ドラゴニック・ヘブン攻略1
嘘くさいアメリカン・ウェイ・オブ・ライフのせいで財政危機に陥ったプリモたちは、起死回生をかけて危険なエリアを目指します。
「これはこれはプリモ様、きょうは大所帯ですね。ないか大きなクエストをお考えですか?」ギルドの受付は目を丸くして大パーティーの俺たちを迎えた。
「うむ、仲間の様々な不祥事が重なって経済的に困窮している。それを打破するための大作戦だ。ともかく儲け重視のクエストを受注したい。見ての通り、こちらはチート級の強者揃いだ。どんな難敵も駆逐して全員揃って生還して見せよう。」
「そういうことでしたら、上級パーティーも手を出せない危険地域ドラゴニック・ヘブンはいかがでしょう?文字通り、さまざまなドラゴンが跳梁跋扈する非情に危険なエリアです。制覇できれば貴重なドラゴン素材がザックザクですよ。」
「良いだろう、それを受注しよう。」
「ありがとうございます。ではこれが受注証です。」
「みんな、気を引き締めて行こう!相手は大物だ。連携重視で頼む!」
「オッケー。」メロがとても軽い返事をした。
勢いで出てきてしまったが、パーティー構成はそれほど練られたものではない。まず前衛として敵の攻撃を受けるタンクがいない。タンクと呼ぶには脆すぎるJK隊を前衛にするしかない。エラとメロはいつもの遊撃ポジション。ヴァイタルアブソーブで敵の精気を吸ってレベルを下げてからの闇魔法。これにはイナンナも加わってもらう。敵が闇属性の場合、イナンナは光魔法を放ち、エラとメロはお休み、もしくはポーション投げ。後衛のアタッカーの要は新生メートヒェン。四大の精霊の加護を得た属性魔法で敵の体力を削ってもらう。前衛のJK隊のHP管理は俺の役目で、戦況をしっかり観察しながらポーションを投げる。同時にMP管理も必要になるので、適宜エラとメロにも声がけしてアイテムを投げてもらう。万が一HPゼロで倒れたら、リヴァイヴロールを扱えるのは俺しかいない。
「亜依、霧江、菫玲、天華、この戦い、おまえたちにかかっているといっても過言ではない。ドラゴンの猛攻に耐えて攻撃を加えるというもっとも過酷な役だ。奮闘を祈る。」
「了解です、プリモ様!」
「おや、なかなかの大所帯じゃないか。」ドラゴニュートの女が現れた。
「どうした?単体でかかってくるつもりか?」なぜかメートヒェンがリーダーのように声を上げた。
「まさか、そんな命知らずじゃないよ。取引がしたいだけさ。」
「取引だと?」
顔で相手を判断してはいけないと思うが、こいつはいかにも狡猾そうだ。いや、異種族だ。顔の印象なんて判断できるのか?そもそも顔で善良か邪悪を判断するのはせいぜい19世紀までのこと、ロンブローソの学説は完全に否定されている。だがどうしても顔の印象に囚われてしまう。俺は警戒した。
「ああ、あんたらどうやらドラゴニック・ヘブンに行くようだが、近道を教えてやろう。その代わり...頼みがあるんだ。」
「何だ、言ってみろ。」またメートヒェンがしゃしゃり出た。
「あのエリアを支配しているのはドラゴン・クイーン、恐ろしい相手だ。だがおまえたちなら倒せるかも知れない。もし倒したら、その胸飾りを持ってきて私に渡して欲しい。礼なら、ほら...」ドラゴニュートは光り輝く大きなジェムを見せた。
「良いだろう。」またメートヒェンがしゃしゃり出て勝手に取引をまとめた。
「良かった。ではこの道を薦め。」
ドラゴニュートが何やら呪文のようなものを唱えると、壁が開き広い道が現れた。ドラゴニック・ヘブンに続く道だ。
「必ず勝利して戻れよ。」ドラゴニュートは手を振るとどこぞへ消えた。
道ができたのなら進むしかない。俺たちは警戒しつつ、ドラゴニック・ヘブンを目指して進んだ。敵のエンカウントはなかった。
「ピーピー、クルゾ、アオイノ!」ミミちゃん警報だ。
「こいつは電撃属性だ。当たると麻痺する、気をつけろ!」またしてもメートヒェンの指示だ。しかも的確な指示だ。
「こんの~、ビリビリ精気よこせ!」メロがヴァイタルアブソーブで精気を吸い、ワンチャン電撃スキルももらえるのではと期待している。
「あら、刺激的な精気ね。」エラは優雅に、しかし大胆に精気を吸った。
「こいつはどっちじゃろうな?とりあえず光を食らうか?」イナンナの光魔法。
「電撃は四大エレメントのどれにも属さないが...土と風は関係しそうだ...むう、わからない、とりあえず燃えてみるか?」メートヒェンの火魔法。
「菫玲!おまえのトールアックスは電撃付与だから攻撃するな!」俺は自分が買い与えた武器のことはしつこく覚えている。
菫玲は物理攻撃を断念して土魔法で土壁を作った。そこにドラゴンのブレス。ヴァイタルアブソーブでレベルが下がったとは言え、前衛全体にかなりのダメージと、さらに亜依と霧江は麻痺になった。麻痺を治すキュアロールは俺には使えない。キュアを唱えられるのは、ここでは天華だけだ。だが天華はそれを忘れてリコイルランスで執拗にドラゴンの目を狙っている。
「天華、キュアだ!」と俺が叫ぼうとしたのに、またしてもメートヒェンに取られた。
ヴァイタルアブソーブでこれ以上精気を吸いきれなくなったエラとメロは激しいオーラを放っている。
「エラ、メロ、闇魔法を放つ前に前衛にポーションを投げてくれ!」これは俺の指示。
前衛が立ち直ったのを見て、エラとメロは出力最大の闇魔法を放った。ブルードラゴンの表皮の色が土気色に変わる。
「ほお、闇のほうが効くようじゃの。」イナンナも闇魔法に切り替えた。
「こんのーっ!」亜依と霧江の剣がドラゴンの翼を切り裂く。そして天華のリコイルランスがようやくドラゴンの目を貫いた。ドラゴンはもうブレスを吐く力がない。
「燃えろ!」
メートヒェンの火魔法が炸裂して、弱ったドラゴンの身体は炎上した。
「倒せはしたが、こっちもずいぶんと消耗したの。」
イナンナは珍しくMP回復薬を飲んでいる。燃やしてしまったので、歯と心臓ぐらいしか素材は取れなかった。うむ、これはいかん。とどめは物理で、そう徹底しよう。
「ということでメートヒェンよ、とどめに火魔法で燃やすのはやめてもらえるか。素材が取れなくなる。とどめは物理で、ということで頼む。」
「ピーピー、マタクルゾ、コンドハキイロイノ。」ミミちゃん警報だ。
「イエローか。こいつも雷撃系だ。そして性格は粗暴、物理で突進してくる。」
メートヒェンはさすがシュロマンス出身者の末裔、博識だ。もっと重用しておけばこれまでも有利に戦えたのに、ないがしろにしてゴメン。
「ねえ、これって黄色なの?金色じゃなくて?」
メロがカネの臭いを嗅ぎつけたようだ。たしかに金色っぽい。
「なあメートヒェン、ゴールドドラゴンなら何属性なんだ?」
「その場合は無属性。魔法攻撃があまり効かないし、物理にも強い厄介な相手。」
「とりあえず吸いましょ。」エラがヴァイタルアブソーブで精気を吸う。
「あら、ゴージャスな味がするわ。」
「え、私もゴージャスを吸う。」メロも全力で吸って美味しい笑顔。
「吸われたドラゴンがおとなしくなっておる。」
イナンナの指摘通り、ドラゴンは飼い猫のようにおとなしくなった。精気を失って闘気も失ったのか?
「こいつが金なのか黄色なのか調べてみよう。菫玲、尻尾の先を切り落としてくれ。」
菫玲が斧でドラゴンの尻尾の先を切り落とした。血は出なかった。そしてドラゴンは反応しなかった。爬虫類だからすぐ再生するだろうか?そもそもドラゴンは爬虫類なのだろうか?俺は切り落とした尻尾の先をメートヒェンに渡した。
「なあメートヒェン、これって金か?」
「金の比重は19.32、純金の場合だけど。たいていは他の金属が混じり込んでいるから重さから判断することはできないわ。でも融点が1062℃なので、火魔法で溶かしてみましょう。生体組織なら焦げるけど金なら溶ける。」
メートヒェンの火魔法で尻尾は溶けた。金だ。さて、だったらどうする?何だかメロに吸われて懐いてしまったように見えるのだが。
「美味しかったわ。美味しすぎてプファアってなりそう。」エラが口を固く結んで粗相をしないようにこらえている。
「こいつは美味しいゴールドドラゴンのようじゃの。」イナンナは舌なめずりをしている。
「金は食べられません。」メートヒェンが冷静に諭す。
尻尾を切っても怒らない。翼を切ったら怒るかも知れない。足の爪を切ったら?飼い猫のようになっているので大丈夫なんじゃないか?
「霧江、その双剣で足の爪を削いでみてくれ。」
思った通りだ。目を細めておとなしくさせるままにしている。なんか懐いてしまったのを殺すのも気が引ける。よし、取れるだけ金を取って放置しよう。帰りにまた会ったら、再生した部分を削って持って帰ろう。待てよ、こいつからは無限に金が取れるんじゃないか?どこかで飼おうか?
「プリモ、何やら良からぬことを考えているようだが、やめておけ。ドラゴンは飼えない。」メートヒェンにはすべてがお見通しだった。
ゴールド・ドラゴンが懐いてしまいましたね。これは奇跡なんです。ぼくが起こした奇跡ではなくて、作画AIがまるで懐いちゃったような絵を描いたので、ストーリーもそれに合わせました。作画しながら物語を書くと、たまにそんなことが起こってしまいます。




