滅びと破壊の悪魔、サキュバス登場
これは完全に戦闘シーンが始まりますね。荒事が嫌いなメフィストフェレス、どうなるのでしょう?
「あなたは滅びと破壊の悪魔ですよね、アスモデウスくん?この世界に何の用で?」メフィストフェレスは警戒を解くことなく距離を取りながら尋ねた。
「知れたことです。この世界に滅びと破壊をもたらすために決まっているじゃないですか。」悪魔アスモデウスは警戒度ゼロで余裕の笑顔で答えた。
「今そんな活動をされると困るんですがね。」メフィストフェレスは攻撃の間合いを計りながら近づいた。
「人間の味方をするんですか、メフィストフェレスくん?」アスモデウスは町中であることなど意に介さない様子で悪魔の巨大な姿を現した。
「私は矛盾と反転の悪魔ですよ。そんな単純な存在ではない。あなたはまるで悪魔というより魔物ですね。」
「悪魔と魔物の違いとは何でしょうね?力を振るい、存在を示す――それが私の在り方です。あなたの言葉が何を意味しようと、私は欲望のままに滅びと破壊を与えるだけです。」アスモデウスは薄ら笑いとともに悠然と答えた。
「良いでしょう。私がいる場所で天変地異のような大量破壊事件など起こされてはたまりません。私はいちおう召喚された身でしてね、召喚主に危険が及ぶようなことは看過できないのです。あなたもそれなりの位階の悪魔だから死ぬようなことはないでしょうが、魔界に逃げ帰りたくなるくらいの痛い目を見る覚悟はしてもらいましょう。」
メフィストフェレスは皮肉っぽく口角を上げ、慎重に間合いを詰めた。ドラゴンのブレスも奸計の材料にするほどの反転と矛盾の悪魔は、アスモデウスのような巨大で威圧的な悪魔に対しても微塵も怯む様子はない。
アスモデウスが跨がるドラゴンのブレスがメフィストフェレスを飲む込んだ。メフィストフェレスはそれを避けようともせずに何やら短く呪文を唱えると、ドラゴンの頭は内と外が反転し、炎は喉から内臓へ放たれ、頭部は肉塊になった。頭を失ったドラゴンは絶命した。
「まだ続けますか?」メフィストフェレスは冷たい笑みを浮かべ手、肉塊となったドラゴンの頭をつま先でつつきながら続けた。「もちろん続けますよね?破壊の悪魔の誇りは撤退を許さないでしょう。たとえあなたの中に怖れが芽生えたとしても。」
アスモデウスは自らのブレスを浴びせようとしたが、思いとどまった。ブレスを吐けばドラゴンの二の舞になる。ならば力でねじ伏せるしかない。あんなちっぽけな悪魔など八つ裂きにしてやれば良いだけのこと。アスモデウスは猛然とメフィストフェレスにつかみかかった...が、俊敏なメフィストフェレスは嘲りの笑い声とともに跳躍でその攻撃をかわし、近くの建物の上に降り立った。
「なるほど、腕っ節自慢ですか。ならばそのご自慢の腕もひっくり返して差し上げましょう。」メフィストは再び短い呪文を唱えた。
「ぐわっ、腕が...腕が...」アスモデウスの両腕が反転し、肉塊になって大量の青黒い血をあたりに振りまいた。
「あとは山羊頭と使いどころのないお飾りの翼だけですね。悪魔同士なのでせめてもの慈悲です。魔方陣を構築できるうちに魔界へ帰りなさい。アデュー、アスモード!」
アスモデウスは憤怒の形相で魔方陣を呼び出し、消え去った。
「さて、旦那のお勉強は終わったころでしょうか?」メフィストは瞬く間に人間の姿に戻り王立図書館へ向かった。
王立図書館前にひとりの女が立っていた。邪気も殺気も感じられない普通の女性だ。しかし、図書館前に近づいて来たメフィストフェレスは、この女に何やら普通ではない気を感じ取った。
「失礼だが、あなた...人間ではありませんね?」メフィストフェレスは、この台詞にふさわしくない親しみのある笑顔で声を掛けた。
「あら、良くわかりましたね...って、あなた悪魔じゃない。」女性は鼻で笑った。どうやら悪魔に全く恐怖心を抱いていないようだ。
「ずいぶん長く生きていらっしゃるようだ。」
「あら、女性に年齢の話題を振るのは失礼よ。」
「ははは、これは失敬。」
外でそんな会話が交わされているとはつゆ知らず、俺は図書館で興味深い事実を数多く調べ上げていた。なにせ人文知を極めた者だ。こんなことは朝飯前だ。朝飯も昼飯もがっつり食ったけどな。この異世界はかなり広大だ。地球よりは小さいが、踏破するのは容易ではない広さだ。地球と比較してしまったが、この世界が球面の一部だという記述はどこにも見つからなかった。天体の記述も星座の物語だけに限定され、天文学という概念はない。どうやら俺がいまいるのは、この世界で最大の大陸のようだ。この大陸の他にいくつかの中小大陸、そして数々の島々からこの世界は成り立っている。歴史の記述はおよそ1500年前から始まっており、それ以前は神話として語られている。歴史で興味深かったのは、およそ100年前に西南の島で起こったヴァンパイア事件だ。始祖を頂点にピラミッド型のヴァンパイア組織があって、底辺から頂点へ上納という形で搾取が行われていた。しかし最下層のヴァンパイアが吸血をしなくても生きていける「食える」というスキルを身に付けたのを発端に、ヴァンパイアを離脱して人間になろうとする勢力が台頭し、ついには始祖を滅ぼしたとある。あれ?これ、俺が書いた小説とほぼ同じじゃん?さて、調べ物も終わったことだし、食い物ばかり出て来る歴史を調べていたら腹が減った。そろそろ宿へ帰るか。
「さ、旦那、調べ物は終わりましたか?」
「うん、たくさん収穫があった。」俺はそう答えてメフィストの傍らに立つ女性を見た。
「あら、あなたがプリモさんね。いま彼から話を聞いていたところよ。私はエラ、よろしくね。」エラと名乗った女は、柔らかな微笑を浮かべながらも、一瞬で場の空気を掌握したような、そしてまるで昔からの知り合いのような自然な態度で声を掛けた。
「旦那、この人はなかなかの御仁ですよ。旦那の今後の活躍のためにもお知り合いになっておいたほうが良さそうですぜ。」メフィストは何か含むところがありそうな顔で言った。
「そうか。ならエラさん、これから俺たちと食事に行きませんか?泊まっている宿屋の食堂はかなり上手い料理を出すんです。」
「まあ、ご一緒してもよろしくて?」エラは素直に嬉しそうに応じた。
ついに満を持してサキュバスのエラ姉さんが登場です。皆さん、楽しみに待ってましたか?