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巫女とサキュバスと異世界と、そして人文知は役立たず  作者: 青い水


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モフ子とフェザリアはかつての同級生

モフ子とファザリナは故郷の獣人学校で同級生。読み書きを覚えてすぐファザリナは「己の道を切り開く」という目標を立てて王都で冒険者に、一方モフ子はプリモが設立した奨学金で王都の上級学校へ進学した。いまここに、かつての同級生が力を合わせてプリモのツケでいろいろ買物をするみたい。

「なあ、ホントに測定に行くのか?」ファザリアはまだ疑心暗鬼だ。


「ホントよ。エミリーさんが言ってたもん。全部お兄ちゃんのツケで買って良いって。女は値段を気にしちゃダメなんだって。全部ツケにして男が払う、それがアメリカン・ウェイ・オブ・ライフだって言ってたよ。アメリカが世界の模範だから、それに従っておけば大丈夫なんだって。」


「そういうものなのか。」


「そういうものらしいよ。」


「なら私も付き合おう。」


「うん、一緒に計測してもらおう。」



「魔法屋マンソンジュ王都店へようこそ!あら?獣人さん?」


「はい、私たちお兄ちゃん、えーとプリモさんのツケで計測に来ました。」


「おやまあ、獣人さんとは珍しい。どんな結果が出るか楽しみだわ。ではこちらへ。」


挿絵(By みてみん)


「あらら、びっくりだわ。あなた、すごい!火、水、光、治癒の適性があります。」


「すべて習得で。」モフ子は迷いなく言い切った。


「では、次は私だな。さて、何が出るか。」



「出ました。ファザリナさん、あなたには土と治癒の適性があります。」


「おお!武道家にピッタリだ。」


「はい、おめでとうございます。費用はプリモ様のツケにします。」


「良かったね、ファザリナちゃん。」


「うむ、これで防御壁を作ったり自己治癒ができる。」


「じゃあ次はブティックへ行こう!」モフ子は都会の買い物の味を知ってしまった。


「おう、だが私は別に服はいらないのだが。」


「ダメだよ、女の子なんだからおしゃれしないと。お兄ちゃんが全部ツケを払ってくれるんだから、値札を見てはダメとエミリーさんが言ってた。」



「いらっしゃいませ、ブティック・ブットへようこそ。」ヒラメのような店長が出迎えた。


「どうぞご自由にご覧ください。ご試着の際はスタッフへお声がけください。」


「うわあ、いろんな色のいろんなデザインの服がいっぱい!」


挿絵(By みてみん)


「こうして実物を見ると欲しくなってくるな。」ファザリナの目も輝いている。


「ファザリナちゃん、いっぱい試着していっぱい買おう!」



 そのころ翡翠は、ようやく霊力の制御に成功して月煌を体内に戻せるようになった。


「あいつは外に出ている間は私を観察して記憶して、それをキャットバットに伝えるのか、あるいはキャットバットが読み出すのかわからないけれど、迂闊に外に出しておくべきではない。キャットバットには強めに警告しておいてから大丈夫だろうが、キャットバット以外にも記憶を盗み見る存在が現れるかも知れない。厄介なことになった。だが、こうして体内に封じ込めることができるようになったので、もうあのような事態にはならないだろう。あやつを体内に取り込むと霊力は最大値になるので、標準的な分身を7体は出せる。演奏をするなど特殊なスキルを付与すると4体ぐらいに減るが。ジェムドラゴンは分身2体で倒せるので3体は行ける。どうする、行くか?」


「翡翠さん、怖い顔して何を考えているの?」プリモが尋ねた。


「ジェムドラゴンを狩りに行こうかと。」


「ああ、あの分身を突貫させて中から倒すやつね。」


「あれは他者を犠牲にしているわけではなく、あくまで私の分身、私の一部なので、倫理的に問題はないはずなのですが、美学的には少し...」


「そうだね、あれは見ているのが辛い。咀嚼音はトラウマになったよ。」


「でも、巨額の資金を手にするにはジェムドラゴンを倒すのが一番手っ取り早いのです。」


「そんな巨額の資金、何に使うの?」


「この世界に大学を作ります。」


「え?」俺は言葉を失った。


「この世界には大学がありません。それゆえ学問が存在しません。技術はあります。だけど科学はありません。経験を積み重ねてそれを改良することはできますが、まったく新しい視点に立って世界を解釈することはできません。」


「でも魔法もあるし、みんなそれほど知識に飢えているようにも見えないけど。」


「はい、知識はガルガンチュアにとっての食べ物と同じで、食べれば食べるほど食欲が増すように、知れば知るほどもっと知りたくなるものです。研究者はそうやって生涯を研究に捧げてきたのです。私はこの世界の人々にもその経験を、その悦びを味わって欲しい。大学はそのために必要なのです。そしてプリモさん、大学が設立された暁には、あなたにそれを委ねたいと思っています。今この世界で大学を深く経験したのは私とプリモさんだけです。しかし私はプリモさんが作り出した虚構の存在。大学を運営するわけには参りません。プリモさん、あなたがこの世界の大学の初代学長になるのです。」


「ちょ、ちょっと待ってよ。俺、そういうのに向いてないから。」


「お引き受けいただけないと?」翡翠さんは今にも刀を抜きそうな剣幕で俺を見た。


「せめて王様に相談してから公募にしようよ。学長人事を陰で勝手に進めるのは良くないよ。」


「そういうものなのですか?」


「ああ、そういうものだよ。」俺は何とか煙に巻くことに成功した。




「いっぱい買っちゃったね。」


挿絵(By みてみん)


「プリモに悪いな。」ファザリナは少し罪悪感を感じた。


「何言ってるの?いい女は値札を見ないで服を買って、男は喜んでそのツケを払う、それが世界のルール、アメリカン・ウェイ・オブ・ライフだよ。」モフ子は優等生なので何でもすぐに覚えてしまう。


「これからどうするんだ?」


「当然、クエストへ行く。」


「マジか?おまえ登録証がないだろうが。年齢制限大丈夫か?」


「ふん、12歳を過ぎれば登録できるんだよ。行くよ!」



「冒険者ギルドへようこそ...って獣人のガキじゃねえか!」


「失礼だな。これでも王立上級学校の生徒だよ。冒険者登録に来た。はい、これが学生証。年齢条件はパスしているはずだよ。」


「おう、それじゃこっち来な。」


 モフ子はさまざまな検査の後に冒険者登録を済ますことができた。体力1,力1,知力10、防御力2、魔法防御3、素早さ5、総合ランクD。


「まあ、こんなもんね。まだまだ伸びしろはあるわ。」


「で、どんな敵を狩る気なんだ?」


「シルバー?」


「は?」


「私の火魔法で銀を溶かす。銀の融点は962℃、金や銅より低い。MP回復剤はたくさん持ってきたので、ひたすら銀を溶かして回収する。溶かしきれなくて近づいて来たら、ファザリナ、頼むわね。」


「だったらとっておきのエリアがありますよ。低層の奥地、通称シルバー素材センター。これでもかっていうくらい出ます、シルバーが。」


なんかモフ子、王都に染まりすぎて性格が変わったかも。アメリカン・ウェイ・オブ・ライフ――エミリー経由なので怪しい――を信奉しちゃってますけど。

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