ジェムガーゴイルを求めて
いよいよクエストに出発するよ。オーバーヒール部隊、どんな戦いになるのでしょう?
ギルドでエミリーたちはクエストを探していた。ここはこの国で最も有名なダンジョンがある冒険者の町だ。たくさんの冒険者たちが一攫千金を求めて国中から集まってくる。この町の経済の半分近くは冒険者によって支えられていると言っても過言ではない。
「何かめぼしいのはあったか?」俺はあまり期待せずに尋ねた。
「ゴールドゴブリン、ジェムコボルド、プラチナドラゴン...すべて深層に少数いるようだ。でも、少数だから、出会える確率は少ない。そして、このダンジョンにはこういうレアモンスターを専門に狙うパーティーが集まってきている。新規で参入しても、あまり期待できない。」学識あるメートヒェンが説明してくれた。
「こっちには回復が無尽蔵の天使が2人もいるんだ、薄利多売じゃないけれど、弾が尽きるまで倒しまくって素材をごっそり売りさばくに限るだろう。」
「あのー...」JK3号がおずおずと手を挙げた。「私たち、痛覚が鈍いので痛いのには耐えられるんですが、もし、手足がもげたり首が落ちたりしたらどうなるんでしょう?」
「大丈夫ですよ。私たちがすぐつなげます。死んでもすぐ生き返ります。」ステラが明るく答えた。
「防具や盾が壊れたら新しく買ってもらえるんですか?」今度はJK2号が手を挙げずに尋ねた。
「もちろん新調してやるさ。それも最高級のを。」俺は富裕層の経営者として、誠意を持って彼女に答えた。たとえ魔物であっても、誠意は大事だ。
「あ、これは!」貼り出されたクエストを吟味していたメートヒェンが何かを見つけた。「これはどうでしょう?ジェムガーゴイル討伐。」
「なんだか儲かりそうな名前だな。」エミリーが反応した。
「場所はかなり遠いのですが一本道です。ジェムガーゴイルが出現する場所まで、中位モンスターが5種類、それぞれ10体前後の集団で襲ってきます。つまり目的地に到着するために50体以上の中位モンスターを倒さなければなりません。」
「それは俺たちのオーバーヒール部隊にはうってつけだ。無尽蔵のヒーラーが常時ヒールをかけ続けて前衛は常に無傷、消耗を恐れずにひたすら狩り続けて目的地まで進む。」
「よし、行こう!クエスト受注!」エミリーがギルドの受付で受注証をもらってきた。
「何が出るかな~。」JK1号が剣を振っている。
「あ、出た。」言うが早いか、エミリーのピースメーカーが火を噴き、ワーカンガルーが倒れた。その屍を超えて2体目がJK1号にドロップキックをかましたが、盾で防がれた。しかし、その重い一撃にJK1号は耐えられずに尻餅をついた。そこを目指して3体目のワーカンガルーがドロップキック。あわやぺしゃんこかと思われたが、JK2号が激しく切りつけ、ワーカンガルーは息絶えた。それに続く攻撃も、エミリーの銃撃とメートヒェンの火魔法が迎え撃ち、最初のモンスター・エンカウントは何とか凌ぎきった。
「これがあと4回続くのか。」JK3号は肩で息をしている。治癒魔法は疲労までは治せない。これは盲点だった。
「プリモ、素材を頼む。それから弾をくれ。」アイテム係はけっこう重要な仕事のようだ。
「ワーカンガルーっていうけど、ワーの部分がどこにあったのかわからなかった。」JK4号が肩をすくめた。
「まだ誰も負傷していませんね?」セレスが声をかけた。
「大丈夫だよ~。」JK4号が返事をした瞬間、彼女の首から血が噴き出した。
「ヒール!リコンストラクト!」ステラの治癒魔法で傷は塞がり失血した分は再生された。
「この野郎!」エミリーはカマイタチを射殺したが、第2,第3の鎌攻撃がJKたちを襲った。速い。盾で防ぐには相手の動きが速すぎた。JK1は右腕を切り取られ、JK3は左足の膝から下を失った。
「ヒール!リコンストラクト!」天使2人は同時に治癒魔法を唱え、瞬時に切り取られた四肢は元に戻った。
「敵が多いな。よし、エミリー、これを使え!」俺はアイテムボックスからガトリングガンを取り出してエミリーに渡した。
「この野郎!」エミリーはガトリングガンを腰に抱えて引き金を引き、数百発の銃弾が炸裂してカマイタチの集団は全滅した。
「ガトリングガンの弾倉はあと4個。ジェムガーゴイルがいる目的地まで、敵はあと3部隊。ギリギリだ。」
「ねえ、首を切断されたら即死なんだけど、どうなるの?」JK3号がくっついた左足を撫でながら尋ねた。
「リコンストラクト、リヴァイヴ、ヒールの順ですね。」セレスが落ち着いて答えた。
「首をくっつけて、それから蘇生、そして治療。」ステラが説明した。
「カンガルー、イタチと続いて、次は何かな~?」まだ無傷のJK4は余裕だ。
「出たぞ!」叫ぶと同時に銃を撃つエミリー。ジャイアントバットだ。体長が人間と同じくらい。両翼を広げると3mはある。銃弾を3発食らってようやく1匹が落ちた。何匹いるのだろう?暗くて全く見えない。
「セイクリッド・サンクチュアリー!」ステラが唱えた。
フィールドを聖属性にすることで闇属性やアンデッドの敵を弱体化する魔法だが、効果はあるのだろうか?あった。敵を弱体化はしなかったが、聖属性になったフィールドはぼんやりと聖なる光に包まれる。視認性が高まったのでエミリーの射撃は次々に敵を撃墜した。ピースメーカー2丁の弾丸は空っぽになった。
「エミリー、弾だ!」俺はエミリーに弾丸のつまったガンベルトを投げてから、素材の回収を始めた。カンガルー、イタチ、コウモリ、果たしてどれだけの価値になるのかまったくわからない。
「出た!」とエミリーが言おうとしたが声が出ない。
なんだ、こいつらは?どう見ても猿だな。あれ?見えなくなった。エミリーに声をかけようとしたが声が出ない。だが、JK4人は黙々と剣を振り、猿たちを切り伏せていった。見ざる、聞かざる、言わざる、だけど切られざるではなかった。
「ふう、くだらない敵だった。」エミリーが弾数を確認しながら言った。
こいつらのどこに価値があるかわからないので、3体まとめてアイテムボックスにぶち込んでおこう。残る敵は1グループか。ああ、面倒くさい。
「面倒くさ~い♪」
ん?なんだこの歌声は?
「くさっ、くさっ、くさぁ~い♩」
「おい、セイレーンだ。撃っても良いか?」エミリーが銃を構える。
ダメだよ、撃っちゃ、かわいそう♫ だってかわいいんだからかわいそう♫
「おい、プリモ、どうした?」エミリーがあきれて俺をどやしつけた。
「セイレーンは強いチャームのスキルを持っています。男性はイチコロです。」メートヒェンが落ち着いて説明した。
「キモっ!」JK1が1体を切り捨てた。「死ねっ!」JK2がまた1体。JK隊によってセイレーンはすべて切り伏せられてしまった。
「これで前座はすべてお終いか。最後のやつはあっけなかったな。」エミリーは撃つ機会を逃した銃をくるくる回している。
「男性だらけのパーティーなら悲惨なことになったのかも知れません。」メートヒェンは相変わらず学者っぽい。
「お、あれじゃないか、ガーゴイル...」エミリーが前方にガーゴイルの石像を見つけた。
「石像が動き出すってパターンかな?」俺は小石を拾って投げてみた。当たった。だが何の反応もない。
「ねえ、これただの石だよ~!」JK3号が盾でガシガシ像を殴りながら言った。
「よし、俺に任せろ!」アイテム係にして回収係の俺は、ハンマーを取り出して石像を思い切り叩いた。すると...石像が割れて中からキラキラしたジェムが出てきたではないか。なるほどね、ジェムガーゴイルはたたき割るとジェムが出るガーゴイル像だったのか。そもそもガーゴイルって像だからな。ガーゴイル像って呼び方も変だ。狛犬像みたいだ。よし、宝は手に入った。帰還しよう。クエストはギルドに帰るまでがクエストだ。
なんか変な敵ばかりだった。JK部隊、順調に成長しているようです。痛さを知らないというのが、あのビジュアルでなんとも言えない。




