クラリモンドとの別れ
クラリモンドとのお別れの日が来ました。死んでから過去に一度消されたことがあるので、あまり気にはしてないようです。
翌日、クラリモンドの消滅の日を迎えて、俺たちは店の前で彼女の前に立った。翡翠さんも、まだふらついていたが、気力でクラリモンドの見送りに出てきた。天使たちは空を舞っている。
「クラリモンド、本当にありがとう。」エラがクラリモンドの手を取った。
「忘れないよ、絶対忘れない。」ミナルナがユニゾンで歌うように言った。
JK隊もエルフたちも駆け寄ってクラリモンドの手を取った。クラリモンドは消滅の直前なのに柔和な笑顔を見せている。俺もクラリモンドの手を取った。
「静かに眠っていたのに、呼び出して悪かったかな?」
「いいえ、幸福でした。短くても長くても幸福は一緒。どんなに長く続く幸福もいつかは終わるのですから。」
「1週間の間、1回も血をあげる機会がなかった。」
「ならば、最後の記念に1滴だけくださいな。」
クラリモンドは宝石のように微笑んで俺を抱きしめた。そして唇を重ね、どういう仕組みかわからないが、俺の舌から血を1滴だけ取り出して舌先で舐めた。そしてそのまま、身体が薄くなって行く。
「行ってしまったか。」そう呟いた俺にエラが声をかけた。
「お別れのチュウをしたの?」
「ヒュウヒュ~、チュウした、チュウした!」メロが手を叩いてはやし立てる。
「違う!あれは、お別れの記念に血を1滴...」
「チュウして渡したのね。」エラが優しく微笑んで言った。「私が精気をもらったときみたいに。」
「メロももらった~♪チュウしてもらった~♪」
「もらった」の目的語を省略すると意味が違ってきそうだ。いや、この2人の言葉は全くフォローになっていない。むしろ俺の立場は悪化の一途だ。
「いいなあ、みんなずるいな~。」ミナルナが物欲しそうに近づいて来た。
「私たちはいらないかな。」エルフたちが顔を見合わせて、それからこちらを見た。
「いりませんね、そういうのは。」天使たちも空から「いりません」の合図として両手をクロスした。
「....」翡翠さんは無言でその場を後にした。
「やっぱうちらもいらないや。」ミナルナがバク転しながらその場を離れた。
誰もあげるなんて言っていないのに、みんな口々に「いらない」宣言をして去って行った。なんだ、この屈辱感は?
「何かかわいそうね、プリモっていつも。」
エラは慰めるつもりだったのだろうが、「いつも」が余計だ。いつも俺がかわいそうな奴みたいじゃないか。
きょうは翡翠さんの休養のために店は休みだ。みんな各々、クエストに出たり町に買い物に行ったりした。天使の2人はドレスを新調しにブティックへ出かけた。
「いらっしゃいませ。ブティック・ブットへようこそ。」ヒラメのような主人が出迎えた。
「ポーチが付いている新しいドレスが欲しいの。接客の場で着るので、シックで上品なのが良いわ。」セレスが説明した。
「お客がたくさんチップをくれる気になってくれるドレス。」ステラの要求は生々しい。
「そうですね、シックと上品さを求めるなら、こちら、セルリアンブルーなんていかがでしょう?お客様の黒髪と合わせると神々しさが増します。」
「これは軽くてフィット感も良いわね。」
「チップをたくさんもらうなら、やはりかわいらしさが引き立つこちらのライラックのドレスが、お客様の白い肌と美しい金髪にピッタリですよ。」
「わあ、これカワイイ。これ、いただくわ。」ステラは値段も聞かずに即決した。
「私もこのセルリアンブルーにしようかな。おいくら?」セレスはしっかり者なので値段を確認する。
「こちらのドレスですと、400ゴールドです。この色は人気ですので、服地をたくさん仕入れますからお値段もお得です。そして、こちらのライラックですが、服地が外国からの輸入で縫製にも手間がかかっておりますので、少し値が張ります。900ゴールドです。」
値段を聞いてもステラは全く表情を変えなかったが、セレスは自分のことではないのに少し驚いた顔をした。
「私たち、羽根があるのでお直しお願いできますか?」
「はい、それではこちらへどうぞ。採寸いたします。サイズが合わないときは作り直しますね。」
エラとメロとJK隊は魔法屋マンソンジュ王都店に来ていた。JK隊のレベルが上がったので、魔法適性を測定するためだ。
「マンソンジュへようこそ。」王都店の店長はなかなかの美人だった。
「こんにちは。きょうはこの子たちの魔法適性を測定しに来たの。お願いできるかしら?」
「はい、ではこちらへどうぞ。」
JK1号は店長に促されて測定器に手を当てた。水晶玉がクルクルと色を変えて輝いた。
「おお、これは...」店長は満足そうな笑顔で言った。「適性があります。火の魔法です。ロールはどういたしますか?」
「習得でお願い。」エラが財布を取り出しながら答えた。
「お支払いは全員が終わってからで良いですよ。では次の方。」
2号は水、3号は土、4号は治癒と光魔法の適性があった。これは珍しい。
「サキュバスのお二人はいかがなさいますか?」
「どうせ闇しか持ち合わせていないので遠慮しておくわ。」
「ねえ、このままクエストへ行こうよ。」メロが提案した。
「そうね、ヒーラーもできたし...そうだ!」エラは何かひらめいた。
「なあに?」メロはきょとんとした顔で尋ねた。
「店に戻ってミミちゃんを連れてきましょう。あの子、このごろみんなにあまりかまってもらえてないの。」
「あ、ミミちゃん、私の子なのに忘れてた。」メロは頭を掻いた。
そう、メロは自分をママと呼ばせて(たつもりだったけれどミミちゃんは喋れないので呼んではくれなかった)のに、すっかり忘れて餌もあげていなかった模様。これはひどい。




