誠意と甲斐性
クエストが終わったら打ち上げ、いやお買い物。
今回のクエストのMVPは、言い出しっぺはエミリーだったが、そしてオーバーヒールでパーティーを支えた天使2人も頑張ったが、やはり四肢を切り落とされながらも奮闘したJK部隊ではないだろうか?JK1号、2号など、固有名を付けてもらえないモブっぽい立ち位置なのに、あのビジュアルでボコられ盾を演じてくれる尊さに俺は感動を禁じ得ない。
「さあ、約束の装備新調に行こうぜ。」俺はゴールドをかき集めてJKたちを誘った。今回のクエストで得た素材は、思ったより高値で引き取られたので、エミリーは欲しかった自分専用のアイテムボックスを手に入れた。あいつは大量の弾丸とガトリングガンを持ち歩かなければならないので、どうしても専用アイテムボックスが必要だったのだ。天使2人は何の物欲もなかったので、手に入れたゴールドは王国の福祉協議会に全額寄付した。実に天使らしい。メートヒェンは何にお金を使ったのかわからない。魔道書だろうか?魔法の店、たしかマンソンジュと言ったか、そこには怪しげな高額商品がたくさんあった。JK隊の取り分はそのままJK隊に渡し、新調する装備は俺がポケットマネーから支払う。今まで雑に取り扱ってきたお詫びもかねてだ。都合の良い使い方を甘んじて受け入れてる人々にこそ誠意を見せなければならない。俺はかなり女神の忠実な信徒になっていた。
「さあ、武器屋だ。みんな好きな武器を選んでくれ。親父、相談に乗ってやってくれ。」
「わーい、私はやはり片手剣と盾のスタイルを崩せないな。親父さん、何かお奨めある?」JK1号が尋ねた。
「最高級品はミスリルソードだ。力があればアダマンクレーテの甲羅も切り裂ける。」
「じゃあ、それください。」
「私は双剣。何かある?」JK2は双剣なのか。同じように見えても個性があるんだな。同じように見えていたということが雑に扱っていたと言うことか。肝に銘じよう。
「双剣か。ならばこのディアマントバゼラードがお奨めだ。なにしろ硬くて軽い。手数が多ければドラゴンの鱗も切り裂ける。」
「わあ、綺麗!これが欲しい!」
「私は片手斧が欲しい。」JK3号の得物は見た目に合わないまさかの片手斧だ。
「ふふふ、片手斧ならこれしかない。トーアアクスだ。投擲しても戻ってくるぞ。しかも電撃付与だ。」
「え、それ欲しい!」
「私は槍。本当は弓と槍でアタランタさんのように武装したいけど、弓はどうも無理っぽいので槍で遠隔もカバーしたい。投げても戻ってくる槍はない?」JK4号はアタランタ推しだったのか。そういえばよくジョギングをしていたっけ。雑にJK隊として見ないでひとりひとり見れば、それぞれの個性が見えてくるな。
「これはユニークアイテムで、世界にこれしかありませんが、リコイルランス。敵に刺さらない場合は戻ってきます。」
「わあ、それ欲しい!」
「親父、全部買いで頼む。」ああ、人生で一度は言ってみたかった台詞だ。
「ありがとうございます。総額58000ゴールドです。」
今回のクエストで俺が得た稼ぎのほぼ5倍、まあそうでしょうよ。そうなると思っていたよ。でも大丈夫だ。俺は富裕層の経営者で人気作家だからな。いや、本当に大丈夫か?まだ武器しか新調してないぞ。次は防具なんだが。
「ねえ、プリモ、次は防具屋だよね?防具屋の次にお洋服屋さんにも行きたい。」JK1号は鼻息が荒くなっている。しかもいつのまにか呼び捨てにもなってるし。雑に扱わない、誠意を持って接する、そうするとこっちが雑に扱われるのか?
「きょうは武器だけにして、次の攻略が終わったら防具も揃えようか。その...お洋服はさらにその次の攻略のあとにでも...」
「は?意味わかんないんですけど!」JK1号がまるで本物のJKのような口調で言った。
「何でも買って良いって言ったじゃん!」JK2号も続いた。
「わかった。悪かった。JK3号と4号もたぶん言いたいことがあるだろう。誠意が足りなかった。でもちょっと手持ちが足りないんだ。町の金貸しに行くとしても担保がない。最後まで誠意を持って君たちに付き合うつもりだが、今は手も足も出ない。」
おかしい。金策クエストでウハウハになる予定だったのではないのか?下手すると店の権利書が取り上げられる流れになっている。見かけだけで本当は魔物だというJK隊、誠意を持って接していたらかなりヤバい。誠意は理不尽に高価だ。待てよ、あの天使たちも、都合良く動いてくれているけれど、いつか誠意を持って接することが必要になると、タダより高いものはないとばかりに何か犠牲を要求することになるのだろうか?安心できるものなんか世の中に何もない。俺は疑心暗鬼になった。誠意?いや、誠意のふりで十分だろう。そもそも誠意と誠意のふりと、相手にとって何の違いがあるのだろう。存在と仮象、存在は不可視で仮象は見える。
「なぁ~んだ、プリモって案外甲斐性がないのね。」JK3号が頬を膨らませた。
「でも持ってないなら仕方がないんじゃない。」JK1号が取りなしてくれそうだ。
「誠意はあるけど甲斐性がないと誠意はないけど甲斐性はある、どっちが良いかな?」JK3号が禅問答というか倫理学的思索を始めた。
「そりゃ甲斐性が最強っしょ。私たちに何でも買ってくれるなら、他の子に何でも買ってあげてもノー・プロブレム!」JK2号は双剣使いだけに二股に寛容なのか。
「じゃあ、次のクエストのあとで防具屋ね。プリモが甲斐性なしなので仕方がない。」JK1号は1号だけに長女っぽいまとめ方をしてくれた。俺は何も悪くないのになぜか泣きそうになった。
「あー、いたいた、何やってんだ?」エミリーが自分専用アイテムボックスを抱えて上機嫌でやってきた。
「あ、エミリーさん。あのね、プリモが甲斐性ないんだよ。」JK4号が状況をチクった。
「甲斐性?テキサスなら石油を掘り当てれば一挙に甲斐性持ちだな。うちも油田を1つ持ってるぞ。」
「え?エミリーさんってお嬢様なの?」JK3号がうらやましそうにエミリーを見上げた。
「いや、そういうのがイヤで家を出たからな。兄貴も同じだ。相続は放棄してないけど、土の中から吹き出してきたもので急に金持ちなんて、なんだかかっこ悪いだろ?欲しいものは...」エミリーはホルダーから取り出したピースメーカーで華麗なガンスピンを決めて言った。「欲しいものは自分で手に入れないとな。」
「私、ちょっと間違っていたかも...。」JK3号がしおらしい顔をした。「甲斐性なんて言葉、他人の評価に使うべきじゃなかった。プリモ、ごめん。」
斧を持って「プリモ、ごめん」、これは反則級のギャップだな。でも、最初は均質なJK風魔物だった彼女たち、徐々に個性が備わってきた。1号2号とモブ扱いしてきたが....いや、これ以上名前を付けるのはやめよう。「メモリーの上限に近づいています」という警告が出そうだ。
誠意を尽くすと誠意が返ってくるとは限らないのですね。でもJK隊は、これから経験を積んでだんだん人間らしくなるのです。だって、まっさらな魔物だったのですから。




