顔をしている。閑散としたギルドと関係があるのだろう。
「冒険者の姿が見えないが、何かあったのか?」
「はい...このままではこの町が消滅するかも知れません。」
「それは穏やかじゃないな。何があった?」
「この町は冒険者の町と呼ばれるように、冒険者がダンジョンを攻略することで成り立っている町です。帰還した冒険者が素材を売り、町の職人がそれを加工して冒険者に売る。そのサイクルが町の経済を回していて、そこに宿屋や酒場が加わり、さらにさまざまな商店や屋台が客の需要に応える。その仕組みが壊れてしまったのです。」
「どういうことだ?詳しく話せ。」
「町の名物で活力の元であるダンジョンが悪魔たちに占領されてしまいました。悪魔たちはそれぞれの個体が強力な上に軍隊のような組織力を持っていて、連携して戦います。さらに、悪魔の中にネクロマンシーに通じたものがいるようで、ダンジョンで倒れた冒険者たちを復活させて軍勢に加えているのです。通常、ネクロマンシーによって復活させられた死体はゾンビとなります。ゾンビは知性を失い、動きも緩慢です。ところが悪魔のネクロマンサーは、能力を強化して死体を復活させるのです。冒険者は通常の人間よりもはるかに強い。それをさらに強化して自分たちの軍勢に加えられたら、こちらに勝ち目はありません。多くの冒険者がこの町を離れました。この町はもうお終いです。」
「わかった。とりあえず様子を見てくる。もうダンジョンに入ろうなんて冒険者はいないだろうが、これ以上の犠牲を出すわけにはいかない。俺たちが何とかするまでダンジョンには誰も入れないでくれ。」
「了解しました。どうぞお気を付けて。」
「悪魔と言いました、あの受付?」セレスが訊いてきた。
「ああ、悪魔にダンジョンが占領されたそうだ。」
「悪魔といえば私たち天使の仇敵、見過ごすわけには参りません。」ステラも厳しい表情でそう続けた。
「ともかく宿屋を確保してからみんなで相談しよう。」
宿屋はひっそりとしていた。冒険者が泊まる宿なので、冒険者が町を引き払えばもう宿泊客はいなくなる。フロントの女も悲しげに頭をうなだれていた。
「やあ、久しぶりだな。また大勢で泊まりたい。部屋はあるな?」
「こんにちは、プリモさん。全室がら空きですよ。どうか泊まってやってください。このままでは食べるパンにも事欠きます。」
「これは前金だ。これで材料を仕入れて美味い晩飯を作ってくれ。」
これは困ったことになった。イナンナは明日期限を迎える。悪魔たちとの決戦という状況で一気に戦力不足になる。ともかく少数で斥候に出かけてダンジョンの状況を調査しないと。誰を連れて行くか?悪魔は飛べる奴らが多いから、天使2人とサキュバス2人は必須だな。おっと、イナンナもその気になれば翼を出せる。まだ本格的な戦闘にはならないので、そんなもので良いか?鉄砲なんて撃ったら銃声を聞きつけてわらわら湧いてくるからな。俺と天使2人でリヴァイヴ要員は十分。発見されて攻撃され、劣勢になって退却するとして、土壁が必要か...
「プリモさん、私が同行します。」
翡翠が手を挙げた。
「私は全属性魔法が使えますので退却時の土壁も展開できますし、分身を放って殿を務めさせることもできます。私を連れて行けばもっとも安全に斥候の任務を果たせるでしょう。」
「わかった。恩に着る。」
こうして、俺、セレス、ステラ、エラ、メロ、イナンナ、翡翠の7名で威力偵察に出ることになった。
「ここか。さすがに禍々しい気を放っておる。」
「このダンジョン、俺は入ったことがないんだよ。魔王城攻略の前に金欠になったとき、他の仲間たちは金策のためここでクエストをこなしたんだが、俺は宿屋で原稿を書いていた。」
「さて、鬼が出るか蛇が出るか...」イナンナはあっさりと扉を開けて中へ進んだ。
「出ました。アンデッドの元冒険者たちです。できるかどうかわからないけど、浄化を試みます。」
セレスとステラは光魔法の特殊スキル「天使の裁き」を試みた。まばゆい光がダンジョンを包み、アンデッドたちの前衛から中衛までが塵と化した。そしてここで翡翠が宙に浮いた。凜とした声で術を唱える。
「四七の原子、疾く集まりて降り注げ!急々如律令!」
後方に控える広範囲の敵まですべて塵となって消えた。翡翠の陰陽術、久しぶりに見たが大変な威力だ。アンデッドには銀、転生前の世界で翡翠が散々用いた術だ。
「死者の群れは、所詮死者なので滅することは容易です。戦うと被害が出るかも知れないので、すべて塵にしてしまいました。」
「よし、慎重に進もう。」
しばらく進むと変わった場所に出た。ここは元々この国最大のダンジョンで、階層がいくつも続き、迷路のような回廊が冒険者たちを危険な罠に誘い込む構造をしている。脱出するには翡翠の式神の偵察が必要になるだろう。岩山の洞窟から人口の回廊に風景が変わった。
「そろそろ悪魔の出番でしょうか?」
セレスとステラが剣を握りしめる。白兵戦も辞さない覚悟のようだ。俺は彼女たちに攻撃力と防衛力の強化剤を渡した。
「ヴァイタルアブソーブ!」「あぶそ~ぶ!」
エラとメロが精気を吸って敵のレベルを下げた。イナンナと天使たちは難なく敵を殲滅して行く。戦闘から逃れて俺を襲おうとする敵は翡翠さんが切り伏せた。
「このあたりはまだ雑魚ですね。」ステラが敵の死骸を確認して言った。
軍隊式の戦闘を仕掛けてくるという話しだったが、おかしい、単純すぎる。
「クルゾ、シュルイガチガウノガフクスウ!」ピーピーは付かなかったがミミちゃん警報が出た。
「グレーターデーモンです。ジョブが違うのが3体。タンクとアタッカーとマジシャンです。」
悪魔学は天使の必須教養なので、セレスが説明してくれた。白兵戦を挑むのは無謀であるように思われた。
「距離を取れ!まともにぶつかると危険だ。エラとメロはできるだけ精気を吸ってから炎と氷結のブレスで攻撃してくれ。その他のメンバーは後ろに下がって接触を避けろ。翡翠さんは土壁でやつらの前進を妨げてくれ。それ以外は光魔法で攻撃!」
時間はかかったが、こちらに被害を出すことなく敵を殲滅した。俺は素材を集めながら、ここいらで威力偵察を切り上げて戻るべきだと思った。
「きょうはここまでにしよう。次回は全員でマッピングしながら攻略する。きょうは元冒険者のアンデッドを一掃できただけでも大成功だ。」
翡翠さんを連れてきて良かった。翡翠さんの久しぶりの「急々如律令!」がカタルシスを呼びます。次回は全メンバーで攻略です。長くなりそうですね。




